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第13話 会長たちからの警告

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 大変なことになってしまいました。

 三日前のことです。
 会長、副会長、両名とも席を外しておられた時、エミール王子の婚約者のフェリシア様が、私たちのいる生徒会室に怒鳴り込んできたのです。

 なんですって?
 エミール王子やサラ会長の仕事を肩代わりしていた?
 私たちが王子から聞いた話では、フェリシア嬢は王宮に出かけては王妃様とお茶を飲んで優雅に過ごしてらっしゃると聞きましたが……?

 その一件を皆から聞いたサラ会長は激怒され、エミール王子を連れて王宮に戻っていきました。それから数日、王子も会長も生徒会室には顔をお出しにならずにいたのですが、本日ようやくサラ会長がやってこられたのです。

「まず報告がある、エミール第二王子殿下だが、彼はしばらくの間、生徒会室への出入り禁止処分とするので皆もそのつもりでいてほしい」

 サラ会長が告げると、生徒会室にいた私たち新入生は騒然となりました。

 その日は先ぶれでサラ会長が大事な話があると知らされていたので、新入生はほぼみんな出席しています。その中にエミール殿下がおられなかったので、おかしいなと思っていたのですが……。

「待ってください、いきなり怒鳴り込んできたのはフェリシア嬢でしょう。どうしてエミール様の方が罰を受けるのですか?」

 ミリアの言葉に、そうだ、そうだ、と、特に男子生徒の方から同調の声が上がりました。

「まず、君たちの誤解を解くことから始めよう。君たちはエミール殿下の説明から、フェリシア嬢のわがまま勝手で、生徒会の業務を拒否したかのような印象を抱いているみたいだがそれは間違いだ。ここから先は王宮内部のことでもあるのであまり詳しくは離せないが、フェリシアは私やエミールの王宮での仕事を肩代わりしてくれていたから、生徒会の活動ができなかったのだ」

 サラ会長が説明をされました。
 あの時は感情的にまくし立てておられたのでよく聞きとられなかったのですが、フェリシア様のおっしゃった『肩代わり』というのは本当だったのですね。

「彼女がそうしてくれたおかげで私とエミールはここの活動に専念できた。彼女はいわば生徒会活動の陰の功労者と言ってもいい。にもかかわらずどういう意図でかは知らぬが、生徒会室で彼女を貶めるような発言をエミールは繰り返した。そんな『恩知らず』は生徒会にはふさわしくない!」

 サラ会長、エミール王子に『殿下』をつけるのも忘れて呼び捨てになってます。

「で、でも、フェリシア嬢がやっていたのは王宮で優雅にお茶を飲んでいただけでしょう」
 ミリアが反論しました。
 ザロモやバルドリックもうなずいていたけど、それにペルティナが少々馬鹿にするような言い方で答えました。
「知らないの? 私たちの年頃の貴族の娘が上位の者と頻繁にお茶を飲むのって、今まで身に着けた教養を試されているの。優雅だなんてとんでもないわ。将来のために知識を座学で身に着けるのが基本編なら、お茶を飲みながらそれを駆使した会話を練習するのは応用編のようなものなのよ」

「確かに、私もそれは王后陛下から教育として受けていたけど、今年は生徒会に集中したいからとお休みをさせてもらっているんだ。その分、フェリシアが集中して受けてくれていたのだがね」

 サラ会長が話をつけくわえてくれました。

「友人とのお茶も楽しめないのに、そんな気の張るティータイムはこなさなきゃならないのを『優雅』呼ばわりされちゃね。ミリアやリーニャは知らなくても仕方がなかったけど、あんたらは馬鹿? そこの男連中のことよ。自分たちがそれをする必要なくても姉妹や婚約者がしているのも知らなかったとでもいうの? エミール殿下の言ってることがちょっとはおかしいとでも思わなかったの?」

 ペルティナが厳しく、バルドリックと自分の弟のザロモに詰問しました。 

 ザロモが、ペルティナ、と、気まずそうに言いました。

「よくよく聞いたらほんと最低! 男のクズじゃないの、エミール殿下って!」

 ペルティナ少々無双すぎやしませんかね。

「ああ、ゴメンゴメン。確か、いない人の悪口は言わない方がいいんだったわね」
 
 以前サージェス副会長が言われたことを受けて謝っているけど、王子殿下に対する不敬のほうはいいのですか?

「その通りだ、私や副会長が何度もいない人間の悪口をたしなめていたな。にもかかわらず一部の生徒はそれをやめなかったな。言われていたフェリシア嬢の気持ちを考えたことがあるのか?」

 サラ会長は私たち新入生に詰問しました。

「エミール殿下に特に同調していたメンツはわかっている。今回はそれについてこれ以上は言わんが、今後彼女を貶めるような噂が学園で流れれば真っ先にその連中を疑わせてもらう。肝に銘じておけ!」
 サージェス副会長も厳しく言いました。

「『恩知らず』が生徒会にいらないと同時に、他人の事情をおもんばかることなく、浅はかな判断で悪口を吹聴するような人間もまたこの生徒会にはいらん。本来ならフェリシアのブリステル公爵家が出張って名誉棄損を訴えることも可能だったんだぞ。学園内で起こったことだから、私たちが注意するだけで公爵閣下は寛大にも納得してくださったんだ、そのことを忘れるな!」

 この話は以上だ、と、言ってサラ会長は話を締めくくりました。

 その夜、寮に帰った後、私とミリアは話をしましたが、
「やっぱり悪役令嬢は悪役令嬢をかばうのね」
 と、言いました。
「ペルティナのこと? でも彼女は貴族令嬢の事情を語っただけよ」
「ええ、バカにするようにね」
「でも、バカにされたのは私たちじゃなく、男子生徒の方だったじゃない」
「高慢ちきな女は嫌われるのよ、ザロモはきょうだいだからまだ複雑な顔をしていたけど、バルドリックなんてかなり怒っていたわよ、会長たちもいたから抑えていたみたいだけど」
「自分の無知と迂闊さをたなにあげて怒られてもねえ」
「あなたはそんなこと言わないの、リーニャ。相手のことを優しく受け止めてあげるのがヒロインなんだから」
 
 また言われました、『ヒロイン』、と。

 しかし、現実世界において、誰が主人公ヒロインで、誰が悪役なんて区別があるのですかね。

 
 
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