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第3章 北の大国フェーブル

第105話 事件の生き証人たち

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 ウルマノフ一行はシュウィツア特使らがひざまずいている横を通り過ぎ、国王たちが座っているすぐそばまで近づいた。

「国王陛下に長らくの無沙汰お詫び申し上げます」

 ヴィオレッタがまず前に進み出て国王にカーテシーであいさつをした。

「うむ、そなたも無事で何よりじゃ」
 フェーブル王は戸惑いを隠せぬままに言った。
「はい、幸いにもこちらにいらっしゃる方々にお守りいただき危機を脱することができました。本日まかり越しましたのは、ノルドベルク公子に対する不名誉な流言を私の口から取り消させるためでございます」
「公子に対する不名誉な……、つまり、この場にて言われていた、公子がそなたを誘拐しようとしたという話は嘘じゃというのかな?」
「はい」

 ヴィオレッタは信頼できる者から自分の命が狙われていることを知り、安全のため王都を離れブラウシュテルン領内に向かおうとするのを公子が協力してくれたことを話した。

「嘘だ! 国王陛下、先導している者がそもそも陛下を暗殺しようとした者なのですよ。そのような者たちとともにやってきた者たちの言葉が信用できますか? ヴィオレッタも魔導士に洗脳、あるいは操作されているに違いない!」

 ヴィオレッタの説明を遮って父の公爵代行ががなり立てた。

「暗殺? 国王はぴんぴんしとるではないか。だからわしは最初から言っておったじゃろうが。熱はいずれ下がると。まあ、症状が今まで見たことのないものもあったから、不信感は理解できたがの」

 蒸し返された暗殺未遂の件をウルマノフは一蹴した。

「医師団は今まで見たこともない症状で戸惑っておりました。だからわたくしは……」

 ダリア王妃も不信感をあらわにし口をはさんだ。

「ああ、それもあとでまとめて説明してやるわい。今はまずヴィオレッタ嬢暗殺未遂事件から片付けていこうではないか」

 ウルマノフは毅然とした態度で告げた。

「暗殺未遂! いかがわしい連中が何を言っているのやら。おおかた身持ちの悪いヴィオレッタが、会議ではああいったけど後で気が変わって公子にすり寄って出奔しようとしただけじゃないの」

 公爵代行夫人カルミアがせせら笑った。

「ほほう、さすがは二人を心中に見せかけて殺そうとした者の発想じゃの」

 ウルマノフが負けずに言い返す。

「なっ……、何を証拠にっ!」

 カルミアはキッとウルマノフたちをにらみつけた。

「証拠? 証拠を見せればいいのじゃな、おーい!」

 ウルマノフはマントの集団に声をかけた。
 すると、集団の先頭にいた一番体格のいい男がマントを脱ぎその姿を現した。

「騎士スコルパス、ただいま帰還いたしました。国王陛下!」
 
 男は片膝を立ててひざまずき、国王に対し騎士の礼をとった。
 その様を見た他の男たちもマントを取り、スコルパスに倣った。

「そなたたち、生きておったのか!」

 事件で犠牲になったはずの王宮騎士団の生還に国王は喜び、王宮中がざわめいた。

 雷帝の技で敵を倒した後、スコルパス達王宮騎士団がまだ息があるのを見て、ウルマノフが即座に治癒魔法を施し彼らは一命をとりとめていた。彼らはヴィオレッタたちとともに、いったんブラウシュテルン領内にこもって、傷を治療しながらウルマノフと同じく時を待っていた。

 スコルパスは、ユーベルに質問をしようとした矢先にブラウシュテルン公爵家の騎士に襲われたこと、そして、マースがユーベルを誘拐犯の役に仕立て上げヴィオレッタを亡き者にしようとしたことを、国王はじめ広間にいる者たちに語った。

「ほれ、ブラウシュテルン公爵家側の証人ならここにおるぞ」

 ウルマノフはそういって縛り上げている者たちを投げ出すように場の中央に押し出した。

「マース?!」
 
 その中に同家の騎士団長マースの姿もあった。
 私たちに同行してここまで来ていたマースは一体、と、代行夫妻は混乱した。

「もう元に戻っていいか、ジイさん」

 ブラウシュテルン家側に立っていた方の『マース』が、騎士の口調からぞんざいな口調に代わり言った。そしてこげ茶色の髪の少年に変化した。

「あの者は!」
 
 それは老魔導士ウルマノフにいつもついていた少年だった。

「ああしんど。サフィニアがずっと気遣ってくれたとはいえ、他人の姿のまま一か月も過ごさなきゃならなかったんだからな」

 事件の後、サフィニアとともに帰ってきた『マース』はヴォルフが魔法で変化したものだった。
 『マース』は代行夫妻が理想としたシナリオ通りに事が進んだように語って彼らを油断させ、ウルマノフ一行がさらに証拠をそろえ、ことを明るみにするに最も適切な日まで待っていたのだった。
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