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私の世界 ※天音
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目を開けたとき、そこが異世界だとすぐにわかった。でも、不思議と動揺はなかった。
光に包まれて足元が浮かぶような感覚。夢で何度も見た情景と同じだったから。
周囲の人が膝をつき、口々に「聖女様」と呼んでくる。その響きに、私は静かに頷いた。なるほど、そういう立場なのね。
ここでなら、私が一番になれる。
それにしても、まさか紗月先輩がいたなんて。よりによって、あの人。
大学では少しだけ有名だった。地味な見た目のくせに、なぜか「美人」とか「可愛い」とか持ち上げられていた。
ふーん、って感じ。でも、ここでは立場も注目も全部私の方が上。
とはいえ、彼女の存在は悪くない。代行なんて便利な肩書きで、それなりに頑張ってくれていたなら利用しない理由がないじゃない?
「先輩、おはようございます。よく眠れましたか?」
石造りの薄暗い部屋で目を覚ました先輩に、私は心配そうに声をかける。アレク様の隣で、まるで本物の恋人みたいに。先輩の顔が引きつっていたのは気のせいかしら。
「私たちの部屋、朝日が眩しくて困っちゃって。先輩のところは静かでいいですね」
そう言いながら微笑むと、アレク様が穏やかに頷いた。ふたりの間に流れる空気に、先輩が一歩引いたのがわかった。
このまま、彼女の存在を薄くしていけばいい。
数日後、式典の衣装合わせ。私のドレスは真っ白なシルクに繊細な金の刺繍が施された特注品。侍女たちが騒ぐたび、私は首を横に振ってみせる。
「本当は、先輩とお揃いがよかったんです。でも、アレク様がどうしてもって……私、目立つの苦手なのに……」
わざとらしい?そんなこと、誰も気づかない。だって、私は真の聖女様だから。
祭壇に立つと、広場中に歓声が広がった。
その熱に包まれながら視線を巡らせると、後方で地味な役目を黙々とこなしている先輩の姿が目に入った。
私は一歩ずつ歩み寄り、わざとらしく優しく、彼女の肩に手を置いた。
「これは、先輩のおかげです。私ひとりでは、こんなこと到底……」
そして、涙を一滴だけ。あとは、民衆が勝手に盛り上げてくれる。
祝宴の席でも、私はアレク様の隣。先輩は端のほうでパンとスープを啜っていた。わかりやすい構図で笑っちゃう。
「先輩、もしかしてダイエット中ですか?私、たくさん食べちゃって恥ずかしい」
もちろん、少し声を大きくして言う。すぐにアレク様が優しく笑ってくれた。
「天音はもっと食べていいよ。君は細いんだから」
私達の甘い雰囲気に先輩の顔が曇る。その様子がたまらなく気持ちよかった。
ある夜、私は礼拝堂で祈るふりをしていた。回廊に誰かの気配がする。ああ、来たのね、先輩。
「……最近、誰かに見られてる気がして……怖いんです」
わざとらしく呟くと、護衛騎士が一歩前に出た。そのタイミングで、しっかり目を合わせてあげる。
「紗月先輩?」
大きな声で、驚いたふりを添える。あとは騎士たちが勝手に反応する。
「まさか……そんなはず……でも、先輩が……」
呟くだけでいい。私は何も断定していない。でも、騎士たちの目はもう彼女を疑っていた。
その翌日、アレク様に呼び出された先輩は、顔色が悪くずっと俯いていた。私はアレク様の隣で小さく震えるふりをするだけ。
「私は……信じてます。でも、ちょっと怖くて……」
アレク様が私の手を取った。その温もりに包まれた瞬間、すべてが動き出した気がした。
「もうここにはいさせられない」
その言葉に、私は静かに頷いた。
これでいい。この世界で生きるのは、私。愛されるのも選ばれるのも、全部私。
先輩には、少し気の毒だったかもしれないけど、仕方ないよね。ここは、誰かが勝ち取る場所なんだから。
それにしても、追い出された先輩がこの先どうなるのか、ちょっとだけ気になる。
苦労するかな。泣いたりするのかな。
ああ、それを見られないのは、少し残念かも。
光に包まれて足元が浮かぶような感覚。夢で何度も見た情景と同じだったから。
周囲の人が膝をつき、口々に「聖女様」と呼んでくる。その響きに、私は静かに頷いた。なるほど、そういう立場なのね。
ここでなら、私が一番になれる。
それにしても、まさか紗月先輩がいたなんて。よりによって、あの人。
大学では少しだけ有名だった。地味な見た目のくせに、なぜか「美人」とか「可愛い」とか持ち上げられていた。
ふーん、って感じ。でも、ここでは立場も注目も全部私の方が上。
とはいえ、彼女の存在は悪くない。代行なんて便利な肩書きで、それなりに頑張ってくれていたなら利用しない理由がないじゃない?
「先輩、おはようございます。よく眠れましたか?」
石造りの薄暗い部屋で目を覚ました先輩に、私は心配そうに声をかける。アレク様の隣で、まるで本物の恋人みたいに。先輩の顔が引きつっていたのは気のせいかしら。
「私たちの部屋、朝日が眩しくて困っちゃって。先輩のところは静かでいいですね」
そう言いながら微笑むと、アレク様が穏やかに頷いた。ふたりの間に流れる空気に、先輩が一歩引いたのがわかった。
このまま、彼女の存在を薄くしていけばいい。
数日後、式典の衣装合わせ。私のドレスは真っ白なシルクに繊細な金の刺繍が施された特注品。侍女たちが騒ぐたび、私は首を横に振ってみせる。
「本当は、先輩とお揃いがよかったんです。でも、アレク様がどうしてもって……私、目立つの苦手なのに……」
わざとらしい?そんなこと、誰も気づかない。だって、私は真の聖女様だから。
祭壇に立つと、広場中に歓声が広がった。
その熱に包まれながら視線を巡らせると、後方で地味な役目を黙々とこなしている先輩の姿が目に入った。
私は一歩ずつ歩み寄り、わざとらしく優しく、彼女の肩に手を置いた。
「これは、先輩のおかげです。私ひとりでは、こんなこと到底……」
そして、涙を一滴だけ。あとは、民衆が勝手に盛り上げてくれる。
祝宴の席でも、私はアレク様の隣。先輩は端のほうでパンとスープを啜っていた。わかりやすい構図で笑っちゃう。
「先輩、もしかしてダイエット中ですか?私、たくさん食べちゃって恥ずかしい」
もちろん、少し声を大きくして言う。すぐにアレク様が優しく笑ってくれた。
「天音はもっと食べていいよ。君は細いんだから」
私達の甘い雰囲気に先輩の顔が曇る。その様子がたまらなく気持ちよかった。
ある夜、私は礼拝堂で祈るふりをしていた。回廊に誰かの気配がする。ああ、来たのね、先輩。
「……最近、誰かに見られてる気がして……怖いんです」
わざとらしく呟くと、護衛騎士が一歩前に出た。そのタイミングで、しっかり目を合わせてあげる。
「紗月先輩?」
大きな声で、驚いたふりを添える。あとは騎士たちが勝手に反応する。
「まさか……そんなはず……でも、先輩が……」
呟くだけでいい。私は何も断定していない。でも、騎士たちの目はもう彼女を疑っていた。
その翌日、アレク様に呼び出された先輩は、顔色が悪くずっと俯いていた。私はアレク様の隣で小さく震えるふりをするだけ。
「私は……信じてます。でも、ちょっと怖くて……」
アレク様が私の手を取った。その温もりに包まれた瞬間、すべてが動き出した気がした。
「もうここにはいさせられない」
その言葉に、私は静かに頷いた。
これでいい。この世界で生きるのは、私。愛されるのも選ばれるのも、全部私。
先輩には、少し気の毒だったかもしれないけど、仕方ないよね。ここは、誰かが勝ち取る場所なんだから。
それにしても、追い出された先輩がこの先どうなるのか、ちょっとだけ気になる。
苦労するかな。泣いたりするのかな。
ああ、それを見られないのは、少し残念かも。
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