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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第260話 第三回逃走王決定戦本選

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「さぁ、遂にやって参りました第三回逃走王決定戦本選。実況を務めさせて頂きます中央都テレビアナウンサー、柏木圭子と、解説は本年度陸上ユーロッパ選手権大会において我が国初の銀メダルに輝きました、男子二百メートルの最速王伊達一馬選手です。伊達選手、よろしくお願いします。」

「伊達一馬です、よろしくお願いします。」

「それでは今回の競技を説明致します。ルールは至ってシンプルです。二時間の制限時間一杯鬼から逃げ切って下さい。開始から一時間経った段階でオリンピックメダリストが投入されます。ですのでスタミナの管理が非常に重要となってきます。
伊達選手から見て、この競技はどの様にご覧になられましたか?」

「そうですね、第一回、第二回のVTRを見させて頂きましたが、かなり過酷な内容の様に思われました。
瞬間的な速さも必要ですがなんと言っても持久力ですね、各選手がこの二時間をどう乗りきるかが攻略のポイントになると思われます。」

「成る程、やはり最後まで生き残るには運だけではどうにもならないスタミナが必要と言う訳ですね。
では引き続き注目選手について見ていきましょう。」


鬼役の皆さん、本日はよろしくお願いします。皆さんもルールは既にご承知だと思いますので、簡単な注意点だけ。青ジャケットは最優先、緑ジャケットは開始から一時間経った段階で、暖色系ジャケットは残り四十五分を切ってから。残り三十分の段階で一番討伐ポイントが高い者がひろし君に挑戦出来るものと致します。
尚、赤ジャケットの者は既に逃走王に内定していますので、くれぐれも討伐などなさりません様にお願い致します。
では時間一杯狩りをお楽しみ下さい。

「ねぇ、本条、貴女今回はどうするの?愛しのSaki様は出場していないんてしょう?」

「あ、新庄先輩、前回は"hiroshi"君討伐おめでとうございます。今回は私も狙って行こうと思ってますよ、"hiroshi"君討伐。
ですのでガンガン飛ばして行こうと思っていますんで、よろしくお願いします。」

「そうなの?それじゃ私も負けられないわね、どっちがよりポイントを稼ぐか勝負よ。」

「はい、力の限り頑張らせて頂きます。」
そう言い残し先に退室する本条を見て、新庄好美は思った、今回の競技は荒れると。
「何よ本条の奴、世界選手権の時より気合いが入ってるじゃない。あんな怖い顔のあいつ始めてみたわ。
私も相当頑張らないと負けるかも知れないわね。」
彼女たちの気迫は控え室にいた全ての鬼役に伝播していく。それはまるで綺麗な水面に墨汁を溢したかの様に、ゆっくりと、確実に。

「これより第三回逃走王決定戦本選を開始致します。ルールは至ってシンプルです。制限時間一杯鬼から逃げ切って下さい。
合図と共にスタートです。」
"ピッ、ピッ、ピッ、ビーーッ"

「さあ、遂に始まりました第三回逃走王決定戦本選、各選手、一斉にバラけて行きます。
鬼役は全員現役のオリンピック出場選手たち、どこまで逃げ切る事が出来るでしょうか?
おっと、早速一人捕まった様です。」
"三十七番、アウトです。"
"くそ!"

(五分経過)

"六十二番、アウト"
"早すぎだろうが~!"

「伊達選手、鬼役たちの動きが物凄く早く感じるのですが、どう思われますか?」
「いや~、私もここまで本格的な競技だとは思っていませんでした。自身の不明を恥じるばかりです。
鬼役の選手たちがあれほど本気で挑んで来るとは、これは少しの油断が命取りですね、各選手も気が抜けないのでは無いでしょうか。」

(十五分経過)

「おっと、ここでこれ迄攻勢だった鬼の動きが止まったぞ~、これは一体どう言うことだ~!
伊達選手、どう思われますか?」
「いや~分かりません。動きに統一性が見られます、まるで獲物を狩る狼の群れの様です。
先ほどからある一定の距離で各選手を追い詰めている様ですよ?」

(一時間経過)

「これよりメダリストが投入されます。各選手は頑張って下さい。」

"二十五番、アウトです。"
"四十一番、アウトです。"
"九十三番、アウトです。"

「あ~っと、ここに来て急に鬼たちが動き出した~!まさに瞬殺、次々と選手たちが捕まって行くぞ~!
まさに狩り、狼の群れからは逃げられないのか~!」

(一時間十分経過)

「またまた鬼の動きが止まった~!
残り選手はゲスト選手の二十人のみ。
伊達選手、この後の展開はどうなると予想されますか?」
「はい、鬼たちが完全に包囲網を完成させています。しかも新たに加わったメダリストたちはまったく疲れていません、これはかなり厳しい戦いになるのではないですか?」

(一時間十五分経過)

「一瞬、正に電光石火!残り選手の内十七名が一瞬の内に狩られたぞ~!
残る選手は第一回逃走王の"hiroshi"選手、今回初参戦、アイドルグループ"ジャイアント"の剛田猛選手、同じジャイアントの松村紫音選手だ~!
ジリジリと鬼たちが一定の距離で離れない、これは絶対絶命か~!」

(一時間三十分経過)

「どうやら今回は私が権利を獲得した様ですね。」
「チッ、僅差よ、次は負けないんだから。」
「では本条まなみ、行かせて頂きます。」

「こんにちは、"hiroshi"君。全力で行かせて頂きますね、頑張って下さい?」

「えぇ、僕はこの三十分の為だけにこの茶番に付き合っているんです。今回は最悪だと思っていましたが、鬼の皆さんは最高です。全力で挑ませて頂きます。」

激闘が始まった。
動く者はただ二人。
鬼の作るその結界テリトリーの中、二匹の獣が暴れ狂う。
飛ぶ、跳ねる、躱す、避ける、一瞬の隙も逃がさない。

「ハハッ、何なんすかこれ。リーダー、追えてます?俺、たまに見失うんすけど。」
「・・・・・」

迫る本条、今!
掴み掛かる本条の前から瞬間的に消える"hiroshi"、しかしその動きは既に知っている。
身を低くししなやかに後方へと飛ぶ本条、瞬きの攻防。軍配は本条に上がった。

「アハ、アハハハハ、負けた、完全に負けた、文句無しの完敗です。
まだだ、くそー!」
仰向けに倒れ込み、顔を覆い悔しげに叫ぶ"hiroshi"。
そんな彼に近づき手を差し伸べる本条。

「世界を知りなさい。今回の貴方は前大会よりも更に強くなっていた。ただ私たちも同様に強くなった、それだけの事。色んな経験をし、様々な人々とふれ合いなさい。
貴方は更なる力を手に入れるでしょう、そして挑みなさい、真の逃走王に。」

涙を拭い顔をあげる"hiroshi"。
その顔は、可愛いらしいものでも悲しげなものでもない、眼光鋭い男の目。
本条の手を力強く握り返し立ち上がった"hiroshi"は、これ迄にない力強い声音で宣言する。

「俺は諦めませんよ、必ず真の逃走王になって見せます。貴女方に恥じる事の無いね。」
男らしい笑顔であった。
彼の者は光の王
あまねく全てを照らす希望の光り
王は悠然とその場を後にする

戦場に残るは誇り高き狩人たち
彼女達は動かない
ただ終焉の時を待つのみ


”ビーーーーーーーーーーーッ”

「終了で~~~す。第三回逃走王に輝いたのは、西京芸能事務所所属、アイドルグループ”ジャイアント”リーダー剛田猛選手と、同じくアイドルグループ”ジャイアント”の松村紫音選手です!」

「・・・・・」
”ザッ”

「チョッとリーダー、どこ行くんですか?これから表彰式ですよ。」

「帰る。俺の仕事は終わった、後は任せる。」

「待ってくださいよリーダー。え~、ずるいっすよ、リーダー!」

狩りの時間は終わった。
残されたのは、祭りの後の寂しさだけであった。
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