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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…
第405話 何かいる (3) (side:夏川きらら)
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「お疲れ様です!」
「あ、きららちゃんお疲れ様、今日はバラエティー番組の仕事だったわね。やっぱりきららちゃんの人気は凄いわよね、忙しいとは思うけど体調管理は気を付けないと駄目よ?」
「はい、ご心配ありがとうございます。きららは元気だけが取り柄ですから。みんなのハートに笑顔をお届け、夏川きらら頑張ります♪」
テレビ局収録スタジオの廊下、スタッフさんと手を振って別れるアイドル夏川きらら。でも彼女は知っていた、自分の人気に陰りが出て来ている事を。
この業界、アイドルは所詮消耗品だ。若くてかわいい元気いっぱいの女の子、そんなものはごまんといるのがこの世界。毎年次々に新人アイドルが登場し少ない椅子を奪い合う、華やかな表舞台と違い、裏では壮絶な女の戦いが繰り広げられているのが実情だ。
「あ、夏川先輩お疲れ様で~す。」
「「「夏川先輩お疲れ様です。」」」
仕事の報告に所属事務所に帰ると、後輩アイドルたちに声を掛けられた。
「えぇ、お疲れ様。あなた達も収録上がり?」
「はい、ミュージックジャムの収録から帰ってきたところです。先輩は何の音楽番組からの帰りですか?」
「いえ、私はバラエティー番組かな?こう言った事はコツコツやらないとね。」
「そうですか、勉強になります。」
「じゃ、私は社長に呼ばれているから。」
「「「お疲れ様です、失礼します。」」」
彼女達は今この事務所が最も力を入れているアイドルグループ企画の一軍メンバー。それこそ下には下積みの二軍メンバーがいて、常に自分の席を狙うと言う弱肉強食の世界。日々ファンと番組関係者に気を遣う彼女達こそ、これからのアイドルの姿なのかもしれない。
”コンコンコン“
「夏川です、今戻りました。」
”はいどうぞ、入って頂戴。”
「失礼します。」
「お帰りなさい、きらら。少し話があるから座って頂戴。」
社長室に入るとそこには事務所の社長以外にアイドル企画のプロデューサー、それと知らない人物が座っていた。
「あ、こちら西京芸能事務所の倉持さん。今回の話しはちょっと複雑な話だから他言無用でお願いね。それじゃ東山プロデューサー、計画の全容をお願いできるかしら。」
話しはとても面倒なものであった。今芸能界は大混乱期を迎えていると言われている。それは一人の男性アーティスト”hiroshi”君の登場から始まった。
彼のこれまでの男性タレントにはない爽やかさ、その純朴さ、その容姿。すべての女性は彼に魅了されていった。そして彼と比較される形でこれまでのただ顔が良いと言うだけのイケメンタレント達が次々に淘汰され始めた。
彼が登場してわずか三年で幾つの芸能事務所が消えて行ったか。そんな消えていくタレントと交代するかのように出て来たのが性格の良い新たなイケメン男性たち。
今、各事務所は生き残りをかけ、新たなイケメンタレントの発掘に躍起になっている。
しかしそんな流れを面白く思わない存在も当然いる、それが芸能界のドンと言われる西京芸能事務所をはじめとした大手芸能事務所の者たちだ。彼女たちの築き上げて来た利権構造が崩れようとしている今、それを指を銜えて見ている事など出来ようはずもないのだから。
「私たちにとって”hiroshi”と言う存在は邪魔でしかないのですよ。幸いあなたは彼と何度も番組で共演している。この計画には持ってこいと言う訳です。」
「私たち西京芸能としてもそんな協力者のあなたを決して無下にはしないわ。ウチのドラマ部門の一人として迎え入れる準備は整っているの。あなたも気が付いているんでしょ?今がアイドルとしての限界だって言う事は。
時代は新しいアイドルを求めている、そろそろあなたも次のステップへ進む時が来たんじゃないかしら?」
「きらら、これは事務所としてもぜひ協力して欲しい案件なの。この世界綺麗事だけじゃ生き残れないって事はあなたが一番分かっているでしょ?ウチの事務所も次のステップに進む為なの、これは必要な決断だと思っているわ。」
何の事はない、これは相談でもなんでもなくただの決定事項。私は事務所に捨てられたのだ。生贄の私は”生き残りたければこのミッションを成功させろ”、そう言われているだけなのだ。
「ですが社長、この計画はただのスキャンダル、これで彼が失脚するとは限らないんじゃないですか?それに彼ほどの男性ならそれこそ何人もの女性が婚姻関係を結ぶのでは?」
私は最後の抵抗とばかりに基本的な計画の甘さを指摘してみた。
「その点は織り込み済みだ。彼にはこれから何人もの相手と浮名を流してもらう。要は彼の清廉潔白な王子様と言ったイメージを壊す事が出来ればいいのだよ。これまでの男性タレントと同じ自分中心的なわがままな男と言うイメージさえ世間に植え付ける事が出来れば我々の目的は果たされるのさ。」
どうやら犠牲者は私一人ではないらしい。この東山プロデューサーの思惑では”hiroshi”君をただの女誑しにすることが主な目的である様だ。
「あなたにとっても悪い話ではないんじゃないかしら?なにせあの”hiroshi”君の女になれるんですもの。私がもう少し若かったら代わって欲しいくらいよ。」
「「「アッハッハッハッハッハ。」」」
いやらしい権力者が立てる醜い計画、そしてそんな計画でも断る事の出来ない醜い自分。その日私は悔し涙で枕を濡らすことになった。
「ごめんねひろし君、突然訪ねて来ちゃって。それにいろいろ相談に載ってくれてありがとう。」
後日私はひろし君の住むマンションを訪れ、彼に相談事があると言って部屋に上げて貰う事に成功した。この日は彼の養母が用事で出掛けていると言う事はすでに調査済み。計画の杜撰さとは違いこうした調査には力が入っている様であった。
彼のマンションから出る去り際、まるで恋をする乙女の様に彼に甘える私。それを笑顔で見守るhiroshi君。彼は本当に女性の理想の王子様であった。そんな素晴らしい彼の人の好さに付け込む私は何と醜い事だろう。
「上手く言ったじゃないきらら、この調子で次も頑張って頂戴。」
hiroshi君との熱愛報道はすぐに週刊誌に掲載され、ワイドショーを騒がす騒動へと発展した。その全てがあらかじめ用意されたものであることなど、世間一般の知る所ではないのだろう。
「次は彼の通う桜泉学園高等部正門前での逢瀬よ。彼を困らせた事に責任を感じ、許しを請うために訪れたアイドル。その時彼はどう出るのかしら?
フフッ、今から楽しみで仕方がないわね。」
目の前にいる醜い生き物は何なのだろう。そんな彼らと共にいる私はいったい。
自問自答するも答えは出ない。
時の流れは止まらない。
私は醜い手駒、彼らの操り人形に過ぎないのだから。
「あ、きららちゃんお疲れ様、今日はバラエティー番組の仕事だったわね。やっぱりきららちゃんの人気は凄いわよね、忙しいとは思うけど体調管理は気を付けないと駄目よ?」
「はい、ご心配ありがとうございます。きららは元気だけが取り柄ですから。みんなのハートに笑顔をお届け、夏川きらら頑張ります♪」
テレビ局収録スタジオの廊下、スタッフさんと手を振って別れるアイドル夏川きらら。でも彼女は知っていた、自分の人気に陰りが出て来ている事を。
この業界、アイドルは所詮消耗品だ。若くてかわいい元気いっぱいの女の子、そんなものはごまんといるのがこの世界。毎年次々に新人アイドルが登場し少ない椅子を奪い合う、華やかな表舞台と違い、裏では壮絶な女の戦いが繰り広げられているのが実情だ。
「あ、夏川先輩お疲れ様で~す。」
「「「夏川先輩お疲れ様です。」」」
仕事の報告に所属事務所に帰ると、後輩アイドルたちに声を掛けられた。
「えぇ、お疲れ様。あなた達も収録上がり?」
「はい、ミュージックジャムの収録から帰ってきたところです。先輩は何の音楽番組からの帰りですか?」
「いえ、私はバラエティー番組かな?こう言った事はコツコツやらないとね。」
「そうですか、勉強になります。」
「じゃ、私は社長に呼ばれているから。」
「「「お疲れ様です、失礼します。」」」
彼女達は今この事務所が最も力を入れているアイドルグループ企画の一軍メンバー。それこそ下には下積みの二軍メンバーがいて、常に自分の席を狙うと言う弱肉強食の世界。日々ファンと番組関係者に気を遣う彼女達こそ、これからのアイドルの姿なのかもしれない。
”コンコンコン“
「夏川です、今戻りました。」
”はいどうぞ、入って頂戴。”
「失礼します。」
「お帰りなさい、きらら。少し話があるから座って頂戴。」
社長室に入るとそこには事務所の社長以外にアイドル企画のプロデューサー、それと知らない人物が座っていた。
「あ、こちら西京芸能事務所の倉持さん。今回の話しはちょっと複雑な話だから他言無用でお願いね。それじゃ東山プロデューサー、計画の全容をお願いできるかしら。」
話しはとても面倒なものであった。今芸能界は大混乱期を迎えていると言われている。それは一人の男性アーティスト”hiroshi”君の登場から始まった。
彼のこれまでの男性タレントにはない爽やかさ、その純朴さ、その容姿。すべての女性は彼に魅了されていった。そして彼と比較される形でこれまでのただ顔が良いと言うだけのイケメンタレント達が次々に淘汰され始めた。
彼が登場してわずか三年で幾つの芸能事務所が消えて行ったか。そんな消えていくタレントと交代するかのように出て来たのが性格の良い新たなイケメン男性たち。
今、各事務所は生き残りをかけ、新たなイケメンタレントの発掘に躍起になっている。
しかしそんな流れを面白く思わない存在も当然いる、それが芸能界のドンと言われる西京芸能事務所をはじめとした大手芸能事務所の者たちだ。彼女たちの築き上げて来た利権構造が崩れようとしている今、それを指を銜えて見ている事など出来ようはずもないのだから。
「私たちにとって”hiroshi”と言う存在は邪魔でしかないのですよ。幸いあなたは彼と何度も番組で共演している。この計画には持ってこいと言う訳です。」
「私たち西京芸能としてもそんな協力者のあなたを決して無下にはしないわ。ウチのドラマ部門の一人として迎え入れる準備は整っているの。あなたも気が付いているんでしょ?今がアイドルとしての限界だって言う事は。
時代は新しいアイドルを求めている、そろそろあなたも次のステップへ進む時が来たんじゃないかしら?」
「きらら、これは事務所としてもぜひ協力して欲しい案件なの。この世界綺麗事だけじゃ生き残れないって事はあなたが一番分かっているでしょ?ウチの事務所も次のステップに進む為なの、これは必要な決断だと思っているわ。」
何の事はない、これは相談でもなんでもなくただの決定事項。私は事務所に捨てられたのだ。生贄の私は”生き残りたければこのミッションを成功させろ”、そう言われているだけなのだ。
「ですが社長、この計画はただのスキャンダル、これで彼が失脚するとは限らないんじゃないですか?それに彼ほどの男性ならそれこそ何人もの女性が婚姻関係を結ぶのでは?」
私は最後の抵抗とばかりに基本的な計画の甘さを指摘してみた。
「その点は織り込み済みだ。彼にはこれから何人もの相手と浮名を流してもらう。要は彼の清廉潔白な王子様と言ったイメージを壊す事が出来ればいいのだよ。これまでの男性タレントと同じ自分中心的なわがままな男と言うイメージさえ世間に植え付ける事が出来れば我々の目的は果たされるのさ。」
どうやら犠牲者は私一人ではないらしい。この東山プロデューサーの思惑では”hiroshi”君をただの女誑しにすることが主な目的である様だ。
「あなたにとっても悪い話ではないんじゃないかしら?なにせあの”hiroshi”君の女になれるんですもの。私がもう少し若かったら代わって欲しいくらいよ。」
「「「アッハッハッハッハッハ。」」」
いやらしい権力者が立てる醜い計画、そしてそんな計画でも断る事の出来ない醜い自分。その日私は悔し涙で枕を濡らすことになった。
「ごめんねひろし君、突然訪ねて来ちゃって。それにいろいろ相談に載ってくれてありがとう。」
後日私はひろし君の住むマンションを訪れ、彼に相談事があると言って部屋に上げて貰う事に成功した。この日は彼の養母が用事で出掛けていると言う事はすでに調査済み。計画の杜撰さとは違いこうした調査には力が入っている様であった。
彼のマンションから出る去り際、まるで恋をする乙女の様に彼に甘える私。それを笑顔で見守るhiroshi君。彼は本当に女性の理想の王子様であった。そんな素晴らしい彼の人の好さに付け込む私は何と醜い事だろう。
「上手く言ったじゃないきらら、この調子で次も頑張って頂戴。」
hiroshi君との熱愛報道はすぐに週刊誌に掲載され、ワイドショーを騒がす騒動へと発展した。その全てがあらかじめ用意されたものであることなど、世間一般の知る所ではないのだろう。
「次は彼の通う桜泉学園高等部正門前での逢瀬よ。彼を困らせた事に責任を感じ、許しを請うために訪れたアイドル。その時彼はどう出るのかしら?
フフッ、今から楽しみで仕方がないわね。」
目の前にいる醜い生き物は何なのだろう。そんな彼らと共にいる私はいったい。
自問自答するも答えは出ない。
時の流れは止まらない。
私は醜い手駒、彼らの操り人形に過ぎないのだから。
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