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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第413話 母の肖像

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「Saki様、ただいま戻りました。」

ノエル達が帰国した。ブリジットが特務捜査に協力していた事件も犯罪組織の一斉検挙と言う形で幕を閉じたらしい。ブリジットが提出した膨大な捜査資料の解析は未だ続行中との事だが、重大な人権侵害が今現在継続中の案件が複数あり、国としても重い腰を動かさざるを得なかったらしい。
そうなると組織的な激しい抵抗が予想されるところだが、そこはエリちゃん(エリザベスさん)が古い馴染みに声を掛けあっと言う間に鎮圧したとか。普段の農家のおばちゃんスタイルからは考えられない辣腕ぶりに、捜査陣も脱帽である。驚きの余り全員顔を青くしていたと言うくらいだから相当な事をしたんだろうな~。
当のエリちゃんは暫く里帰りしてから戻るとの事。旧交を温めるのは良い事です、ゆっくりして来て下さい。
今回の主役ブリジットと言えば帰ってそうそう部屋に引き籠り。なんでも大好きなVツーバーの見逃し配信を見るとの事、生配信が見れなかったのがよほど悔しかったらしい。
「Vツーバーこそ乙女の夢なのです。」とはブリジットの言葉。彼女滅茶苦茶大和のオタクカルチャーに嵌っています。
お前一応俺の付き人なんだからちゃんと仕事しろよ、後メイドの仕事も、名目上は付き人兼メイドなんだからな~。
”は~い。分かりましたです、ご主人。”って言いながら部屋にこもりまくるブリはやっぱり残念な大人三号だ。

「ノエル、今回は本当にご苦労様でした。ブリの件は何とか一段落したみたいだけど、ノエルの方の用事は上手く言ったの?」

そう、今回ノエルがユーロッパ王国迄赴いたのにはブリジットの護衛以外に目的があったはずだ。なんでも忘れ物を取りに行くとかなんとか。

「はい、無事手に入れる事が出来ました。」

そう言ってノエルはカバンから一つの小箱を取り出した。その中に入っていたモノは小さな肖像画、大和風の着物を着た美しい女性の横顔であった。

「これは母のことが描かれた唯一の物なんです。」

肖像画を見て優しげに目を細めるノエル。彼女はキッチンに入ると二人分の紅茶とお茶菓子を用意して戻って来た。

「Saki様、少しお話を聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
紅茶を軽く口に含んでから、ノエルはこの肖像画の女性の事について語り始めた。

ノエルの母親は元々この国で貿易商を営む家の長女であったらしい。彼女の家は広く商いを行っておりユーロッパ王国の商会とはその関係でとても親しくしていたそうだ。
とある晩餐会の夜、その会場に招かれたユーロッパ王国のとても高貴な身分の男性に見初められた彼女は、その会場で結婚を申し込まれた。しかし既に婚姻を約束した意中の男性がおり、その申し出は丁寧に断ったそうである。
だがそこは高貴な身分の生まれ、断られる事自体をまるで想定していない自己中心的な思考の持ち主であった男性は、その晩配下の者を使い彼女を拉致、そのまま本国であるユーロッパ王国に連れ帰ってしまったらしい。
男性の邸宅に連れて来られた彼女の生活は決して楽なものではなかった様だ。
見知らぬ土地、周囲から浴びせられる侮蔑の目。身分も低い東洋の島国の娘にとって、ユーロッパ王国の貴族社会は苦痛以外の何ものでもなかった事だろう。
そんな歴史の闇に葬られた女性が唯一残した生きていたあかし
この肖像画には、そんな彼女の思いが込められているのだと言う。
肖像画の裏には大和の言葉でこう書かれていた。
”わがおもひ いつの日かふるさとへ かえらむ”


ねぇノエル。ノエルはお母さんからこの国の言葉を習ったんだよね。その時お母さんの故郷の話しとか聞いてないかな?

「母は余り故郷の話しは。ただ一度”横浜の港の船はとても大きくて”と言っていた事がございます。」

そっか、じゃあ明日行ってみようか。俺もあんまり詳しくないから町田さん辺りに聞かないとだね。
俺はスマホを取り出し町田さんに連絡を取るのだった。


「若、横浜と言ったら中華街ですよ、やっぱりあそこの食べ放題は見逃せませんって。」
翌日俺たちは町田さん運転の車で横浜に向かう事になった。
でも町田さんこんな事していていいの?今新人が入ったから忙しいんじゃなかったの?

「いいんですよ、今日は久々のオフ日ですから。でもお昼の奢りの約束は忘れないでくださいね。」

はいはい、ついでに事務所のみんなに肉まんの差し入れも買っていいから。どうせ人数多いんだからお店から送って貰っていいから。何カ所か回るけど案内よろしくね。

「了解です。これでも若い頃は何度も来てますんでそれなりに道も知ってますから、大船に乗ったつもりでお任せください。」

うっ、凄く心配。でもよろしくお願いします。

俺は後部座席の隣に座るノエルに目をやった。彼女はいつも以上に静かで、何か物憂げな表情をしているように感じられた。

「ここが有名な外国人墓地ですね。ここは横浜港開港当初からある歴史的な場所なんですよ。あの黒船の水兵さんが埋葬されたのがココの始まりって言われているんです。」

そこは何カ所目かに回ったこの町の観光名所であった。この町の変化は早い、その中で残るノエルのお母さんの時代を感じさせる場所。
歴史あるこの地であれば、ノエルも母親の故郷を感じる事が出来るのではないだろうか。

”ありがとう”

ふいに聞こえる呟き。見ればノエルの持つあの肖像画の入った小箱から、キラキラとした輝くナニカが煙の様に天に向かい立ち昇って行くところであった。

「お母様・・・」

”幸せになりなさいノエル、愛しの我が。”

それからしばらくの間、俺たちはただ空を眺めるのであった。
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