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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第488話 のっぺり、常識を知る。(霊能) (3)

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そこは板の間の部屋であった。
天井は高く、ちょっとした道場と言った広さがある。
綺麗に浄められた空間、凛とした空気漂う神聖なる場所。前面中央に奉られた祭壇は神社のそれの様であり、引き締まった独特の緊張感を醸し出していた。
祭壇前の座布団にはスーツ姿の女性が三人ほど座っていた。
彼女らは確かこの御屋敷に来る階段ですれ違った人たち。流石に休憩を取ったのか、あの時の様な死にそうな顔はしていない様に見受けられる。
"スーッ"
脇の障子扉が引かれ、巫女装束に身を包んだ女性が静かに入室してきた。この屋敷に来た時に初めて会った女性、彼女が御当主様と呼ばれる人物に違いないだろう。
俺はこの道場の後方、他に数名いる作務衣姿の使用人?と共に儀式を見守っている。

"シャッ、シャッ"
御幣と呼ばれるギザギザの紙を束ねて棒に挟んだ様なものを振るう。

"ジャラジャラジャラジャラ"
今度は鈴が沢山付いた楽器のような物、前に順子ちゃんが使っていた神楽鈴を振るう。

場の雰囲気がより一層清廉なモノに変わる。

「かしこみかしこみ申し上げまする。我が名は姓は一色、名は葵。当代一色家の当主にして人の声を伝える者にございまする。
これなるは海運を生業とする者たちにして御身を信仰する信徒。何卒その御威光によりて彼らに大いなる安全をもたらさんことを伏してお願い申し上げまする。」

"ジャラジャラジャラジャラ"

天井から光が祭壇へと降り注ぐ。その光は次第に強く神々しいものへと変わっていく。
その中心には柔和で優しい笑みを浮かべた光輝く一柱の神が降臨されていた。

"我を呼びしはソナタらであるか?"

「御身に拝謁せし光栄、伏して感謝申し上げまする。我が名は姓は一色、名は葵と申す者、当代の一色家当主にございまする。
此度はこれなる海運を生業とする者たちにして御身の信徒の声を届けんとお越し願った由にございまする。」

「はい、海の守護神にして海運の安全を司る"海姫様"に拝謁する栄誉を賜りましたこと、恐悦至極にございまする。
何卒これからも我々の海の安全をお守りいただきたく伏してお願い申し上げまする。」

"その方らの祈り、日々届いておるぞ。海への感謝と畏敬を忘れぬ限り、我も共に力を貸そう。母なる海に感謝を。"

平伏し、感動に涙するスーツ姿の女性たち。
うん、あれってやっぱりあの人だわ。マジか~。回りに怪異がいることはハニ子になって人外認定された事とブリジットの話しで理解していたけど、まさか知り合いが神様やってるとは思わないっしょ。
しかもその仕事現場を見学って超気まずいんですけど。あの飲んだくれの海姫さんが柔和な笑みで"我を呼びしはソナタらであるか?"って、俺次に会ったときどんな顔したらいいのよ。

"ん?"

あ、やべ、目が合っちった。ど、どうも~。俺の事はお気になさらずに、お仕事続けて下さいね~。

"そこの者、ちとこちらへ"

うっ、見逃して欲しいな~なんて、駄目ですか、そうですか。
かしこみかしこみなんか用でしょうか?

"いや、少年こそこんな所でなにやってるの?目茶苦茶違和感があるんだけど?"

いや、マミーが俺に常識が無さすぎるからってこちらのお婆さんの所で教わって来いって送り出されまして。

"あぁ、それは仕方がないかも。よかったら私も参加しようか?少年の常識外れは桁違いだからここの婆さんじゃ耐えられないんじゃない?"

え~、悪いですよ。海姫さん忙しいんでしょ?初めて見ましたけど、イリュージョンの仕事もあるみたいですし。

"イリュージョン言わない、ちゃんとご利益与えてるんだから。あそこの会社なんて偉いんだよ?社長自ら社屋の祭壇に毎日社員の安全を祈ってるんだから。しかも社員もちゃんとお祈りしてくれるし。そこまでされたら守ってあげたくなるじゃない?"

そうですね、信心深いのはいいことですよね。って言うか海姫さん神様だったんすね。俺もお祈りした方がいいですか?

"ヤメヤメ、少年は気にしなくていいから。ってかこないだ目茶苦茶感謝捧げてたでしょう。あれなによ?神力ガッツリ上がったんだけど?山姫がボーナスって言ってたんだけど?"

こないだ?あぁ、いや、ちょっといいことがありましてね。神様に感謝を捧げまして。もしかしたらそれですかね~。

"ま、何にしても程ほどにしなさいね、ビックリするから。
さて、先代の一色の者よ、久しいの。この者の世話は大変であろうがしかと頼んだぞ。恐ろしい程の常識外れ故な。
じゃ少年、また遊びに行くから。"

了解しました、いつでも連絡下さい。

神聖なる御方は光と共に天に戻るかの様に姿を消して行くのでした。

残されたのは口を開けてポカンとした御当主様に一色家の面々。
・・・さて、どうするこれ?
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