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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第499話 女達の思惑

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(side:A)

”バンッ”

投げつけられる紙束、それは床一面に広がりより一層苛立ちを募らせる。そこに書かれていたのはとある人物たちに対する調査結果であった。

交換留学生キャロル・シュミットに関する調査報告
交換留学生ミッシェル・ブラウンに関する調査報告

共に我が夫、高宮ひろしにたかるコバエと思っていた。だが調査結果はそのとんでもない人物像をつまびらかにする。

ユーロッパ王国第四王女キャロライン・ウル・ユーロピア
タスマニア公国第三公女ミッシェル・タスマニア

何故国家の要人がこの学園に?しかも各々大国の姫君だと?なぜだ、何故この私の前にこのような余計なものが立ちはだかる。我が夫が他の女性にもて囃される、それは当然の事であり我が夫であるのならそれくらいでなくてはならない。それはいい、だが私と我が夫の間に割って入るメスがいる、それだけは断じて許されない。
我が夫の一番は私であり、他のメスは私の慈悲によって我が夫に声を掛ける事を許される、それが自然であり規律ある姿なのだ。

「ひろし様を屋敷のパーティーに招待する話はどうなっているのですか?」

「お嬢様にご報告申し上げます。桜泉学園に対し再三打診を行ってはおりますが、学園では高宮ひろし氏の企業・財団・個人のパーティーへの出席依頼は全てお断りしているとの返答でございます。また彼の所属する芸能事務所スタジオCherryへの依頼もすべて断られているというのが現状でございます。事実高宮ひろし氏はこれまでスポンサー企業等へのパーティーには出席した事が無いと報告されており、唯一出席したパーティーはつい先だって行われた女子サッカーワールドカップ開会式後のレセプションパーティーだけであった様でございます。」

「学園関係者への根回しはどうなっているのですか、理事会及び教師陣の懐柔は行っていたのでしょう?」

「はい、その件ですが、これまで接触を持っていた理事会及び各教員との連絡が一切取れなくなっています。また五月に大規模な人員交代が行われており、理事会員の半数以上教職員もおよそ三分の一が入れ替わっており、事務方の者においてはほぼ総入れ替えと言ってもいいほどその顔触れが変わっております。」

「な、では理事長はどうしたのですか、あそこの鬼龍院理事長とは御爺様も懇意にしていたはずです。」

「鬼龍院一華理事長は体調不良を理由に引退、代わって姪の鬼龍院広美氏が新理事長に就任、校長の鬼龍院政子氏も同じく体調不良により前中等部校長鬼龍院静香校長に交代しております。
それとこの件に関して双龍寺総帥からお言葉がございます。」

「御爺様が、いったい何と?」

「”双龍寺財閥およびドラゴングループは高宮ひろし及び桜泉学園に関わるあらゆる事項から手を引く。事業として双方に利益のある提案に関しては許可するが、彼らを取り込み我がものとする行為の一切を禁止する。違反者は総帥として厳重に処罰する。”以上です。またお嬢様に伝言がございます。」

「なんですか、おっしゃいなさい。」

「はい、”男が欲しくば己の魅力で手に入れろ。”以上になります。」

「クッ、分かりました。下がりなさい。」

「は、失礼します。」

一礼をし部屋を下がる侍女。
部屋の主は悔し気に窓の外を眺め独り言ちる。

「これも二人の愛を確かめる試練だと言うのですね。いいでしょう、双龍寺蓮華、その試練乗り越えてみせましょう。待っていてください、ひろし君あなた。」

その瞳には怪しい光が揺らめいていた。


(side:B)

「葵ちゃん、おめでとう。聞いたよインターハイ個人の部優勝、団体は惜しかったね~、でも三位なら十分じゃない?」

「あ、内海さん。内海さんは四十八キロ級で準優勝でしたか、おめでとうございます。」

「そうなのよ、あと一歩届かなかったのよ。いい勝負はしてたんだけどね、最後判定で負けた時は悔しかったな~。あいつ優勢取ったら逃げに徹しやがって、思い出しただけでもイライラする。女ならバシッと一本取りにこんかい、根性見せろ根性。
でも葵ちゃんの成績なら次の期末考査でAクラス入り確実だね。これでようやく愛しのひろし君と同じクラスになれるね。」

「はい、ようやくスタートラインに立てます。彼はどんどん先に行ってしまいますから、私が少しでも追い付かないと。ひろし君旦那様の隣に並び立つのは私です。」

「おう、その気概、私は嫌いじゃないぞ。少しはあのグータラ男に分けてやりたい。」

「あぁ、佐々木君ですか。彼はやればできる子なんでしょうがやる気が無いといいますか、ダラダラするのが好きな様ですから。」

「それでいて実力があるのがムカつく。あののっぺり、こないだも夏目や吉川をスパンスパン投げてたんだよ?彼女達だってインターハイ五十二キロ級準優勝と五十七キロ級三位だよ?それが手も足も出ないなんておかしくない?それでいて全然強そうじゃないんだよ、あののっぺりは。何なのアレ、意味解んない。」

「アハハハ、何処でもそんな事をやってるんですね彼は。でも競技には全く興味はないそうですよ、たまに参加させてくれればいいってこないだ言ってたそうですから。」

「うん、顧問の先生が呆れ顔で言ってた。才能の無駄使いだって。のっぺりの奴”鬼ごっこ最高、逃走王の座は誰にも渡さん”とか言ってたし。」

「まぁ、彼らしいですね。でも彼がいないと焼き肉が食べれない事だけが残念です。」

「あぁ、焼肉の人。あれで顔さえイケメンならまた焼肉の機会もあったのに。」

「永遠のGクラスを自称してますからね。接点が持てません。」

「葵ちゃんならインターハイ優勝って言えば奢ってくれるんじゃない?ついでに私たちも。」

「流石にそこまで図々しくはなれませんよ。それにそんな事がひろし君に知られたらどうするんですか。」

「そっか~、私も他のイケメンターゲットに知られたくないわ、そんな事。」

「「はぁ~。」」

恋心と食欲に揺れる、乙女たちの青春なのでありました。
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