8 / 10
鈍色の螺旋 01
しおりを挟む
すっかり日の落ちた学校は生徒の影もなく森閑とし、既に玄関と職員室だけに明かりが灯されていた。
空に浮かぶ蒼い月に照らさた校庭は存外に明るかったが、それを背にした学校は黒く塗りぶされ廃墟のような静けさが不安を煽る。
別世界に入りこんだような…そんな気さえ起こさせた。
クラブの用事で遅くなった二人は並んで軽い談笑をしながらずらりと並んだ靴箱の前で自分の靴が収めされた扉を開ける。
勢い良く扉を開けた藤本の棚からフワリと落ちた手紙を晴海は空中で受け止めた。
パステルカラーの封筒に頼りない文字で綴られる見知らぬ女性の名前…
「返事を出すつもりはあるのか?」
晴海の何時もは柔らかい光を放つ瞳が射るように自分を伺うのに、藤本が緩く顔を横に振る。
それを確かめた晴海は手紙を真っ二つに引き裂くと、丸めてゴミ箱に投げ捨てた。
そのまま靴を履き歩き出す晴海に、ため息を付きながら藤本がその名を呼んだ。
「晴海!」
非難するような響きを持つ藤本の呼びかけに、晴海がゆっくりと振り向く。
月光を背にした晴海の表情は見えにくく、藤本はその姿を捉えようと瞳を凝らした。
ふわりと開かれる形の良い唇が、微かに動く…
「友人は何人持っても構わない、だけど、特別なのは俺だけにして欲しい…」
晴海の静かな声色に藤本は、はっと息を飲むと熱を持つ頬を隠すように俯いた。
「…… そんな、セリフは女の子相手に言えよ…」
「… いらない…藤本以外はいらない、何度もそう言ってるじゃないか」
自分に近寄ってくる晴海の足音に、逃げ出しそうとした藤本の足は大地に張り付いたように動かなかった。
「男同士で…これ以上…どうしようもないだろう…」
親友…それ以上の関係を築いた先にあるものの正体を…自分は知っている。
好きで好きで大好きで、友人になった今でも足りない自分の気持ちがもどかしくて…そう感じる自分に…絶望した。
先刻だって、手紙を破れた事を怒るどころか、受け入れている自身が…本当に
怖い…
「これ以上の関係に進んでも良い?」
感情の薄い声で問う晴海がついと下を向く自分の顎を撫でる。
ドクン…
と…心臓が、大きく高鳴る…
全部の神経が、自身を撫でる晴海の指先に集中しているようだ…
上がる熱に全身が焼かれて息苦しい…
「晴海がそれを…望むなら…」
喘ぐように吐き出した言葉に、晴海が吐息混じりに囁く。
「…藤本は狡い…」
全部、晴海のせいにして…先に進もうとする自分の狡猾さを責める晴海の言語は分かってはいても痛かった。
何処まで自分は見透かされているのか、思わず藤本の身体が固くなる。
さらに俯く藤本の顔を晴海の指に力がこもり、無理矢理に顔をぐいと上向かせた。
唇の上を軽く掠める軽やかな口付け
抱き締められた視線の先に、煌々と輝く銀の月の輪郭が藤本の視界の中で滲む…
「先に泣くな…俺が泣けなくなる…」
呟く晴海に答えて「ごめん…」と返そうとした藤本の言葉は、再び落とされた唇に溶けて流れた…
END
空に浮かぶ蒼い月に照らさた校庭は存外に明るかったが、それを背にした学校は黒く塗りぶされ廃墟のような静けさが不安を煽る。
別世界に入りこんだような…そんな気さえ起こさせた。
クラブの用事で遅くなった二人は並んで軽い談笑をしながらずらりと並んだ靴箱の前で自分の靴が収めされた扉を開ける。
勢い良く扉を開けた藤本の棚からフワリと落ちた手紙を晴海は空中で受け止めた。
パステルカラーの封筒に頼りない文字で綴られる見知らぬ女性の名前…
「返事を出すつもりはあるのか?」
晴海の何時もは柔らかい光を放つ瞳が射るように自分を伺うのに、藤本が緩く顔を横に振る。
それを確かめた晴海は手紙を真っ二つに引き裂くと、丸めてゴミ箱に投げ捨てた。
そのまま靴を履き歩き出す晴海に、ため息を付きながら藤本がその名を呼んだ。
「晴海!」
非難するような響きを持つ藤本の呼びかけに、晴海がゆっくりと振り向く。
月光を背にした晴海の表情は見えにくく、藤本はその姿を捉えようと瞳を凝らした。
ふわりと開かれる形の良い唇が、微かに動く…
「友人は何人持っても構わない、だけど、特別なのは俺だけにして欲しい…」
晴海の静かな声色に藤本は、はっと息を飲むと熱を持つ頬を隠すように俯いた。
「…… そんな、セリフは女の子相手に言えよ…」
「… いらない…藤本以外はいらない、何度もそう言ってるじゃないか」
自分に近寄ってくる晴海の足音に、逃げ出しそうとした藤本の足は大地に張り付いたように動かなかった。
「男同士で…これ以上…どうしようもないだろう…」
親友…それ以上の関係を築いた先にあるものの正体を…自分は知っている。
好きで好きで大好きで、友人になった今でも足りない自分の気持ちがもどかしくて…そう感じる自分に…絶望した。
先刻だって、手紙を破れた事を怒るどころか、受け入れている自身が…本当に
怖い…
「これ以上の関係に進んでも良い?」
感情の薄い声で問う晴海がついと下を向く自分の顎を撫でる。
ドクン…
と…心臓が、大きく高鳴る…
全部の神経が、自身を撫でる晴海の指先に集中しているようだ…
上がる熱に全身が焼かれて息苦しい…
「晴海がそれを…望むなら…」
喘ぐように吐き出した言葉に、晴海が吐息混じりに囁く。
「…藤本は狡い…」
全部、晴海のせいにして…先に進もうとする自分の狡猾さを責める晴海の言語は分かってはいても痛かった。
何処まで自分は見透かされているのか、思わず藤本の身体が固くなる。
さらに俯く藤本の顔を晴海の指に力がこもり、無理矢理に顔をぐいと上向かせた。
唇の上を軽く掠める軽やかな口付け
抱き締められた視線の先に、煌々と輝く銀の月の輪郭が藤本の視界の中で滲む…
「先に泣くな…俺が泣けなくなる…」
呟く晴海に答えて「ごめん…」と返そうとした藤本の言葉は、再び落とされた唇に溶けて流れた…
END
0
あなたにおすすめの小説
仲良くしようね
しち
BL
幼い頃から周囲が驚くほど仲良く育った年子の兄弟、豪と庵。庵は兄に特別な想いを抱いて育ち、その庵の気持ちに応える形で二人は恋人同士になった。
そんな二人が恋愛関係にあるとは知らないながらも、いつも優しく見守り、背中を押してくれた祖父を亡くした二人の話。兄×弟。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる