BL 短編集 

三森まり

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鈍色の螺旋 01

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すっかり日の落ちた学校は生徒の影もなく森閑とし、既に玄関と職員室だけに明かりが灯されていた。
空に浮かぶ蒼い月に照らさた校庭は存外に明るかったが、それを背にした学校は黒く塗りぶされ廃墟のような静けさが不安を煽る。
別世界に入りこんだような…そんな気さえ起こさせた。

クラブの用事で遅くなった二人は並んで軽い談笑をしながらずらりと並んだ靴箱の前で自分の靴が収めされた扉を開ける。

勢い良く扉を開けた藤本の棚からフワリと落ちた手紙を晴海は空中で受け止めた。
パステルカラーの封筒に頼りない文字で綴られる見知らぬ女性の名前…

「返事を出すつもりはあるのか?」

晴海の何時もは柔らかい光を放つ瞳が射るように自分を伺うのに、藤本が緩く顔を横に振る。
それを確かめた晴海は手紙を真っ二つに引き裂くと、丸めてゴミ箱に投げ捨てた。
そのまま靴を履き歩き出す晴海に、ため息を付きながら藤本がその名を呼んだ。

「晴海!」

非難するような響きを持つ藤本の呼びかけに、晴海がゆっくりと振り向く。
月光を背にした晴海の表情は見えにくく、藤本はその姿を捉えようと瞳を凝らした。
ふわりと開かれる形の良い唇が、微かに動く…

「友人は何人持っても構わない、だけど、特別なのは俺だけにして欲しい…」

晴海の静かな声色に藤本は、はっと息を飲むと熱を持つ頬を隠すように俯いた。

「…… そんな、セリフは女の子相手に言えよ…」

「… いらない…藤本以外はいらない、何度もそう言ってるじゃないか」

自分に近寄ってくる晴海の足音に、逃げ出しそうとした藤本の足は大地に張り付いたように動かなかった。

「男同士で…これ以上…どうしようもないだろう…」

親友…それ以上の関係を築いた先にあるものの正体を…自分は知っている。

好きで好きで大好きで、友人になった今でも足りない自分の気持ちがもどかしくて…そう感じる自分に…絶望した。

先刻だって、手紙を破れた事を怒るどころか、受け入れている自身が…本当に

  怖い…

「これ以上の関係に進んでも良い?」

感情の薄い声で問う晴海がついと下を向く自分の顎を撫でる。

ドクン…

と…心臓が、大きく高鳴る…
全部の神経が、自身を撫でる晴海の指先に集中しているようだ…

上がる熱に全身が焼かれて息苦しい…

「晴海がそれを…望むなら…」

喘ぐように吐き出した言葉に、晴海が吐息混じりに囁く。

「…藤本は狡い…」

全部、晴海のせいにして…先に進もうとする自分の狡猾さを責める晴海の言語は分かってはいても痛かった。
何処まで自分は見透かされているのか、思わず藤本の身体が固くなる。
さらに俯く藤本の顔を晴海の指に力がこもり、無理矢理に顔をぐいと上向かせた。

唇の上を軽く掠める軽やかな口付け

抱き締められた視線の先に、煌々と輝く銀の月の輪郭が藤本の視界の中で滲む…

「先に泣くな…俺が泣けなくなる…」

呟く晴海に答えて「ごめん…」と返そうとした藤本の言葉は、再び落とされた唇に溶けて流れた…




END

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