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鈍色の螺旋 02(前編)
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綺麗な空色のノートを開いてお母さんがトントンと指を鳴らす。
「うわぁ~~、儲けたぶん全部とんぢゃう」
向かいあってるので、背を伸ばしてそのノートを覗きこむとずらりと並ぶ数字の1番下に大きく書かれた赤い文字…
「ごめんね…」
と、思わず言ったら、ぼくにとても良く似ていると言われる目を大きく見開いてお母さんが長い睫毛をパチパチとさせた。
「ゆずちゃんのせいじゃないし、これは国家的な問題なんだわよ
それに、半年我慢したらすぐ半額くらいになるし、気にしないで」
綺麗な細い手が伸びてきてクシャリと髪を撫ぜられる。
「あらあら、気づいたらこんな時間、幼稚園に出かける用意はできてるの?」
顔を覗き込んでくるお母さんに、ぼくは大きく頷いた。
良い子ねよ言われると、くすぐったくて胸の奥がホクホクする。
隣町からお父さんのお仕事の関係で「叢雲町」に引っ越してきたのは3日前の事だ。
お母さんの仕事は引き続き隣町でする事になったけど、お仕事の間ぼくを預かってもらってた町営保育園に行く事ができくなった。
難しい事は良くわからないけれど、保育園は町がやってるので町を出たぼくはみんなとバイバイしなければならなくなったのだ。
保育園に行った最後の日に、皆から折り紙の輪っかで作った首飾りと、園のお庭にある花で作った花束をもらった。
少し泣いちゃたけどお母さんが心配するからそれは秘密
最初はちょっぴり寂しい気持ちになったけど、お引越しというのは凄く忙しくて気が付いたら今日の日になっていたって感じだ。
新しいおウチは前のマンションより綺麗で庭があるのが嬉しかった。
お花が色々咲いて、良い匂いのする庭からカーポートまで走る。
お母さんの運転する車に乗って着いた新しい幼稚園の前には、ピカピカで大きな車が引っ切り無しにやってきていた。
「ピカピカだねぇ~」
と物めづらしくその車を観察するぼくはお母さんが運転する側とは違う場所にハンドルが付いている車を沢山見付けた。
不思議に思って聞くと、お母さんが困ったような笑を浮かべる。
「あ~~面倒くさそうだなぁ…ここの幼稚園…まぁ、もう役員は決まってるんだろうし…どうにかなるか
なんだかんだ言った所で…空いてるのは此処だけだったんだし…延長保育も充実してるしね
うん
ゆずちゃんも、ビシッとしてこう!」
ブツブツとぼくは良くわからない事を呟いていたお母さんが、ぱっと胸を張り幼稚園の門をくぐる。
手を引かれて入ったそこは、ピカピカで可愛くて、お父さんとお母さんが特別だよと連れていってくれた事のあるテーマーパークを小さくしたような場所だった。
保育園では、気を抜いているとおもちゃを取られたり髪を引っ張られたり、眠くないのにお昼寝させらたりしたのに、ここにいる子達は皆お行儀良く、『お勉強』みたいなものはあったけど、お昼寝とかはなくて、9時に出されるおやつも、煮干じゃなくて甘くないビスケットとミルクだったりした。
遊具もピカピカで、ボールを取り合って泣く事もない、意地悪をする子もいなくて、ほっとする。
好きにして良い時間、皆がボールのあてっこをするというので広々とした中央の庭に出たら本物の草がミッシリ生えていて転んでも全然痛くないのに又びっくりした。
これは、芝生と言うんだ、お父さんと「ごるふ」っていうのに行った時こんな感じの草が生えていたのを覚えている。
その上を飛び交う綺麗な黄色のボールが芝生に転がっていくのを夢中で追いかけた。
急いで走ってそのボールを捕まえると皆が褒めてくれるのに、嬉しくなって頑張る!
「ゆずるくん!こっちこっち!」
「足はやい!!すごい、すごい!」
保育園ではぼくより早い子が多くはないけど確かにいたのに、ここの幼稚園の子はどの子の動きがトロトロしていた。
だからぼくもぶつけるんじゃなくて、痛くなようにお友達にそっとボール投げる。
多分、クラスの殆どの子がその遊びに夢中になってる中、茶色のふわふわした髪の子が教室と庭を隔てるドアからこちらを見ているのにふと気が付いた。
ガラス玉みたいなその瞳の色が綺麗で、思わず見入る。
「あの子だぁれ?何でみんなと遊ばないの?」
ぼくの指差す方向を見た子が、振りむくと口を開いた。
「たくとくん、ボール遊びはしないの、なんでなのかは知らない」
フルフルと顔を横に振る女の子の言葉に耳を傾けてるうちに、たくとくんは居なくなっていた。
そこにポンと飛んできた黄色いボールを答えてくれた女の子に渡し、ぼくはたくとくんの消えたガラスのドアを開ける。
するりと部屋の中に入ると、そっとドアを元のとおりに閉めた。
パタンと閉じたドアが、キャーキャーと皆の騒ぐ音を消してシーンとする部屋の奥から微かなオルガンの音が聞こえる。
足音を忍ばせ、そっとその音に近づく…
お遊戯で先生の弾くそれなんか比べ物にならない、音と音のキラキラした連なりがとても綺麗な曲に胸がドキドキした。
ふいにその音が止まって、白いオルガンの影からさっきのふわふわの髪の子が顔を出す。
「だれ?」
ちょっと眉を潜めたその顔にぼくの足がビクンとする。
お母さんも機嫌が悪い時、あんな眉になるんだ…
沢山続いてると、お父さんがお母さんの眉と眉の間を人差し指で優しく撫でる。
すると眉は柔らかい円を描いた何時もの優しいお母さんの眉に戻るんだけど、これはお父さんだけの魔法で、目の前の子にぼくがやってもたぶん効かないだろう。
「なにか、用?」
逃げて出してしまいたい気持ちを押さえて、お母さんと練習した言葉を大急ぎで口に出した。
「藤本譲です
よその園からこの園に来ました
宜しくおねがいします!」
あんまり急いだので、最後の「します」が「しみゃす」に近い感じになったので慌てて口を押さえたら、たくとくんがキョトンとした顔をした後、笑ったので少し気が楽になった。
それが、「晴海拓人」くんとぼくのはじめての出会いだった。
「うわぁ~~、儲けたぶん全部とんぢゃう」
向かいあってるので、背を伸ばしてそのノートを覗きこむとずらりと並ぶ数字の1番下に大きく書かれた赤い文字…
「ごめんね…」
と、思わず言ったら、ぼくにとても良く似ていると言われる目を大きく見開いてお母さんが長い睫毛をパチパチとさせた。
「ゆずちゃんのせいじゃないし、これは国家的な問題なんだわよ
それに、半年我慢したらすぐ半額くらいになるし、気にしないで」
綺麗な細い手が伸びてきてクシャリと髪を撫ぜられる。
「あらあら、気づいたらこんな時間、幼稚園に出かける用意はできてるの?」
顔を覗き込んでくるお母さんに、ぼくは大きく頷いた。
良い子ねよ言われると、くすぐったくて胸の奥がホクホクする。
隣町からお父さんのお仕事の関係で「叢雲町」に引っ越してきたのは3日前の事だ。
お母さんの仕事は引き続き隣町でする事になったけど、お仕事の間ぼくを預かってもらってた町営保育園に行く事ができくなった。
難しい事は良くわからないけれど、保育園は町がやってるので町を出たぼくはみんなとバイバイしなければならなくなったのだ。
保育園に行った最後の日に、皆から折り紙の輪っかで作った首飾りと、園のお庭にある花で作った花束をもらった。
少し泣いちゃたけどお母さんが心配するからそれは秘密
最初はちょっぴり寂しい気持ちになったけど、お引越しというのは凄く忙しくて気が付いたら今日の日になっていたって感じだ。
新しいおウチは前のマンションより綺麗で庭があるのが嬉しかった。
お花が色々咲いて、良い匂いのする庭からカーポートまで走る。
お母さんの運転する車に乗って着いた新しい幼稚園の前には、ピカピカで大きな車が引っ切り無しにやってきていた。
「ピカピカだねぇ~」
と物めづらしくその車を観察するぼくはお母さんが運転する側とは違う場所にハンドルが付いている車を沢山見付けた。
不思議に思って聞くと、お母さんが困ったような笑を浮かべる。
「あ~~面倒くさそうだなぁ…ここの幼稚園…まぁ、もう役員は決まってるんだろうし…どうにかなるか
なんだかんだ言った所で…空いてるのは此処だけだったんだし…延長保育も充実してるしね
うん
ゆずちゃんも、ビシッとしてこう!」
ブツブツとぼくは良くわからない事を呟いていたお母さんが、ぱっと胸を張り幼稚園の門をくぐる。
手を引かれて入ったそこは、ピカピカで可愛くて、お父さんとお母さんが特別だよと連れていってくれた事のあるテーマーパークを小さくしたような場所だった。
保育園では、気を抜いているとおもちゃを取られたり髪を引っ張られたり、眠くないのにお昼寝させらたりしたのに、ここにいる子達は皆お行儀良く、『お勉強』みたいなものはあったけど、お昼寝とかはなくて、9時に出されるおやつも、煮干じゃなくて甘くないビスケットとミルクだったりした。
遊具もピカピカで、ボールを取り合って泣く事もない、意地悪をする子もいなくて、ほっとする。
好きにして良い時間、皆がボールのあてっこをするというので広々とした中央の庭に出たら本物の草がミッシリ生えていて転んでも全然痛くないのに又びっくりした。
これは、芝生と言うんだ、お父さんと「ごるふ」っていうのに行った時こんな感じの草が生えていたのを覚えている。
その上を飛び交う綺麗な黄色のボールが芝生に転がっていくのを夢中で追いかけた。
急いで走ってそのボールを捕まえると皆が褒めてくれるのに、嬉しくなって頑張る!
「ゆずるくん!こっちこっち!」
「足はやい!!すごい、すごい!」
保育園ではぼくより早い子が多くはないけど確かにいたのに、ここの幼稚園の子はどの子の動きがトロトロしていた。
だからぼくもぶつけるんじゃなくて、痛くなようにお友達にそっとボール投げる。
多分、クラスの殆どの子がその遊びに夢中になってる中、茶色のふわふわした髪の子が教室と庭を隔てるドアからこちらを見ているのにふと気が付いた。
ガラス玉みたいなその瞳の色が綺麗で、思わず見入る。
「あの子だぁれ?何でみんなと遊ばないの?」
ぼくの指差す方向を見た子が、振りむくと口を開いた。
「たくとくん、ボール遊びはしないの、なんでなのかは知らない」
フルフルと顔を横に振る女の子の言葉に耳を傾けてるうちに、たくとくんは居なくなっていた。
そこにポンと飛んできた黄色いボールを答えてくれた女の子に渡し、ぼくはたくとくんの消えたガラスのドアを開ける。
するりと部屋の中に入ると、そっとドアを元のとおりに閉めた。
パタンと閉じたドアが、キャーキャーと皆の騒ぐ音を消してシーンとする部屋の奥から微かなオルガンの音が聞こえる。
足音を忍ばせ、そっとその音に近づく…
お遊戯で先生の弾くそれなんか比べ物にならない、音と音のキラキラした連なりがとても綺麗な曲に胸がドキドキした。
ふいにその音が止まって、白いオルガンの影からさっきのふわふわの髪の子が顔を出す。
「だれ?」
ちょっと眉を潜めたその顔にぼくの足がビクンとする。
お母さんも機嫌が悪い時、あんな眉になるんだ…
沢山続いてると、お父さんがお母さんの眉と眉の間を人差し指で優しく撫でる。
すると眉は柔らかい円を描いた何時もの優しいお母さんの眉に戻るんだけど、これはお父さんだけの魔法で、目の前の子にぼくがやってもたぶん効かないだろう。
「なにか、用?」
逃げて出してしまいたい気持ちを押さえて、お母さんと練習した言葉を大急ぎで口に出した。
「藤本譲です
よその園からこの園に来ました
宜しくおねがいします!」
あんまり急いだので、最後の「します」が「しみゃす」に近い感じになったので慌てて口を押さえたら、たくとくんがキョトンとした顔をした後、笑ったので少し気が楽になった。
それが、「晴海拓人」くんとぼくのはじめての出会いだった。
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