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鈍色の螺旋 02 (後編)
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「なぜ?ボール遊びしないの?」
小首を傾げるその子の赤茶の髪がサラリと流れる。
「指、怪我しちゃうとね
ピアノ弾けなくなるからお祖母様に叱られるんだ」
質問に答えた僕の目の前で考え込むその子の綺麗な色の瞳が眇られ、長い睫毛が影を落とす。
同じ園の子達は皆どこかしら、気持ちがふわふわしているので話していてイライラする事が多かったのだけれど、その子は違っていた。
「指、指を使わなきゃ良いの?」
頷くと、部屋の角に置いてある玩具箱から少し大きめの白いボールを取ってきた。
「サッカーって知ってる?」
しゃがみこんでその子…藤本譲と名乗った子が自分の目の前にボールを置くと足で僕にボールを蹴ってきた。
思わずそのボールを足で止める。
「こっちに蹴るんだよ?」
お部屋でボール遊びをしちゃいけませんという先生のことばを思い出したけれど、藤本くんの一生懸命な瞳の色につい頷いてしまった。
足先に力を集中させてゆっくりとボールを蹴り出す。
どこに藤本くんが蹴り出しても蹴り返せるように、少し身体の重心を落とし構えていると物凄く正確に足元に蹴り返されて驚く。
偶然か?
もう1度蹴り返したボールはやはり同じ位置に返ってきた。
少し角度を変えて蹴ってもやっぱり同じ位置に藤本くんはボールを蹴り返してくれる。
弱く強く変化を付けて、それに合わせ藤本くんも同じリズムで動く…
ふたりの間で行き来する白いボール
ひとりじゃない、二人で奏でる連弾を弾いているようなそんな感じに胸が弾んで、凄く楽しい。
時間を忘れて二人で遊んでいると、突然後から女の人の怒った声が聞こえた。
ドクンと今度は違った意味で胸が大きく鳴る。
「ダメでしょう!教室ではボール遊びをしては!!
譲くんはまだ、幼稚園に来たばかりで知らないかもしれないけど
拓人くんは知ってる筈よね!」
尖ったその声に耳を塞ぎたくなる…先生のお小言が止まらない…その姿がピアノの指導をしている時のお祖母様の姿と重なる。
男の人に怒られるのは我慢できるけれど…女の人に怒られるのが僕はとても苦手だった。
ジンワリと熱くなる瞳を閉じてぐっと拳を握る。
泣くな、ここで泣いたら新しく出来たお友達が困ってしまう…
そう、自分に言い聞かせていたら先生と僕の間に藤本くんが割って入った。
「ぼくが、たくとくんと遊ぼうって言ったんです
たくとくんはゼンゼン悪くないんです」
僕を庇って両手を広げる藤本くんのその背が滲む。
「ゴメンなさい!」
僕が大きな声で謝ったら、先生がちょっと驚ろき身体を引いたその横を藤本くんの手を握って駆け抜けた。
そのまま、裏庭の端にある温室まで藤本くんを連れて行く。
温かい温室は冬場には温かくて人気があるけれど、暖かくなると暑いので人が殆ど来ない。
「ごめんね
あの先生は何時もあぁなんだ…」
走ったせいで上がる息を吐き出しながら、振り向いたら藤本くんが色とりどりのお花に嬉しそうに跳ね回っていた。
「知ってるよ えっと、ヒステリックな人って言うんでしょう?
保育園にはもっと凄い先生いたから気にしないよぉ
お母さんがそういう人はどこにでもいるって、ねっ言ってたし
たくとくんは悪くないんだから、あやまるの可笑しいしぃ…」
僕にそうことばを返してくれた藤本くんが、大きな目をさらに大きく見開いて白い制服のポケットからウサギのプリントのハンカチを取り出した。
そして、そっと僕の頬を拭ってくれる。
「けーべつする?」
我慢したつもりだったけど、泣いてしまっていたらしい自分が悔しくて下を向きながら藤本くんに聞いたら。
「何が?」
と、問い返されてしまった。
「男の子は泣いちゃいけないんだって」
答える僕に、藤本くんが笑う。
「え~~、子供は泣くのがショウバイなんだよって お母さんが言ったよ
って、これは、赤ちゃんの事か
でも、ぼくらは、赤ちゃんに毛のハエタみたいな感じだもの
泣いても良いんだよ」
「そーなの?」
「そーだよ、お母さんのいう事はタイテイ、正しいんだ」
「絶対じゃなくて、大抵なの?」
「そうだよ」
と、大きく頷く藤本くんは背にしているどの花よりも綺麗だった。
多分その日が長い長い恋の始まり…
それが、「藤本譲」くんと僕のはじめての出会いだった。
END
※おまけはR-18なので~ R-18短編集にてご覧くださいまし(*´∀`*)b
小首を傾げるその子の赤茶の髪がサラリと流れる。
「指、怪我しちゃうとね
ピアノ弾けなくなるからお祖母様に叱られるんだ」
質問に答えた僕の目の前で考え込むその子の綺麗な色の瞳が眇られ、長い睫毛が影を落とす。
同じ園の子達は皆どこかしら、気持ちがふわふわしているので話していてイライラする事が多かったのだけれど、その子は違っていた。
「指、指を使わなきゃ良いの?」
頷くと、部屋の角に置いてある玩具箱から少し大きめの白いボールを取ってきた。
「サッカーって知ってる?」
しゃがみこんでその子…藤本譲と名乗った子が自分の目の前にボールを置くと足で僕にボールを蹴ってきた。
思わずそのボールを足で止める。
「こっちに蹴るんだよ?」
お部屋でボール遊びをしちゃいけませんという先生のことばを思い出したけれど、藤本くんの一生懸命な瞳の色につい頷いてしまった。
足先に力を集中させてゆっくりとボールを蹴り出す。
どこに藤本くんが蹴り出しても蹴り返せるように、少し身体の重心を落とし構えていると物凄く正確に足元に蹴り返されて驚く。
偶然か?
もう1度蹴り返したボールはやはり同じ位置に返ってきた。
少し角度を変えて蹴ってもやっぱり同じ位置に藤本くんはボールを蹴り返してくれる。
弱く強く変化を付けて、それに合わせ藤本くんも同じリズムで動く…
ふたりの間で行き来する白いボール
ひとりじゃない、二人で奏でる連弾を弾いているようなそんな感じに胸が弾んで、凄く楽しい。
時間を忘れて二人で遊んでいると、突然後から女の人の怒った声が聞こえた。
ドクンと今度は違った意味で胸が大きく鳴る。
「ダメでしょう!教室ではボール遊びをしては!!
譲くんはまだ、幼稚園に来たばかりで知らないかもしれないけど
拓人くんは知ってる筈よね!」
尖ったその声に耳を塞ぎたくなる…先生のお小言が止まらない…その姿がピアノの指導をしている時のお祖母様の姿と重なる。
男の人に怒られるのは我慢できるけれど…女の人に怒られるのが僕はとても苦手だった。
ジンワリと熱くなる瞳を閉じてぐっと拳を握る。
泣くな、ここで泣いたら新しく出来たお友達が困ってしまう…
そう、自分に言い聞かせていたら先生と僕の間に藤本くんが割って入った。
「ぼくが、たくとくんと遊ぼうって言ったんです
たくとくんはゼンゼン悪くないんです」
僕を庇って両手を広げる藤本くんのその背が滲む。
「ゴメンなさい!」
僕が大きな声で謝ったら、先生がちょっと驚ろき身体を引いたその横を藤本くんの手を握って駆け抜けた。
そのまま、裏庭の端にある温室まで藤本くんを連れて行く。
温かい温室は冬場には温かくて人気があるけれど、暖かくなると暑いので人が殆ど来ない。
「ごめんね
あの先生は何時もあぁなんだ…」
走ったせいで上がる息を吐き出しながら、振り向いたら藤本くんが色とりどりのお花に嬉しそうに跳ね回っていた。
「知ってるよ えっと、ヒステリックな人って言うんでしょう?
保育園にはもっと凄い先生いたから気にしないよぉ
お母さんがそういう人はどこにでもいるって、ねっ言ってたし
たくとくんは悪くないんだから、あやまるの可笑しいしぃ…」
僕にそうことばを返してくれた藤本くんが、大きな目をさらに大きく見開いて白い制服のポケットからウサギのプリントのハンカチを取り出した。
そして、そっと僕の頬を拭ってくれる。
「けーべつする?」
我慢したつもりだったけど、泣いてしまっていたらしい自分が悔しくて下を向きながら藤本くんに聞いたら。
「何が?」
と、問い返されてしまった。
「男の子は泣いちゃいけないんだって」
答える僕に、藤本くんが笑う。
「え~~、子供は泣くのがショウバイなんだよって お母さんが言ったよ
って、これは、赤ちゃんの事か
でも、ぼくらは、赤ちゃんに毛のハエタみたいな感じだもの
泣いても良いんだよ」
「そーなの?」
「そーだよ、お母さんのいう事はタイテイ、正しいんだ」
「絶対じゃなくて、大抵なの?」
「そうだよ」
と、大きく頷く藤本くんは背にしているどの花よりも綺麗だった。
多分その日が長い長い恋の始まり…
それが、「藤本譲」くんと僕のはじめての出会いだった。
END
※おまけはR-18なので~ R-18短編集にてご覧くださいまし(*´∀`*)b
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