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第49話 【クリスへの手紙とミラの不安】
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宿に戻った俺は、部屋の小さな机に向かった。
窓の外から、波の音が聞こえる。
規則正しいリズム。
落ち着く音だ。
ペンを手に取る。
インク瓶の蓋を開けた。
* * *
クリスに手紙を書こう。
そう思ったのは、市場から戻る途中だった。
彼女がいない日々が、もう4日になる。
長いような、短いような。
ペン先を紙に当てる。
『クリス』
書き出してから、少し迷う。
何を書けばいいんだ。
師匠の具合はどうか。
それとも、こっちの状況を伝えるべきか。
ペンが止まる。
月明かりが机を照らしていた。
『師匠の具合はどうだ?』
まずはそこからだ。
彼女が王都に戻ったのは師匠のためだった。
心配しているはずだ。
『こちらは順調だ』
そう書いてから、言葉を探す。
順調……か。
確かに、レヴィアス討伐の準備は進んでいる。
セレナも加わって、パーティは機能している。
でも。
『新しい仲間、セレナが加わった』
ペンを止める。
この一文だけでは、誤解を招くかもしれない。
俺は急いで次の行を書いた。
『彼女は優秀だが、お前の代わりにはならない』
書いてから、少し恥ずかしくなった。
こんなこと、書く必要があったのか。
でも、消さなかった。
本当のことだから。
『早く戻ってこい』
そこまで書いて、また手が止まる。
命令みたいだ。
もっと、違う言い方があるんじゃないか。
俺は小さく息を吐いた。
『お前がいないと、なんだか落ち着かない』
素直すぎるか。
でも、これも本当のことだ。
クリスがいないパーティは、どこか物足りない。
最後に、大切なことを付け加えた。
『青い花のブローチは、大切に持っている』
封筒に入れて、宛名を書く。
通信魔法で送る準備を整えた。
魔力を込める。
封筒が淡く光り、消える。
これで、明日の朝には届くはずだ。
その時。
机の上で、別の封筒が光り始めた。
通信魔法の受信。
クリスからの返信だった。
封を切る。
『アクセル、こちらも順調よ。師匠は少しずつ回復してる』
良かった。
俺は少しホッとした。
『そちらでマルセルたちの噂を聞いたわ。E級依頼ばかり受けてるとか。大丈夫なのかしら』
ああ、そうか。
元パーティのことか。
俺は、もうあまり気にしていなかった。
手紙をたたむ。
窓の外を見た。
星が綺麗だった。
* * *
その頃。
別の部屋では、ミラとセレナが向かい合っていた。
ベッドに座るミラ。
椅子に座るセレナ。
二人の間に、微妙な沈黙が流れる。
「……」
ミラの視線が下を向く。
膝の上で手を組んでいた。
「ミラさん」
セレナが声をかける。
「何か、悩みがあります?」
「……別に」
ミラが小さく答える。
その声は、いつもより弱かった。
「嘘!」
セレナが身を乗り出す。
「顔に出てますよ!」
「……」
ミラの肩が、わずかに震える。
セレナの表情が、心配そうに変わった。
「あの……」
ミラが口を開く。
「私、役に立ててるのかな」
「え?」
セレナが驚いた顔をした。
「どうして、そんなこと」
「だって」
ミラの声が、さらに小さくなる。
「クリスさんは強くて、頭も良くて」
「セレナさんも、水中では私より強い」
彼女の手が、握られていく。
「私、何ができるんだろう」
セレナは、しばらく黙っていた。
ミラの言葉を、受け止めるように。
それから、ゆっくりと口を開く。
「……わかります」
セレナの声が、優しくなった。
「私も、そう思うことあります」
「え?」
ミラが顔を上げる。
「セレナさんが?」
「はい」
セレナが頷いた。
「水中では役に立てても、陸上では足手まといかもって」
「でも、ダリウスさんが言ってくれたんです」
彼女の表情が、少し明るくなる。
「それぞれ得意分野があるって」
「みんなで補い合えばいいって」
セレナが、ミラの手を取る。
温かい手だった。
「ミラさん」
セレナが真っ直ぐにミラを見る。
「あなたは十分、頑張ってます」
「それに」
彼女が少し笑った。
「陸上では、あなたの方が強いじゃないですか」
「氷魔法、すごいですよ」
「シャークマンタ戦の時も、あなたの魔法で助かりました」
「でも……」
ミラが視線を泳がせる。
「最近、陸で戦ってない」
「それは、たまたまです」
セレナが首を振る。
「この海域にいるから、水中戦が多いだけ」
「次の封印に行けば、きっとミラさんの出番です」
ミラの目が、少し潤んでいた。
涙ではない。
何かが溶けていく感じ。
「……ありがとう」
ミラが小さく笑った。
「少し、楽になった」
「良かった」
セレナも笑顔を見せる。
「自信を持ってください」
「アクセルさんもダリウスさんも、あなたを信頼してます」
「私も、ミラさんと一緒に戦えて嬉しいです」
その時。
ノックの音が響いた。
「はい、どうぞ!」
セレナが答える。
扉が開く。
ダリウスだった。
「お前ら、まだ起きてたのか」
「はい」
セレナが頷く。
「二人で話してました」
「そうか」
ダリウスが首を傾げる。
「まあ、いいや」
彼が窓の外を指差した。
「外が騒がしいんだ」
「騒がしい?」
ミラが立ち上がる。
三人で窓に近づく。
港の方向。
霧が濃くなっていた。
その中に、いくつかの人影。
明かりが揺れている。
「……あの時間に、誰が」
セレナが眉をひそめる。
「漁師にしては、動きがおかしい」
ダリウスが腕を組んだ。
「怪しいな」
その時、アクセルの部屋の扉が開く音がした。
廊下に出ると、アクセルが立っていた。
「お前らも気づいたか」
「ああ」
ダリウスが頷く。
「見に行くか?」
アクセルが訊く。
「当然だろ」
ダリウスが笑った。
ミラが装備を確認する。
セレナも、腰の水晶に触れた。
四人の視線が、窓の外に向く。
霧の中の人影。
何かが動いている。
「……行こう」
アクセルが静かに言った。
宿を出る。
夜の港町。
波の音だけが響いていた。
窓の外から、波の音が聞こえる。
規則正しいリズム。
落ち着く音だ。
ペンを手に取る。
インク瓶の蓋を開けた。
* * *
クリスに手紙を書こう。
そう思ったのは、市場から戻る途中だった。
彼女がいない日々が、もう4日になる。
長いような、短いような。
ペン先を紙に当てる。
『クリス』
書き出してから、少し迷う。
何を書けばいいんだ。
師匠の具合はどうか。
それとも、こっちの状況を伝えるべきか。
ペンが止まる。
月明かりが机を照らしていた。
『師匠の具合はどうだ?』
まずはそこからだ。
彼女が王都に戻ったのは師匠のためだった。
心配しているはずだ。
『こちらは順調だ』
そう書いてから、言葉を探す。
順調……か。
確かに、レヴィアス討伐の準備は進んでいる。
セレナも加わって、パーティは機能している。
でも。
『新しい仲間、セレナが加わった』
ペンを止める。
この一文だけでは、誤解を招くかもしれない。
俺は急いで次の行を書いた。
『彼女は優秀だが、お前の代わりにはならない』
書いてから、少し恥ずかしくなった。
こんなこと、書く必要があったのか。
でも、消さなかった。
本当のことだから。
『早く戻ってこい』
そこまで書いて、また手が止まる。
命令みたいだ。
もっと、違う言い方があるんじゃないか。
俺は小さく息を吐いた。
『お前がいないと、なんだか落ち着かない』
素直すぎるか。
でも、これも本当のことだ。
クリスがいないパーティは、どこか物足りない。
最後に、大切なことを付け加えた。
『青い花のブローチは、大切に持っている』
封筒に入れて、宛名を書く。
通信魔法で送る準備を整えた。
魔力を込める。
封筒が淡く光り、消える。
これで、明日の朝には届くはずだ。
その時。
机の上で、別の封筒が光り始めた。
通信魔法の受信。
クリスからの返信だった。
封を切る。
『アクセル、こちらも順調よ。師匠は少しずつ回復してる』
良かった。
俺は少しホッとした。
『そちらでマルセルたちの噂を聞いたわ。E級依頼ばかり受けてるとか。大丈夫なのかしら』
ああ、そうか。
元パーティのことか。
俺は、もうあまり気にしていなかった。
手紙をたたむ。
窓の外を見た。
星が綺麗だった。
* * *
その頃。
別の部屋では、ミラとセレナが向かい合っていた。
ベッドに座るミラ。
椅子に座るセレナ。
二人の間に、微妙な沈黙が流れる。
「……」
ミラの視線が下を向く。
膝の上で手を組んでいた。
「ミラさん」
セレナが声をかける。
「何か、悩みがあります?」
「……別に」
ミラが小さく答える。
その声は、いつもより弱かった。
「嘘!」
セレナが身を乗り出す。
「顔に出てますよ!」
「……」
ミラの肩が、わずかに震える。
セレナの表情が、心配そうに変わった。
「あの……」
ミラが口を開く。
「私、役に立ててるのかな」
「え?」
セレナが驚いた顔をした。
「どうして、そんなこと」
「だって」
ミラの声が、さらに小さくなる。
「クリスさんは強くて、頭も良くて」
「セレナさんも、水中では私より強い」
彼女の手が、握られていく。
「私、何ができるんだろう」
セレナは、しばらく黙っていた。
ミラの言葉を、受け止めるように。
それから、ゆっくりと口を開く。
「……わかります」
セレナの声が、優しくなった。
「私も、そう思うことあります」
「え?」
ミラが顔を上げる。
「セレナさんが?」
「はい」
セレナが頷いた。
「水中では役に立てても、陸上では足手まといかもって」
「でも、ダリウスさんが言ってくれたんです」
彼女の表情が、少し明るくなる。
「それぞれ得意分野があるって」
「みんなで補い合えばいいって」
セレナが、ミラの手を取る。
温かい手だった。
「ミラさん」
セレナが真っ直ぐにミラを見る。
「あなたは十分、頑張ってます」
「それに」
彼女が少し笑った。
「陸上では、あなたの方が強いじゃないですか」
「氷魔法、すごいですよ」
「シャークマンタ戦の時も、あなたの魔法で助かりました」
「でも……」
ミラが視線を泳がせる。
「最近、陸で戦ってない」
「それは、たまたまです」
セレナが首を振る。
「この海域にいるから、水中戦が多いだけ」
「次の封印に行けば、きっとミラさんの出番です」
ミラの目が、少し潤んでいた。
涙ではない。
何かが溶けていく感じ。
「……ありがとう」
ミラが小さく笑った。
「少し、楽になった」
「良かった」
セレナも笑顔を見せる。
「自信を持ってください」
「アクセルさんもダリウスさんも、あなたを信頼してます」
「私も、ミラさんと一緒に戦えて嬉しいです」
その時。
ノックの音が響いた。
「はい、どうぞ!」
セレナが答える。
扉が開く。
ダリウスだった。
「お前ら、まだ起きてたのか」
「はい」
セレナが頷く。
「二人で話してました」
「そうか」
ダリウスが首を傾げる。
「まあ、いいや」
彼が窓の外を指差した。
「外が騒がしいんだ」
「騒がしい?」
ミラが立ち上がる。
三人で窓に近づく。
港の方向。
霧が濃くなっていた。
その中に、いくつかの人影。
明かりが揺れている。
「……あの時間に、誰が」
セレナが眉をひそめる。
「漁師にしては、動きがおかしい」
ダリウスが腕を組んだ。
「怪しいな」
その時、アクセルの部屋の扉が開く音がした。
廊下に出ると、アクセルが立っていた。
「お前らも気づいたか」
「ああ」
ダリウスが頷く。
「見に行くか?」
アクセルが訊く。
「当然だろ」
ダリウスが笑った。
ミラが装備を確認する。
セレナも、腰の水晶に触れた。
四人の視線が、窓の外に向く。
霧の中の人影。
何かが動いている。
「……行こう」
アクセルが静かに言った。
宿を出る。
夜の港町。
波の音だけが響いていた。
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