追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

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第50話 【霧の中の密輸者】

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 港へ向かう道は暗かった。

 月は雲に隠れている。

 足音だけが石畳に響く。

 四人の呼吸が、夜気に白く溶ける。

「……霧が濃くなってきた」

 ダリウスが呟いた。

 視界が急速に狭まっていく。

 三メートル先が、もう見えない。

 俺は足を止めた。

 霧が這うように広がっている。

 倉庫街全体を覆う、白い壁。

「港の方角だな」

 セレナが前を指差す。

 微かに、明かりが揺れていた。

 人の気配。

 複数。

「静かに近づこう」

 俺は小声で言った。

 四人で足音を殺す。

 湿った石畳が滑る。

 注意深く、一歩ずつ。

 倉庫の影に身を潜めた。

 木箱が積まれている。

 その隙間から覗く。

 人影が、十人ほど。

 ランタンの明かりが揺れている。

 何かを運んでいた。

「――で、今夜の荷は?」

 低い声が聞こえた。

 五メートル先。

 霧で姿がぼやけている。

「特別なもんだ。レヴィアスの鱗の欠片だぞ」

 別の男が答える。

「これが売れれば大金だ」

 俺は息を呑んだ。

 レヴィアス。

 封印の守護者の、鱗。

 セレナが小さく息を吸う。

 ミラの手が震えていた。

 ダリウスが武器に手をかける。

「……どこで手に入れたんだ?」

「海底洞窟でな。座標は北緯――」

 数字が続く。

 俺は必死で覚えようとした。

 だが、風が吹いて声がかき消される。

「誰かいるか?」

 突然、声が近づいた。

 足音。

 こちらに向かってくる。

 セレナが水の魔法を構える。

 青白い光が指先に灯った。

 だが、足音が止まる。

「……気のせいか」

 男が遠のいていく。

 四人で顔を見合わせた。

「十分だ」

 俺は立ち上がった。

「捕まえて、詳しく聞こう」

 * * *

 四人で倉庫に突入した。

 密輸組織が振り返る。

「何者だ!?」

「冒険者だ」

 ダリウスが剣を抜く。

「お前らを取り締まる」

「舐めるな!」

 組織のメンバーが武器を構えた。

 十人全員。

 戦闘態勢。

 俺は前に出た。

「【範囲弱体化】!」

 魔法陣が足元に広がる。

 霧全体が渦を巻いた。

 呪いが密輸組織を包む。

「――なんだこれは!?」

 男たちの動きが鈍る。

 全員が。

 同時に。

「今だ!」

 ダリウスが駆けた。

 一撃。

 最前列の男が倒れる。

 二撃。

 三撃。

 正確な剣が敵を薙ぎ払う。

 セレナが詠唱を始めた。

「【アクアチェイン】」

 水が地面から這い上がる。

 五人の足を絡め取った。

「くそっ、動けない!」

 男たちが叫ぶ。

 水の鎖が締め上げる。

 ミラが杖を構える。

 彼女の手が震えていた。

 だが、声は決然としている。

「【アイスプリズン】」

 氷の壁が立ち上がった。

 残りの密輸組織を囲む。

 逃げ道を、完全に断つ。

「やった……」

 ミラが小さく呟いた。

 その声には驚きが混じっている。

 戦闘は十分で終わった。

 密輸組織は全員、地に伏している。

 誰一人として抵抗できない。

「完璧だったな」

 ダリウスが肩で息をする。

「お前らの連携、すげぇよ」

 セレナが微笑んだ。

「チームワークですね」

 彼女の額に汗が光る。

 だが、その表情は穏やかだった。

 ミラが不安そうに俺を見た。

「あ、あの……私、ちゃんと……」

「役に立ったよ」

 俺は頷いた。

「お前の氷結がなければ、逃げられてた」

「ほ、本当に……ですか?」

 ミラの目が潤む。

 セレナが彼女の肩に手を置いた。

「ええ。完璧でしたよ、ミラさん」

 優しい声。

 温かい笑顔。

 ミラが少し、笑った。

 まだ不安は残っている。

 だが、以前よりも自信がある。

 俺は密輸組織のリーダーに近づいた。

 大柄な男。

 顔に傷がある。

「話を聞かせてもらう」

 俺は冷静に言った。

「レヴィアスの鱗。どこで手に入れた?」

「……」

 男は俯いたまま黙っている。

 頑なな沈黙。

「そうか」

 セレナが前に出た。

 その声は静かだった。

 だが、何か圧力がある。

「では、憲兵隊に引き渡しますね」

 彼女が淡々と告げる。

「密輸の罪。重いですよ」

「待て」

 男が顔を上げた。

 冷や汗が流れている。

「……何が知りたい」

 観念したような声。

 俺は一歩近づく。

「レヴィアスの巣だ」

 俺は真っ直ぐに男を見た。

「場所を知っているんだろう?」

「……北の商人から聞いた」

 男が重い口を開く。

「取引の情報として、買った」

「詳しく話せ」

 セレナの声。

 穏やかだが、有無を言わせない。

「……アクアベル沖、百キロ」

 男が地図を取り出した。

 古びた羊皮紙。

「海底洞窟の入口がある」

 男が震える手で印を指す。

「ここだ。だが……」

「だが?」

 ダリウスが訊く。

「嵐がひどすぎる」

 男の顔が青ざめた。

「近づいた船は、全部転覆する」

「俺たちも、一度試したが……」

「仲間が死んだのか」

 セレナが静かに訊いた。

「……ああ」

 男が頷く。

「だから、鱗を拾うだけにした」

「もう、あそこには近づかねぇ」

 俺は地図を受け取った。

 座標が細かく記されている。

 これが、レヴィアスの巣。

「ありがとう」

 セレナが男に言った。

「正直に話してくれて」

 男が驚いたように彼女を見る。

 その目に、僅かな安堵があった。

 * * *

 密輸組織を憲兵隊に引き渡した。

 報酬として金貨二百枚。

 それだけでなく。

「本当に、ありがとうございます」

 町長が深く頭を下げた。

 初老の男性。

 目に涙が浮かんでいる。

「いえ」

 セレナが微笑む。

「当然のことをしただけです」

 周囲に町の人々が集まっていた。

 漁師、商人、子供たち。

 みんなが感謝の目を向けている。

「密輸組織のせいで……」

 一人の漁師が言った。

「港の治安が悪化していたんです」

「夜は出歩けなかった」

「もう大丈夫ですよ」

 セレナが優しく答える。

「彼らはもう、戻ってきません」

 町の人々の顔が明るくなる。

 子供が母親に抱きつく。

「ママ、もう怖くない?」

「ええ」

 母親が笑った。

「もう大丈夫よ」

 ダリウスが照れくさそうに頭を掻く。

「礼を言われるのは、慣れねぇな」

「でも、悪くないでしょう?」

 ミラが小さく笑った。

 彼女の表情は、以前より明るい。

 町長が俺たちを見る。

「あなた方を、信頼できると分かった今……」

 声を潜める。

「お話ししたいことがあります」

 * * *

 町長の家に招かれた。

 小さな書斎。

 本棚には古い書物が並んでいる。

「密輸組織が探していた、鱗」

 町長が机の上に地図を広げた。

「実は、私も持っています」

「え?」

 ミラが驚く。

「代々、町長が管理してきたものです」

 町長が古びた木箱を取り出す。

 中には、青く光る鱗の欠片。

「これは……」

 セレナが息を呑んだ。

「レヴィアスの」

「ええ」

 町長が頷く。

「五十年前、まだ封印が強かった頃」

「海底から引き揚げられたものです」

 セレナが鱗を見つめる。

 その目には、決意が宿っていた。

「そして、これを」

 町長が別の地図を取り出した。

 こちらは、さらに古い。

「古代の航海図です」

 町長の声が震える。

「レヴィアスの巣へ至る、ルートが記されている」

 俺は地図を見た。

 詳細な座標。

 海流の流れ。

 危険海域の印。

「これがあれば……」

 セレナが呟く。

「行けます。レヴィアスのもとへ」

「ですが」

 町長の表情が曇る。

「誰も、その深度から戻ったことは……」

「行きます」

 セレナの声が、部屋に響いた。

 静かだが、確固たる決意。

「必ず、戻ります」

 彼女が町長を見る。

「そして、封印を強化します」

 町長がゆっくりと頷いた。

「……分かりました」

 地図を俺たちに差し出す。

「どうか、気をつけて」

 俺は地図を受け取った。

 これが、レヴィアスへの道。

 世界を救うための、鍵。

 ミラが不安そうに呟く。

「で、でも……深海って……」

「大丈夫」

 セレナが微笑んだ。

「私たちなら、できます」

 その言葉に、力があった。

 ミラが少し、安心したように見える。

 ダリウスが腕を組む。

「いよいよ本番ってわけか」

「燃えてきたぜ」

 俺は窓の外を見た。

 霧が晴れ始めている。

 朝の光が差し込んでいた。

「明日、出発しよう」

 俺は三人を見る。

「レヴィアスの巣へ」

 三人が頷く。

 決意が、四人を繋いでいた。

 港町の夜は、静かに明けていく。

 波の音が、穏やかに響いていた。
 
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