追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

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第55話 レヴィアス戦①・邂逅と水中戦闘

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 冷たい。

 水に包まれた瞬間、全身の熱が奪われた。
 首飾りが温かく光り、呼吸はできる。
 だが、この冷たさだけは防げなかった。

 アクセルは目を凝らした。
 青白い光が、遥か下から届いている。
 水晶の輝きだ。
 それ以外は、闇だった。

 セレナが手を振った。
 ついてきて、という合図だ。

 四人は、渦に向かって泳ぎ始めた。

  * * *

 深度が増すにつれ、光が弱くなる。

 代わりに、奇妙なものが見え始めた。
 巨大な海藻の森だ。
 一本一本が、大木のように太い。
 暗い水の中で、ゆらゆらと揺れている。

 体が震えた。
 寒さのせいだけではない。

 ダリウスが隣を泳いでいる。
 彼の動きは重かった。
 水の抵抗が、すべての動作を鈍らせている。

 ミラは杖を胸に抱いていた。
 顔色が青い。
 いや、水の色がそう見せているだけかもしれない。

 セレナだけが、魚のように滑らかに泳いでいた。

  * * *

 渦が近づいてきた。

 巨大な水の壁が、ゆっくりと回転している。
 その中心は、真っ暗だった。
 何も見えない。

 セレナが振り返った。
 その表情は緊張で硬くなっている。

 全員が頷いた。

 四人は、渦の中に飛び込んだ。

  * * *

 視界が消えた。

 上も下も分からない。
 水流に翻弄され、体が回転する。
 どちらに進んでいるのかも分からなかった。

 アクセルは腕輪を握りしめた。
 抗水圧の腕輪が、かすかに震えている。
 圧力が増しているのだ。

 どれくらい流されただろうか。

 突然、水流が止まった。

 首飾りが、かすかに脈打っている。
 あと何時間持つか、分からなかった。

  * * *

 目の前に、巨大な空間が広がっていた。

 水晶の光が、四方から差し込んでいる。
 まるで、水中に作られた神殿のようだった。

 そして、そこにいた。

 全長80メートル。
 グラナドスよりも、遥かに大きい。

 蛇のような体が、ゆるやかにうねっている。
 無数の鱗が、青く光っていた。
 その隙間を、電撃が走っている。

 目が合った。

 深海魚のような、光を放つ瞳。
 知性がある。
 そして、苦悩があった。

「人間」

 声が響いた。
 水の中なのに、はっきりと聞こえる。
 頭の中に直接響くような声だった。

「久しい」

 アクセルは息を飲んだ。
 隣でセレナが、小さく震えている。

「我は封印守護者レヴィアス」

 巨大な海蛇が、ゆっくりと首をもたげた。
 その動きだけで、水流が生まれる。

「封印を守るために、嵐を司る」

 レヴィアスの目が、苦しげに歪んだ。

「だが、今は制御できぬ」

 アクセルは一歩前に出た。
 水の抵抗を押しのけて、レヴィアスに向き合う。

「封印が弱まっているからか」

 声が出た。
 水中なのに、声が出た。

「そうだ」

 レヴィアスの声が、低く響いた。

「喋れる。水の中なのに」
 ミラが目を見開いていた。

 レヴィアスは答えなかった。
 ただ、その目がミラを一瞥しただけだった。
 この空間では、言葉が魂に届く。
 それだけのことなのだろう。

「我の理性も、失われつつある」

 巨大な体が、わずかに震えた。

「早く、我を殺せ」

 セレナが息を呑んだ。

「自ら死を、望んでいるんですか……!」
 彼女の声が震えていた。

 レヴィアスの目が、セレナに向けられた。

「封印を守ることが使命」

 その声には、300年の重みがあった。

「それ以上は、お前たちが勝った後に」

 アクセルは頷いた。

「分かった。全力で挑む」

 レヴィアスの口が、ゆっくりと開いた。

「来い」

 咆哮が響いた。
 水中に衝撃波が走る。
 四人の体が、後方に押し流された。

  * * *

 戦闘が始まった。

「範囲弱体化」

 アクセルは魔力を放った。
 紫色の光が、レヴィアスを包み込む。

 効果を感じた。
 防御力、低下。
 速度、低下。
 グラナドスの時と同じだ。

 だが、レヴィアスは止まらなかった。

 巨大な尾が薙ぎ払われる。
 ダリウスが斧を構えた。
 しかし、水の抵抗で動きが遅い。

「ダリウス!」

 アクセルの声は届かなかった。

 尾が直撃した。
 ダリウスの体が、吹き飛ばされる。
 回転しながら、岩壁に叩きつけられた。

 声にならない叫びが漏れた。

「ダリウスさん!」

 セレナが泳いでいく。
 両手から青い光が溢れている。
 治療魔法だ。

 ミラが杖を構えた。

「アイスジャベリン!」

 氷の槍が、レヴィアスに向かって飛んだ。
 水中で加速し、鱗に突き刺さる。

 だが、浅い。
 傷は浅かった。

 レヴィアスが口を開いた。
 電撃が走る。

「ライトニングブレス」

 光が溢れた。
 水中を、電撃が拡散していく。

「避けて!」

 セレナが叫んだ。

「電撃、広がる!」

 全員が必死に泳いだ。
 だが、水の中では逃げられない。

 電流が体を貫いた。
 全身が痺れる。
 意識が一瞬、飛びそうになった。

 アクセルは歯を食いしばった。
 首飾りが熱くなっている。
 水中呼吸の魔力が、電撃をわずかに逸らしているのかもしれない。

 だが、それでも痛い。
 これが、水中戦闘の恐ろしさか。

 レヴィアスが再び動き出した。
 巨大な体が、四人に向かってうねる。

 まだ足りない。
 アクセルは思った。
 デバフは効いている。
 だが、それでも圧倒的に足りない。

 嵐の中で感じたあの感覚。
 水がデバフを運んでいた。
 今、俺たちは水の中にいる。

 だが、試す余裕がない。

 もっと。
 もっと、強く。

  * * *

  *    *    *

 同じ頃、王都。

 マルセルは街を歩いていた。

 無精髭が伸びている。
 髪は乱れ、服も汚れたままだった。
 酒の匂いが、体から漂っている。

「おい、見ろよ」

 通りすがりの冒険者が、指を差した。

「あれが元勇者パーティのリーダーだってよ」

 別の冒険者が、大きな声で笑った。

「追放したデバフ使いが、今やS級最上位だってさ」
「伝説の竜を倒したらしいぜ」
「それなのに、自分たちはギルド資格停止か」
「どっちが『使えない奴』だったんだろうな」

 マルセルの足が止まった。

 周囲の視線が、突き刺さる。
 嘲笑。
 軽蔑。
 そして、憐れみ。

 だが、マルセルは何も感じなかった。

 何も。

 足を動かして、歩き続けた。
 どこに向かっているのかも分からない。
 ただ、歩いていた。

 頭の中は、空っぽだった。

  *    *    *

  * * *

 水中で、戦闘は続いていた。

 ダリウスが体勢を立て直した。
 セレナの治療魔法が、傷を塞いでいる。
 だが、完全ではない。

「くそっ、こんなもんで終われるかよ!」

 ダリウスが歯を食いしばった。
 体が重い。
 だが、斧を握る手は離さなかった。

 ミラが再び魔法を放った。

「アイスストーム!」

 氷の嵐が、レヴィアスを包み込む。
 水中では、氷魔法が強化される。
 いつもより威力がある。

 だが、レヴィアスは止まらなかった。

 巨大な体が、氷を砕きながら突進してくる。
 その速度は、デバフで落ちているはずなのに。
 それでも、圧倒的だった。

 アクセルは考えていた。

 グラナドスの時は、陸上だった。
 ダリウスもクリスも、全力で動けた。

 クリス。

 彼女がいれば、もう一人前衛がいた。
 だが今、クリスはここにいない。

 水中では、前衛が機能しない。
 魔法も威力が落ちる。
 唯一、まともに戦えているのはセレナだけだ。

 そして、電撃。
 レヴィアスの電撃は、水中では回避不能に近い。

 このままでは、消耗戦で負ける。

 何か、突破口が必要だった。

 レヴィアスが再び電撃を溜め始めた。
 鱗の間を、青白い光が走る。

「来ます!」

 セレナが叫んだ。

「アクアバリア!」

 青い障壁が、四人を包み込んだ。

 電撃が障壁に当たる。
 青い光と白い光がぶつかり合い、火花が散った。

 セレナの腕が震えていた。
 歯を食いしばり、両手を前に突き出している。

 障壁にヒビが入った。

 一本。
 二本。
 三本。

 亀裂が広がっていく。

「セレナ!」
 ミラが叫んだ。

「大丈夫、です。まだ、持ちます!」

 セレナの顔が歪んでいた。
 魔力の光が、彼女の体から溢れ出している。
 限界を超えて、力を絞り出しているのだ。

 電撃が止まった。

 障壁が、かろうじて持ちこたえた。
 だが、セレナの顔色は蒼白だった。

「あと何回、持つ」
 アクセルが聞いた。

「一回。いえ、もう一回が限界です」

 セレナの声から、いつもの明るさが消えていた。

 アクセルは唇を噛んだ。

 俺にできることは、デバフだけだ。
 だが、今のデバフでは足りない。
 もっと強く。
 もっと広く。

 石碑の言葉が、頭をよぎった。

 水を制する者、連鎖を極める。
 流れは無限、呪いは波となり広がる。

 俺のカスケードも、まだ先がある。

 指先が、かすかに熱くなった。
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