追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

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第57話 レヴィアス戦③・決着と遺言

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 総攻撃が始まった。

 セレナが両手を突き出す。
 震える体。さっきまで涙で濡れていた瞳。
 だが、その目には光が戻っていた。
 アクセルの覚醒を見た瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
 まだ戦える。まだ、みんなの役に立てる。

 水が彼女の周囲で渦を巻き始める。
 普通の渦ではない。
 水そのものが凝縮され、青白く輝いている。
 圧倒的な密度。
 槍の形を取り始めた。

「【ディープシーランス】!」

 セレナの声が、水中に響いた。

 巨大な水の槍が射出される。
 アクセルの弱体化で動きを封じられたレヴィアスの首に、それは真っ直ぐ向かった。

 貫通した。

 青い血が、水中に広がる。
 レヴィアスの体が、大きく揺れた。

「今だ、ダリウス!」

 アクセルの声に、ダリウスが吠えた。

「おっしゃあ! もらったぜ!」

 左手で斧を振りかぶる。
 右腕は動かない。
 それでも、彼は歯を食いしばって踏み込んだ。

「【水流断ち】!」

 斧が水を切り裂いた。
 本来なら両手で放つ技だ。
 左手だけでは威力が落ちる。

 だが、レヴィアスは動けない。

 カスケード八段階の弱体化が、その巨体を完全に縛り付けていた。
 斧はレヴィアスの胴体に深く食い込み、裂傷を刻んだ。

「どうだ!」

 ダリウスが吠える。
 手は震えていた。
 それでも、彼は斧を引き抜いた。

  * * *

 ミラが杖を構えた。

 残った魔力は、ほとんどない。
 顔色は青白く、体を支えているのがやっとだった。

 だが、彼女は笑った。

「最後の一発、いきますよ!」

 杖の先端が、青く輝く。
 冷気が水中に広がっていく。

「【絶対零度】!」

 氷の魔力が放たれた。

 レヴィアスの傷口から、冷気が体内に侵入する。
 内側から凍結が始まった。

 レヴィアスの動きが、完全に止まる。

 青黒い紋様が、さらに濃くなった。
 巨大な体が、ゆっくりと沈み始める。

  * * *

 静寂が訪れた。

 水中に漂う青い血。
 光を失い始めたレヴィアスの瞳。

 アクセルは岩壁に手をついて体を支えながら、その光景を見ていた。
 息が荒い。
 全身から力が抜けそうだった。

 レヴィアスが、口を開いた。

「よく、やった」

 声が、魂に響いた。
 先ほどまでの狂気は消えていた。
 そこにあるのは、静かな安堵だった。

「封印は、どうすれば再強化できる」

 アクセルが問いかけた。
 声がかすれている。

 レヴィアスの瞳が、わずかに動いた。
 答えるまでに、間があった。
 体が光に溶け始めている。
 時間がないのだ。

「我が核を持ち、地上の祭壇へ向かえ」

 巨大な体から、青い光が漏れ始めた。
 核が、形を成そうとしている。

「祭壇に核を捧げれば、封印は自動で再強化される」

「分かった」

 アクセルは頷いた。

 レヴィアスの目が、四人を見渡した。
 その視線には、かすかな温かみがあった。

「お前たちに、伝えておかねばならぬことがある」

 声が、重くなった。

  * * *

 セレナが、レヴィアスの傍に泳ぎ寄った。
 さっきまで敵だった巨大な海蛇。
 だが今、その瞳には敵意がなかった。

「八つの封印について、教えてくれ」

 アクセルが言った。

 レヴィアスは、ゆっくりと瞬きをした。
 その動作さえ、もう辛そうだった。

「八つの災厄は、かつて一つだった」

 その言葉に、ダリウスが眉をひそめた。

「一つだと?」

「そうだ。我らはそれを『絶対災厄』と呼ぶ」

 絶対災厄。
 石碑にも刻まれていた言葉だ。

「古代の大戦で、災厄は八つに分割され、封印された」

 レヴィアスの声が、さらに弱くなっていく。
 光の粒子が、体から零れ落ちている。

「だが、八つが再び集まれば」

 長い沈黙があった。
 言葉を紡ぐことさえ、苦しいのだろう。

「絶対災厄は、復活する」

 セレナが息を呑んだ。

「復活したら、どうなるんですか」

 声が震えていた。

 レヴィアスの目が、セレナを見た。
 その瞳に、深い悲しみが宿っていた。

「世界を、一瞬で滅ぼす」

 水中が、冷たくなった気がした。

 ミラが、小さく呟いた。

「世界を、一瞬で」

 その声は、震えていた。

 誰も、それ以上言葉を発せなかった。

  * * *

 レヴィアスの体から、さらに光が漏れていく。

「守護者は全て、封印が弱まれば狂う」

 その声には、悔恨があった。
 自分もまた、狂っていたのだ。

「お前たちが倒さねば、守護者自身が封印を破壊する」

 ダリウスが、拳を握りしめた。

「じゃあ、俺たちが全部倒すしかねぇってことか」

「そうだ」

 レヴィアスが頷いた。

「残り六つの封印。時間はあまりない」

 アクセルは、その言葉を胸に刻んだ。

「次は、どこだ」

「南だ」

 レヴィアスの目が、遠くを見た。

「業火の不死鳥フェニクレア。炎の守護者だ」

 南の封印。
 次の敵。

「一つ、警告しておく」

 レヴィアスの声が、さらに弱くなった。
 だが、その言葉には力がこもっていた。

「お前のデバフ。中級版を習得したな」

 アクセルは頷いた。

「だが、水の中でしか使えぬ」

 その通りだった。
 今回の覚醒は、水を媒介にした技術。
 陸上では、五段階が限界のままだ。

「上級版は、陸上でも十段階以上を可能にする」

 アクセルの目が、わずかに見開かれた。

「それを習得せねば、最強の守護者には勝てぬ」

「最強の守護者?」

「北西の封印」

 レヴィアスの瞳に、恐れが宿った。
 あれほど強大な存在が、恐れている。

「氷壁の巨人、ユミル」

 その名前を聞いた瞬間、水が震えた気がした。

「あれは、我の三倍の強さだ」

 全員が、沈黙した。

 レヴィアスでさえ、これほど苦戦した。
 その三倍。
 想像もつかない。

  * * *

 レヴィアスの体が、光の粒子になり始めた。

「成長を続けろ」

 声が、遠くなっていく。

 レヴィアスの目が、穏やかになった。
 ようやく、眠れる。
 そんな安堵が、その瞳に浮かんでいた。

「そして、世界を救え」

 最後の言葉だった。

 光が、水中に散っていく。
 美しかった。
 敵だったはずの存在が、こんなにも静かに消えていく。

 後に残されたのは、青く輝く核だった。
 拳ほどの大きさ。
 レヴィアスの魂が、凝縮されている。

 アクセルは、それをゆっくりと手に取った。

 重い。
 物理的な重さではない。
 使命の重さだった。

  * * *

 戦いが、終わった。

 ダリウスが、岩に背をつけた。
 右肩を押さえ、大きく息を吐く。

「はあ、やっと終わったぜ」

 その声には、疲労が滲んでいた。
 だが、口元には笑みが浮かんでいる。

「すげぇじゃねぇか、アクセル。あの覚醒」

 アクセルは小さく笑った。

「みんなが時間を稼いでくれたからだ」

「しかし、三倍か」

 ダリウスが呟いた。
 レヴィアスの言葉が、まだ頭に残っている。

「まあ、今は考えても仕方ねぇ。まずは生きて帰るぞ」

 ミラが、水中を漂っている。
 杖を胸に抱いて、ぐったりとしていた。

「マナが、ほとんど空っぽです」

 それでも、彼女は笑っていた。

「でも、やりましたね!」

 セレナが、アクセルの傍に泳いできた。
 目は赤かった。
 さっき泣いていたのだろう。

 だが、今は笑顔だった。

「みんな、よく頑張りました!」

 泣きそうな笑顔だった。
 それでも、確かに笑顔だった。

 アクセルは、核を握りしめた。

「浮上しよう」

 仲間たちを見渡す。
 胸元の首飾りが、弱々しく脈打っている。
 光が、明らかに薄くなっていた。

「首飾りの魔力が持たない。急ごう」

 ダリウスが顔を引き締めた。

「おう、さっさと行くぜ」

 四人は、浮上を始めた。

 水面へ。
 封印の祭壇へ。
 そして、次の戦いへ。

 残り、六つ。

 まだ、終わらない。
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