【完結】魔王とは、聖女を愛した騎士の、もう一つの名前だった〜偽りの聖戦と、世界を欺いた二人の逃亡〜

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part 2.2

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第二話「魔王の誕生」②

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 教皇猊下へ

 おそれながら、筆をらせていただきます。

 私は——

 私は、嘘をつくことができません。

 ゼギルは、私を殺そうとしたのではありません。
 彼は、私を助けようとしたのです。

 あの夜。
 彼は私の部屋に来ました。
 手には短剣がありました。

 でもそれは、私を殺すためではありません。
 私の首にめられた「魔力吸引きゅういん首輪くびわ」を、切り落とすためでした。

 私は知っています。
 自分が「生体魔力炉」として利用されていることを。

 私の命は、あと数年。
 魔力をしぼり取られ、枯渇こかつし、死ぬ。
 それが、私に与えられた「聖女」の役割。

 ゼギルは、それを許せなかった。

 彼は私を連れて逃げようとしました。
 この国から。
 この運命から。

 でも——

 護衛が来ました。
 ゼギルは私をかばって、捕まりました。

 私は何もできませんでした。
 ただ見ているだけでした。
 彼が殴られ、引きずられていくのを。

 そして今、彼は「魔王」と呼ばれています。

 お願いです。
 どうか、彼を許してください。

 彼は何も悪いことをしていません。
 私を——

 私を、愛してくれただけです。

 そして私も——

 私も、彼を

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 手紙は、ここで途切れている。
 最後の一文は、インクがにじんでいる。
 涙のあとだろうか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

編纂者注記

 この嘆願書が、なぜ送られなかったのか。

 答えは簡単だ。
 送ることを許されなかったのだ。

 いや——そもそも、この手紙は教皇の目に触れることすらなかっただろう。

 聖女は「神聖な存在」でなければならない。
 人間の男を愛するなど、あってはならない。

 ましてや——その男が「魔王」と呼ばれる者であれば。

 教会にとって、この手紙は「不都合な真実」そのものだった。

 だから封印した。
 地下に葬った。
 なかったことにした。

 そして——

 教会は、もう一つの「処理」を行った。

 次の資料を見てほしい。

 これは、私がこの仕事を始めて以来、最も衝撃を受けた文書だ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

資料7:暗殺ギルドへの発注書(聖暦999年10月)

【発見場所】奈落の書庫・第1区画・焼却予定箱
【保存状態】一部焼損あり
【備考】教皇庁の印章を確認

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 この文書は、焼却される寸前だったと思われる。
 端が焦げており、一部の文字は判読不能だ。

 だが——残された部分だけで、十分に恐ろしい。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

        依 頼 書

 宛先:暗影あんえいつばさ(暗殺ギルド)
 依頼主:【焼損により判読不能】
 日付:聖暦999年10月3日

 以下の任務を依頼する。

 対象:「聖女」エルザ

 【焼損】……の計画に齟齬そごが生じた場合……【焼損】
 ……対象を「始末しまつ」し、「殉教」として処理せよ……【焼損】

 報酬:金貨500枚(成功報酬)
    金貨100枚(前払い)

 期限:聖暦999年12月末日

 備考:
  ・対象が「脱走」を企てた場合、即時実行
  ・対象が「不都合な発言」を行った場合、即時実行
  ・対象の死は「魔王の呪詛じゅそによる衰弱死」として発表
  ・【焼損】……新たな聖女候補は……【焼損】

  追記:
   対象に接触した「元騎士」については、
   既に「魔王」として処理済み。
   今後、対象との接触機会はないものと判断。
   ただし万が一の場合は、両名同時に【焼損】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

編纂者注記

 私は、この文書を3回読み直した。

 信じられなかったからだ。

 教会が——聖女を守るべき教会が。
 聖女の「暗殺」を依頼していた。

 しかも、その理由は。

 「脱走を企てた場合」
 「不都合な発言を行った場合」

 つまり——真実を語らせないため。

 聖女が「生体魔力炉」として利用されていること。
 ゼギルが「魔王」ではなく、聖女を救おうとした騎士であること。

 これらの真実が露見ろけんすれば、教会の権威は失墜する。
 だから——殺す。

 そして「殉教」として美化びかする。

 「聖女は魔王の呪詛にむしばまれ、はかなくも散華さんげされた」

 完璧な筋書きだ。
 教会は被害者となり、「魔王」への憎悪はあおられ、聖女信仰は永遠に続く。

 だが——

 この計画は、実行されなかった。

 なぜか。

 それは、後の資料で明らかになる。

 ただ、一つだけ言えることがある。

 聖暦999年10月。
 「魔王」が誕生した月。

 あの瞬間、ゼギルは確かに「怪物」になった。

 だがそれは、闇に魅入られたからではない。

 愛する者を守るために、自らを「悪」として差し出したのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第二話 了

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次話予告

 聖暦1000年。
 「魔王軍」の蜂起ほうき

 世界は恐怖にふるえた。
 ——と、公式記録にはある。

 だが、奈落の書庫から発見された「使い魔の通信ログ」は、まったく異なる光景を映し出していた。

 「今夜の襲撃ポイント、そっちで決めていい?」
 「了解。派手にやってくれ。私がその隙に脱出口を確認する」

 次話『聖戦という名の茶番』——

 魔王軍の「襲撃」は、なぜ常に聖女の「討伐遠征」と重なったのか。
 二人は、どうやって連絡を取り合っていたのか。

 そして——「密会」の記録が、ついに明かされる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

編纂者補記

 本資料の公開後、教会側から再び強い抗議があった。

 「聖女への暗殺依頼など、捏造ねつぞうに決まっている」
 「教皇庁の印章は偽造だ」
 「異端審問にかけるべきだ」

 だが——

 印章の鑑定かんてい結果は、本物と判定された。
 インクの成分分析も、300年前の教会公文書と一致した。

 私は捏造などしていない。
 ただ、発掘した資料をそのまま提示しているだけだ。

 真実を|受け入れるかどうか。
 それは、読者の判断に委ねる。

 ただし——

 一つだけ、警告しておく。

 私の研究室に、不審者が侵入した形跡があった。
 何も盗まれてはいなかったが——

 机の上に、一枚のメモが置かれていた。

 「これ以上、やぶつつくな」

 どうやら、300年前の「真実」を隠したがっている者は、今もいるらしい。

 だが私は、止まるつもりはない。

 たとえ——

 この身に何が起ころうとも。

                         ——ヴィクトル・ノイマン
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