【完結】魔王とは、聖女を愛した騎士の、もう一つの名前だった〜偽りの聖戦と、世界を欺いた二人の逃亡〜

チャビューヘ

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第四話「偽りの終焉」③

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 [通信開始]
 [魔力残量:壊滅的]
 [復元率:約8%]

エルザ:
 ……【判読不能】……聞こえる?

ゼギル:
 ……聞こえる……【判読不能】……最後だな。

エルザ:
 うん……【判読不能】……今夜、終わらせる。

ゼギル:
 ……【判読不能】……準備は?

エルザ:
 できてる。
 ……【判読不能】……魔力、全部使う。
 もう……【判読不能】……二度と魔法は使えなくなる。

ゼギル:
 ……いいのか。

エルザ:
 ……【判読不能】……いい。
 魔力なんて……【判読不能】……いらない。
 あなたがいれば……【判読不能】……それだけで。

 [ノイズ]
 [大部分判読不能]

ゼギル:
 ……【判読不能】……危険だ。
 俺が……【判読不能】……おとりになる。
 お前は……【判読不能】……先に逃げろ。

エルザ:
 ……嫌。

ゼギル:
 ……【判読不能】

エルザ:
 一緒に行く。
 ……【判読不能】……約束、したでしょ。
 空を……【判読不能】……一緒に見るって。

ゼギル:
 …………。

エルザ:
 逃げるなら、一緒。
 死ぬなら……【判読不能】……一緒。
 ……もう、離れない。

 [ノイズ激化]
 [通信品質著しく低下]

ゼギル:
 ……【判読不能】……分かった。
 ……一緒に……【判読不能】

エルザ:
 ……うん。

 [5秒間の沈黙]

エルザ:
 ……ゼギル。

ゼギル:
 ……なんだ。

エルザ:
 愛してる。

 [通信途絶]

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

編纂者注記

 「愛してる」

 それが、使い魔を介した最後の言葉だった。

 この通信の数時間後、「最終決戦」が行われた。
 聖女と魔王は、世界の前で「相討ち」となった。
 ——ことになっている。

 だが、真実は違う。

 彼らは「死んだふり」をして、逃げた。
 世界を、教会を、歴史を——すべて欺いて。

 ゼギルは、片足を失った。
 エルザは、魔力を失った。

 だが、二人は生き延びた。
 「忘れられた諸島」へ渡り、「マリア」と「ヨハン」として、新しい人生を始めた。

 そして——死ぬまで、穏やかに暮らした。

 無名の墓石には、愛の詩が刻まれていた。
 その筆跡は、聖女エルザのものと一致した。

 300年間。
 彼らの「真実」は、歴史の闇に埋もれていた。

 だが今、私はそれを掘り起こした。
 奈落の書庫から。
 地下通路から。
 古い帳簿から。

 問題は——この「真実」を、世に出すべきかどうかだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第四話 了

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

続く記録について

 「聖女エルザは、魔王と共に死んだ」

 この「嘘」の上に、300年間の平和が築かれてきた。
 聖女信仰は、民衆の心の支えとなった。
 「聖女のように生きよ」という教えは、無数の善行を生んだ。

 だが——その土台が、嘘だったとしたら?

 聖女は、世界を救わなかった。
 世界を「捨てた」のだ。
 愛する人と、二人で逃げるために。

 この真実を公開すれば、聖女信仰は崩壊する。
 300年間の「平和」の根幹が、揺らぐ。
 民衆は——何を信じればいいのか、分からなくなる。

 私は、その責任を負えるだろうか。

 続く記録は、『断罪だんざい天秤てんびん』——

 聖女信仰の「嘘」が、どのように構築されたのか。
 教会が、300年間、何を隠し続けてきたのか。
 その全貌が、ついに明らかになる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

編纂者補記

 この資料を整理していた夜のことだ。

 研究室に戻ると、窓が割れていた。
 床には、あぶらが撒かれていた。
 そして——一枚のメモが、机の上に置かれていた。

 「最後の警告だ。次は燃やす」

 私の手は、震えていた。
 恐怖ではない。
 怒りだ。

 300年前。
 教会は、真実を隠すために、「魔王」を作り上げた。
 今、彼らは——真実を暴く者を、脅迫している。

 何も変わっていない。

 翌日、ヴェルナー教授から連絡があった。

「ノイマン君……残念だが、私は今日付で更迭された」

 通信魔石越しの声は、疲れ切っていた。

「教会からの圧力だ。『異端的研究をかばった』という理由でね」

 私は、何も言えなかった。

「……君は、続けろ。私の分まで」

 教授は、それだけ言って、通信を切った。

 その夜。
 私の元に、一通の書状が届いた。

 差出人は——教皇庁異端審問所。

 内容は、こうだった。

「帝国大学第四史料編纂室主任研究員ヴィクトル・ノイマンに対し、
 『聖女冒涜の疑い』にて、異端審問を開始することを通達する」

 私は——笑った。

 300年前、ゼギルは「魔王」に仕立て上げられた。
 今、私は「異端者」に仕立て上げられようとしている。

 歴史は、繰り返すのだ。

 だが、私は止まらない。

 ゼギルは、聖女を守るために「魔王」になった。
 私は、真実を伝えるために「異端者」になろう。

 彼らの物語を、最後まで。

 たとえ——この身が、火に焼かれようとも。

                      ——ヴィクトル・ノイマン
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