煙と嫉妬と、君だけの温度

チャビューヘ

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第4話 一週間前

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 居酒屋の個室は、笑い声で溢れていた。

 レスリング部の飲み会。隼人はテーブルの端に座り、グラスを傾けていた。

 視線の先には、桐生がいる。

 桐生は後輩たちに囲まれて、楽しそうに話していた。肩を叩いたり、頭を撫でたり。誰に対しても、同じように接している。

 隼人の胸に、何かが引っかかった。

「先輩、すごいっすよね!」

「桐生さん、また筋トレ教えてくださいよ!」

 後輩たちの声が、隼人の耳に届く。桐生は笑いながら、彼らの頭を撫でた。

「いいぞ、今度ジム連れてってやる」

「マジすか!?」

「ああ、好きな時来いよ」

 後輩たちが歓声を上げる。桐生は満足そうに笑った。

 隼人のグラスを握る手に、力が込められた。

「……っ」

 視線を逸らす。だが、桐生の声だけは耳に入ってくる。

「お前も頑張れよ」

「はい! 桐生さんみたいになりたいです!」

「おう、応援してるぞ」

 隼人は舌打ちをした。

 立ち上がる。

「トイレ」

 誰にも聞こえない声で呟いて、個室を出た。

 廊下を歩く。

 トイレではなく、喫煙室に向かっていた。

 扉を開ける。誰もいない。

 隼人は煙草に火をつけた。深く吸い込む。肺に染み込む感覚が、少しだけ心を落ち着かせた。

「……何やってんだ、俺」

 呟いた言葉は、誰にも届かない。

 胸の中で、何かがもやもやと渦巻いている。名前のつけられない感情だ。

 桐生の笑顔が、脳裏に浮かぶ。

 後輩たちに向ける、あの優しい笑顔。

 自分に向けられたものと、何が違うのか。

「……っ」

 隼人は煙草を灰皿に押し付けた。まだ半分以上残っているのに、火を消した。

 扉が開く音がした。

 振り返る。

 桐生が立っていた。

「よう」

「……先輩」

 桐生は扉を閉めた。隼人の隣に立つ。

「お前、さっきから機嫌悪いだろ」

「……別に」

「嘘つくな」

 桐生の手が、隼人の肩に置かれた。

「何かあったか?」

「……ないです」

「あるだろ」

 隼人は視線を逸らす。桐生は隼人の顎を掴んで、顔を戻させた。

「俺を見ろ」

「……っ」

 隼人の目が、桐生を捉える。

「お前、怒ってるよな」

「怒ってません」

「怒ってる」

 桐生の目が、隼人を見つめる。

「理由を聞かせろ」

「……っ」

 隼人の唇が震える。言葉が出てこない。

「言えよ」

「……先輩は」

「ん?」

「先輩は……みんなに、あんな風に接してるんですか」

 桐生の目が、わずかに細められた。

「あんな風?」

「……優しく、とか」

「ああ」

 桐生はあっさりと答えた。

「後輩は可愛いからな」

 隼人の胸が、ずきんと痛んだ。

「……そうですか」

「お前、もしかして」

 桐生の唇が、わずかに歪む。

「嫉妬してんのか?」

「……してません」

「してるだろ」

「してません」

「嘘つき」

 桐生は隼人の腰を掴んだ。自分の方に引き寄せる。

「っ……!」

 下腹部同士が押し付けられる。

「お前だけだぞ」

「……何がですか」

「こういうことするの」

 桐生の手が、隼人の股間を撫でた。

「っ……」

 隼人の身体が震える。

「他の奴には、こんなことしない」

「……っ」

「お前だけだ」

 桐生の声が、低く響く。

「分かったか?」

「……分かりません」

「分かれよ」

 桐生は隼人の唇を奪った。

「んっ……!」

 舌が侵入してくる。口内を貪るように探っていく。

 ちゅぱ、ちゅぷ、ちゅるる……

「っ……ん、っ……」

 隼人の抵抗が弱まっていく。桐生の舌に、自分の舌が絡みついていく。

 桐生は隼人を壁に押し付けた。

「っ……!」

 背中が冷たい壁に触れる。桐生の手が、隼人のベルトを外していく。

「ここでは……」

「大丈夫だ」

「大丈夫じゃ……」

「誰も来ない」

 桐生はそう言って、隼人のジーンズを下ろした。下着も一緒に脱がせる。

 隼人の肉棒が、ばちんと跳ねた。すでに硬くなっている。

「やっぱり勃ってるじゃねえか」

「……っ」

 隼人は顔を背ける。桐生は笑った。

「可愛い」

「……黙れ」

 桐生は自分のジーンズも下ろした。肉棒を取り出す。

 そして、ポケットから小さなボトルを取り出した。

「……それ、何ですか」

「ローション」

 隼人の目が見開かれた。

「っ……何で持ってるんですか」

「お前とやるために決まってるだろ」

「……っ」

 桐生はローションを手に取った。隼人の肉棒に塗り広げる。

「っ……冷たい……」

「すぐ温まる」

 桐生の手が、隼人の肉棒を上下に動かし始めた。

 ずりゅ、ずりゅ、ずりゅ……

「っ、あ……」

 隼人の腰が浮く。

 桐生はもう一方の手に、ローションをたっぷりと取った。そして、隼人の脚を持ち上げる。

「っ……!? 何を……」

「動くな」

 桐生の指が、隼人の尻の谷間を撫でた。

「っ――!!」

 隼人の身体が硬直する。

「やめ……」

「やめない」

 桐生の指先が、隼人の穴を探る。小さく窪んだ部分を見つけて、軽く押した。

「っ……! やめてください……!」

「お前、ここも感じるのか?」

「感じません……!」

「嘘だな」

 桐生の指先が、穴の周りをぐるぐると撫で回す。

「っ……ん、っ……」

 隼人の声が漏れる。桐生はそれを聞きながら、指先に力を込めた。

「入れるぞ」

「っ……! 無理です……!」

「無理じゃない」

 桐生の指が、ゆっくりと押し込まれていく。

「っ――!! 痛っ……!」

 隼人の顔が歪む。桐生は動きを止めた。

「力抜けよ」

「無理……です……」

「無理じゃない。深呼吸しろ」

 隼人は荒い呼吸をしながら、言われた通りに深呼吸をした。

 桐生は隼人の肉棒を扱きながら、指をさらに押し込んでいく。

「っ……あ、っ……」

 痛みと快感が混じり合う。隼人の身体が震えた。

「もう半分入ったぞ」

「っ……嘘……」

「本当だ」

 桐生の指が、第一関節まで入った。そして、内側をゆっくりと探っていく。

「っ……あ、っ……変な……」

「変じゃない。気持ちいいだろ」

「気持ちよく……ない……」

「嘘つき」

 桐生の指先が、何かに触れた。

「っ――!!」

 隼人の身体が跳ねた。腰が大きく浮く。

「ここか」

「っ……! そこ、は……!」

「気持ちいいんだな」

 桐生の指が、その部分をぐりぐりと押し込んだ。

「っ――!! あ、ああっ……!」

 隼人の声が大きくなる。桐生はもう一方の手で、隼人の肉棒を激しく扱き始めた。

 ずりゅずりゅずりゅずりゅ――

「っ、や、ダメ……!」

「ダメじゃない」

「もう、無理……!」

「我慢しろ」

 桐生の指が、内側を執拗に刺激し続ける。隼人の肉棒から、大量の先走りが溢れ出していた。

「っ……出る……!」

「まだだ」

「無理っ……!」

「我慢しろって言ってんだろ」

 桐生の声が、冷たく響く。

 だが、隼人の限界は近かった。

「っ、もう、ダメっ……!!」

「……チッ、仕方ねえな」

 桐生は指を抜いた。そして、隼人の肉棒から手を離す。

「っ……!?」

 隼人の目が見開かれる。

「何で……」

「お前、すぐイキそうだからな」

「……っ」

 隼人は荒い呼吸を繰り返した。射精寸前だった身体が、徐々に落ち着いていく。

「……ひどい……」

「ひどくない」

 桐生は隼人を抱きしめた。

「お前、可愛すぎるんだよ」

「……意味分かりません」

「分からなくていい」

 桐生は隼人の額にキスをした。

「お前は俺のだ」

「……っ」

「他の奴には渡さない」

 桐生の声が、真剣だった。

 隼人の胸が、熱くなった。

「……先輩」

「ん?」

「俺……」

 言葉が続かない。

 桐生は隼人の頬を撫でた。

「言わなくていい」

「……っ」

「分かってるから」

 桐生は隼人を抱きしめたまま、しばらく動かなかった。

 それから数分後。

 二人は服を着直していた。

 隼人はジーンズを履きながら、桐生を見た。

「……先輩」

「ん?」

「さっきの、本当ですか」

「何が?」

「俺だけ、って」

 桐生は笑った。

「本当だ」

「……っ」

 隼人の顔が赤くなる。

「信じられないなら、何度でも証明してやる」

「……いいです」

「いいのか?」

「いいです」

 隼人は顔を背けた。桐生はそれを見て、満足そうに笑った。

「可愛いな」

「……黙ってください」

「黙らない」

 桐生は隼人の手を握った。

「また、来いよ」

「……考えます」

「考えなくていい。来い」

「……分かりました」

 隼人は小さく頷いた。

 桐生は隼人の額にキスをして、喫煙室を出ていった。

 隼人は壁にもたれたまま、動けなかった。

 胸の中で、何かが温かく脈打っている。

 嫉妬だけじゃない。

 もっと複雑で、もっと深い何か。

「……ちくしょう」

 小さく呟いて、隼人は自分の胸を掴んだ。

 ――この感情に、名前をつけてはいけない。

 そう思っていた。
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