狂おしいほど愛おしい

ゆるふわ詩音

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仕事

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 「でも、その状況じゃあ……何言われても怖ないよ」

ショウは小さい目で俺を睨み、目の前でメスを見せつけてきた。


「間違ったらお前が死ぬからやめとき」

やっぱり雰囲気かな、俺はオトンみたいに諭す。

「ちょっと、ちょっと! そこは喚くとこやんか!!」

下手くそ!とまた拗ねるショウ。

「あ、俺もしかして、脅されてた?」

雰囲気変わらんからわからんわ。

こいつ、ほんまに殺人鬼か?

「今追い詰められててな、スズちの生命はボクに掛かってんねんで? 生きるも死ぬもボク次第なんよ?」

大きい鼻をフガフガさせながら早ロで言うてるけど、口調ふわふわで声が高いから全く耳に入ってけえへんわ。

その前にこいつが刃物で傷つけるのは不可能やし
な。

ショウは血友病やねん。

遺伝性の病気で完治する方法ない。

なぜなら、血を固める遺伝子を生まれつき持っておらんから。

だから、血が出たら止まらない。

一応、遺伝子の注射を定期的にするとか輸血をするとかの対症療法をすれば、日常生活は送れるらしい……詳ししくは知らんけど。


 「あ、もうそろそろいいから降ろすね」

ごめんなぁって言ってくふふと笑いながら脇に走っていったショウ。

ゴトンゴトンと重いものが外れた音の後、ジャラジャラと鎖が巻き取られるる音が聞こえてきて、俺の身体がゆっくりと降りていく。

浮いとった足が地面を滑り、お尻がトンと地面につく。

なんか変な格好でイマイチやな。

「溢れるとこやったわ、ああ危ない危ない!」

全然危機感なさそうに話すショウは俺の足元駆け寄ってきて、慌ただしく作業を始めた。

俺の左足の甲から出ている細い管が点滴の袋みたいなやつにずっと繋がっていた。

そこには赤い液体が溜まっている。

なるほど、血抜きはこうやってんのか。

え、もう終わり?

「いやあさ、最近の女性たちは防犯しっかりしてるから、なかなか獲物がおらんくて困ってたの。でも、ボク専用の輸血ストックがなりそうやったから……ごめんなあ」

ショウは申し訳なさそうに眉毛を下げながら足の甲から針を静かに抜き、すぐ力強く抑える。

その後、優しくテープを貼ってくれたから、ちょっと同情しそうになった。

「このメガネもさ、脳出血の場所が目の近くやったから付けてんの。光もあかんねんて。もうイヤやわ」

細い管に流れている液体を全て袋に溜め、ハサミみたいなやつで管を挟み、袋をカなく揺らしていた。

なんか可哀想に思えてきたわ。

所詮、犯罪者も1人の人間やからな。

でも、罪は償ってもらわんといけんねん。

「すまんけど、お前らを捕まえるな。証拠、揃ってもうたから」

きっと近くにリュウがいるはず。

そいつは移植専門の外科医で、元レシビエント。

遺体を解剖して移植可能な臓器を摘出して、臓器売買をしているやつや。

そいつも一緒にお縄に掛けてやるわ。

すまんな、それが俺の仕事やから。
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