【完結】黒の魔導士は、私を“ただの生徒”として扱わない

桜葉るか

文字の大きさ
5 / 13

第4話「噂と嫉妬」

しおりを挟む
 翌朝。
 学院の廊下を歩いていると、やけに視線を感じた。

 ……いや、気のせいじゃない。
 みんな、こっちを見てひそひそしてる。

「ねえ、昨日の夜、訓練場にいたって本当?」

「“黒の魔導士”と二人きりだったって……」

「異界の娘が特別扱いされてるんだってさ」

 小声で笑う声が、胸の奥に刺さる。
 そんなに目立つこと、してないのに。
 ――たぶん、してた。
 あの夜、ヴァルト教官と手を繋いで魔力共鳴した。
 光、見えてたよね。そりゃ噂にもなるか。

 でも、「特別扱い」って言われるとなんか違う。
 あの人は、私を守るためにああしてくれたんだ。

 ……たぶん。

 昼休み。
 ルークがパン片手にやってきた。
 いつも軽口ばかりなのに、今日は妙に真面目な顔だった。

「なあ、ナオ。あの噂、マジなの?」


「え、どの噂?」

「ヴァルト教官と夜に二人で訓練してたってやつ」

「……うん。教官に教えてもらってただけ」

「“だけ”ねぇ……」

 ルークがわざとらしくため息をつく。

「アイツ、誰にでもそんなことしないよ。
 昔からそうだ。距離を取るタイプ。
 だから余計に、周りがざわついてんの」

「……そう、なんだ」

 パンの香りがやけに遠く感じた。
 なんでだろう、ちょっと息がしづらい。

 放課後。
 訓練場の片付けをしていると、扉が静かに開いた。
 黒衣の裾。低い足音。

「……教官」

「何をしている」

「片付けです。訓練、終わったので」

「それは俺の役目だ」

「いえ、少しはお手伝いを――」

 言い終わる前に、手首を掴まれた。
 ぎゅっと、強く。

「……!」

「誰が、おまえに“夜の訓練”のことを話した」

「え?」

「昼間、噂になっていた」

 ヴァルトの瞳が、いつもより冷たい。
 でもその奥に、焦りみたいなものが見えた。

「……話してません。私、誰にも」

「ならいい」

 そのまま手を放す。
 けど、離れたあとも熱が残ってる。
 心臓がうるさくて、うまく息ができない。

「教官、そんな顔しないでください」

「どんな顔だ」

「怒ってるようで、悲しそうです」

 ヴァルトが目を伏せる。
 沈黙。
 風がひとつ、通り抜けた。

「……俺のせいだな」

「え?」

「おまえが孤立する原因を作った」

「そんなこと……。私は平気です」

「平気そうに見えない」

 視線がぶつかる。
 その目が、怖いほど真剣で――まるで私を見透かしてるみたい。

「……おまえに、近づきすぎた」

「近づかれたの、嬉しかったですよ」

「奈央」

 名前を呼ぶ声が、かすかに震えた。

「俺を信じるな」

「信じます」

「言葉を聞け」

「無理です」

 小さく笑った。自分でも驚くくらい素直に。

 ヴァルトがほんの少しだけ息を呑む。
 そのまま、目を逸らした。

「……おまえは、愚かだ」

「またそれ」

「だが、愚かさは強さでもある。――忘れるな」

 そう言って、ヴァルトは背を向けた。
 黒衣の裾が風に揺れる。

 その背中を見送りながら、思った。
 この人、誰よりも優しいのに、それを絶対に認めようとしない。
 だからこそ、放っておけない。

 夜。
 窓の外の霧の街がぼんやり光っていた。
 私はそっと手のひらを見つめる。
 共鳴のときに触れた場所が、まだ温かい。

「……教官。怒ってくれてありがとう」

 独り言みたいに呟いて、寝台に身を沈めた。
 瞼を閉じた瞬間、彼の低い声が蘇る。

 ――“近づきすぎた”。

 その言葉が、胸の奥で何度も反響していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

エリート医務官は女騎士を徹底的に甘やかしたい

鳥花風星
恋愛
女騎士であるニーナには、ガイアという専属魔術医務官がいる。エリートであり甘いルックスで令嬢たちからモテモテのガイアだが、なぜか浮いた話はなく、結婚もしていない。ニーナも結婚に興味がなく、ガイアは一緒いにいて気楽な存在だった。 とある日、ニーナはガイアから女避けのために契約結婚を持ちかけられる。ちょっと口うるさいただの専属魔術医務官だと思っていたのに、契約結婚を受け入れた途端にガイアの態度は日に日に甘くなっていく。

異世界に転生してチートを貰ったけど、家族にハメられて敵国の捕虜になったら敵国の王子に求婚されました。

naturalsoft
恋愛
私は念願の異世界転生でチートをもらって旅立った。チートの内容は、家事、芸術、武芸などほぼ全ての能力がそつなくプロレベルに、こなせる万能能力だった。 しかし、何でも1人でやってしまうため、家族に疎まれて殺されそうになりました。そして敵国の捕虜になったところで、向こうの様子がおかしくて・・・? これは1人で何でもこなしていた弊害で国が滅ぶ寸前までいったお話です。

辺境令嬢ですが契約結婚なのに、うっかり溺愛されちゃいました

星井ゆの花
恋愛
「契約結婚しませんか、僕と?」 「はいっ喜んで!」  天然ピンク髪の辺境令嬢マリッサ・アンジュールは、前世の記憶を持つ異世界転生者。ある日マリッサ同様、前世の記憶持ちのイケメン公爵ジュリアス・クラインから契約結婚を持ちかけられちゃいます。  契約に応じてお金をもらえる気楽な結婚と思いきや、公爵様はマリッサに本気で惚れているようで……気がついたら目一杯溺愛されてるんですけどぉ〜!  * この作品は小説家になろうさんにも投稿しています。  * 1話あたりの文字数は、1000文字から1800文字に調整済みです。  * 2020年4月30日、全13話で作品完結です。ありがとうございました!

『噂が先に婚約しましたが、私はまだ“練習相手”のつもりです(堅実護衛が半歩前から離れません)』

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全8話+後日談1話⭐︎ 舞踏会が苦手な伯爵令嬢ルシアは、社交の“空気圧”に飲まれて流されがち。 ――そして致命的に、エスコートされると弱い。 そんな彼女の“練習相手”に選ばれたのは、寡黙で堅実、おおらかな護衛隊出身の男ロアン。 半歩前を歩き、呼吸の乱れを見抜き、必要なときだけ手を差し出す彼の優しさは、甘い言葉ではなく「確認」と「対策」でできていた。 「怖くない速度にします」 「あなたが望めば、私はいます」 噂が先に婚約しても、社交界が勝手に翻訳しても――守られるのは、ルシアの意思。 なのに最後の一曲で、ルシアは言ってしまう。 「……ロアンさんと踊りたい」 堅実すぎる護衛の甘さに、流され注意。 噂より先に“帰る場所”ができてしまう、異世界ほの甘ラブコメです。

処理中です...