Ice in love

白銀狼

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最終話

Ice in Love~氷恋~

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 目が覚めると私は、空の上だった。

(さっきまで祠に居たはずなのに…)


 私の背には小さな羽根が生えていた。そばの川から自分の身体を見た。驚いた…見た所、数センチの身体の小さな生き物だろう。何処かにアイス達も居るだろうか?この真っ青な空に独りぼっちになってしまった事にユリアは不安感を感じていた。


 あの時私達は、ありったけの力を使い果たし国の災害を抑える事が出来たのだ。しかしその結果小さな精霊になった。三人共魔力が限界まで絞られた。かろうじて残っていたのは、精霊になれるだけの僅かな魔力だけ…レイラやアイスが居なかったら為す事は出来なかっただろう。
 国を救う事が出来た。それはとても嬉しい!しかし…グレンには、もう姿すら見えなくなってしまった…

『やっぱり…無理だったのか…また、嘘を付いてしまったな?グレン…君に…会いたいよ…グレン…』

 国を救った代償が愛する人に姿さえ見えなくなるなんて…ユリアにはあんまりだった。

(何年か会えないって知って居たが…実際会えないと辛いものだな…)

  ふわふわと宙を飛び、周囲を見渡す。ここは私が大好きな国。そして守る事の出来た国。そんな愛しき国を空から見下ろすユリアは誰にも見えない。

 ふと、ユリアは思った。

『いっそ…見えないなら、少し散策しようか?うん、そうしよう。』



 出来るだけ気楽に考えようと思いユリアは、地上を歩く一人の人に寄り添い飛行した。人間の目線で見える物と精霊の目線で見える物がある。久々に人間の目線で見るものに懐かしい感じがした。その懐かしい感じと暖かいがユリアを包む。身体は小さいが中身はユリアそのものだ。人間であっても精霊であってもユリアはユリア。改めて自分は精霊なんだという新鮮な感じを実感して居た。

『確かに私は、あまり外をのんびりと歩いた事は無かったな?ん?あれは?もしかして…』

 目の前には、同じ様な羽根を持つ精霊が居た。その精霊には見覚えがあった。親近感を感じたのだ。

『あなたも…精霊化したのですね…ユリア。』

『レイラ、あなたもみたいだな。』

 レイラは、両眼に涙を浮かべた。

『私はっ!あなただけでも彼らの所に戻って欲しかった…あなたの力を使わなくても大丈夫と言いたかった…でも…』

 ユリアは、レイラの元に行き両手を広げた。そして、ユリアの胸にレイラは飛び込み涙がカラカラになるまで泣いた。
 レイラが泣き止む頃にユリアは、レイラの肩をトントンと叩き言った。

『レイア、顔を上げてみてくれないか?』

『ぐすっ…え?…あ。』

  泣き過ぎてくたびれているレイラにユリアは、身体を支えながら周囲を見渡せる様に空に飛び上がった。急な事にレイラは驚いたが、空から見下ろす風景に息を吹き返した様だった。

 小さな子供がお母さんとお父さんに手を引かれ祭りの屋台を見歩き、二人組のカップルは楽しそうに歩幅を合わせながら歩く。年老いた老夫婦もベンチに腰掛け祭りを楽しむ。
 人通りが多かった為何故かと考えて居たが今日は、お祭り。知らない人も知っている人も笑いながら歩く。町中がいつもより明るくなった国を空から見ると本当にキラキラして綺麗だった。

『レイア、あなたとアイスと三人で守ったこの国の人達に私達は見えて居ない。悲しいけど、私達が力を使ったおかげもあって…皆んな笑っているんだ。だから、だから私は悲しくはない。だって大好きな人達が笑っているから…』

『ぐすっ…でも、でもユリアはっ!』

『うん…確かに私はグレンには見え無くなった…でも私は大好きな人達を守る事が出来たんだ。それだけでも報われているよっレイラ。だから私は救われているんだ。』

 レイラにそう言いながら自分を納得させる。本当は会いたいし一緒に喜びたい…でもそれは叶わない。自分が望んだ事だし分かって居た事だった。

”上手く行かなきゃ何十年と姿すら現せなくなる…”

 レイラに会おうとした時からレイラに言われて居たし気づいていた。だから…

『だから…つらく…なん…てっ』

 気づくとレイラが私を抱きしめ返していた。小さな手で優しく包み込んでくれた。その温もりがあまりにも優し過ぎるから…レイラ達の前では…と保っていた物が崩れる。

 感情が溢れ出す…女王の娘が…と自分でも思う。でも…このグレンへの気持ちだけは嘘が付けない。レイラと抱き合う形になりユリアは泣き続けた。胸が締め付けられ、止めたくても止まらない。


『グレンさんの所に行きませんか?ユリア』

『…でも…私は見え…』

『あなたらしくありませんよ?あなたは会いたいと感じたら放たれた弓の様に真っ直ぐ会いに行きました。だから、会いに行って彼の側に居るべきです!』

『いつになるか分かりませんが…魔力が回復したらあなたがグレンさんに見える様に何とかしてみます!!だから!!』

『…ありがとう…その気持ちだけでも嬉しいよ。分かった。会いに行くよ。』

『はいっ!!こっちですよユリアっ!!』

 今度はレイラが、ユリアの手を引き二人が出会った屋敷へ向かった。
 だが、そこにグレンの姿が無かった。
 しかし、屋敷のメイド達がグレンを探し回って居た為今どこに居るのかの有力な情報が入った。

”またあの丘に”

 メイド達がそう言い寂しそうな顔をした。
 ユリアもグレンがもし悲しそうな気持ちや表情をして居るならと思い丘に向かった。
 


 やはり、グレンは丘に居た。表情は見えないが丘に腰を下ろして居るグレンの背中が僅かながら小さくなって居る様に感じた。その姿を見たユリアにレイラは自ら背中を押しグレンの側に行く様に促した。
 ユリアも頷きグレンの側に寄る。彼には見えない…でも

(小さな背中を付けて温もりを感じる事は出来る。)

 側で笑顔を見る事も見せる事も叶わないが側に寄り添う事は出来る。それだけは今の自分でも出来る事。

 ユリアとグレンは、互いに背中合わせに座った。ユリアにはグレンの背中の暖かな温もりが感じられた。人肌はこんなに暖かく安心できる物だっただろうか?

『そうか…グレンだから、愛する人だからこんなにも暖かく安心するのだな…グレン、会いたかったよ。すまない側に居なくて…』

『ユリア…』

 レイラは、心配そうにユリアを見つめる。彼女にもどうしようもないこの状況が辛くて仕方がない事だろう。
 誰にだってこの状況を解決出来る術がない。分かって居るから辛い事。相手を想って居るからこそ辛い。

 そんなレイラの気持ちは、痛いほど良く分かるし嬉しい。だからこそ、もう会えないからこそユリアにとってはグレンの側に居られるこの時が何よりも嬉しい事であった。

  そんな風にお互い見えなくても背中を合わせる。それが今のユリアにとってグレンとの小さな繋がり。今なら素直に自分の気持ちを言える気がする。

(この温もりをずっと覚えて居よう。忘れないよ…グレン。…私は…あなたが)
 
 グレンの背に身体を向け、頰を紅く染めてながら今しかないとグレンに思いを告げた。あの時言えなかった事を…後悔のない様に…

『聞こえなくても良いよ…私は、あなたが大好きだ。グレン…覚えて居てくれ私の事を…それだけで私は、あなたの幸せを祈りながら行けるから。あなたを見守れるから…だからっ』
 
 溢れ落ちる涙を拭きながら、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。溢れ出しすぎない様に丁寧に思いを伝える。本当は抱き締められたいし抱き締めたい。話したいしキスもしたい。でも叶わない…なら、それならせめて彼が求めて居てくれた”返事”だけでも伝えたい。

 ユリアは、伝えるたい事全てを伝えた。初めて会ったあの日からずっと彼を好きだった事、本当はアイリに嫉妬してしまった事。全てを包み隠さず伝えた。その間にもグレンの背は、全く動く事は無い。伝え終わるとユリアは呟いた。

『だけど…もうあなたに私の言葉は、伝わらないのだよね。…へへっ良かった…良かったよ…こんな顔っ…あなたには見られなくて…』

「…」

 ユリアは、そっとグレンから離れようとした。
 
「さようなら…グレン。大好きだったよ」

 言い放つとユリアは、立ち上がった。立ち上がった瞬間に身体が後ろに引かれた。勢いよく引かれた為ふらついたユリアは、気づけば腕の中に居た。一瞬の出来事に驚き声が出なかった。

 気づくと抱かれたユリアとグレンの目が合った。ユリアの背にあったはずの羽根も無く、姿も人そのものになって居た。
 もう何が起きたか、もはや分からなかった。一体なにが起きたのか分からない。

 ユリアの目を見たグレンは、目に大量の涙を浮かべユリアを力一杯抱き締めた。ユリアも何が何か分からなかったが…抱き締められたのが嬉しくて嬉しくて…もう何も考えられなかった。

 
 一体何分間…いや何十分そうして居ただろうか?2人は何も言わずに抱きしめ合った。2人の心の隙間を埋める様に温もりを抱きしめ合った。
 
「…あぁ、ユリア。俺の大事なユリアっ…会いたかった…何処に行って居たんだよ!!」

「ぐっ…グレンっ苦しぃ…」

「でも…ありがとう。戻ってきてくれて…愛してる。…ユリア、もう離さない…」



  その後ユリアは、自分が居なかった間の5年間をグレンから聞いた。そしてカインとアイリが結婚をし小さな男の子を授かった事。そして、国は復活どころか繁栄している事。多くの事を時間をかけて聞いた。聞き漏らしてしまう事の無い様に全てを聞いた。

「あ…ありがとうっ…グレン…ありがとう」

「ありがとうは、俺たちの方だ。俺たちを助けてくれてありがとう、ユリア」

 ユリアとグレンは、互いに惹かれ合う様に唇を重ねた。優しく深く2人は恋人のキスをした。

「んっ…ちょっと待って、グレン…」

 ユリアは、そっとグレンの服の裾を引っ張る。

「ん?どうした?」

 真っ赤な顔をしながらモジモジする彼女をグレンは愛おしく見つめる。
 ユリアは思いっきり息を吸い言った。自分の思いをちゃんと言葉にしなくちゃ伝わらないから…

「グレン…そのぅ、愛してる、ぞ…大好きだよグレン。」

 それに応える様にグレンも言う。
「俺もだ。愛してるユリア」

 そっとグレンは、ユリアを引き寄せる。そしてやっと帰って来た大事な人をもう離すまいと二人は体温を分かち合った。

  
それからの2人は、会えなかった5年分を埋める様に愛し合った。レイラ達と作った精霊石はこれから先も壊れる事はない。だから、これからは自分自信の幸せの為に生きて行ける。グレンとこれから先を築いて行ける。そう思える今がとても幸せに感じられた。
 

「ユリア…俺と結婚してくれっ」

「グレン…」

「ユリア…俺とじゃ…いや、か?」

 グレンは、真っ直ぐにユリアを見つめる。見つめられるユリアは、言われた言葉の嬉しさに涙が溢れ落ちそうになる。

「そんな事は無い!!…嬉しいっ。私と夫婦になってくれ、グレン」

「あぁ、勿論だ!!絶対に離さないっ」

 2人がもう一度唇を重ねる。その瞬間、空に大輪の花が咲いた。それは何発も何発も止まる事の無く咲き誇る。そんな花を見つめ肩を寄せ合う2人をアイスは、空から見守って居た。

『ユリア様…これからも、2人が幸せであります様にささやかながら贈り物をさせて頂きました。…今までありがとうございました。また、愛を教えて下さいね。また次お会いできます様に…今度は娘として見守れますように…さようなら』


『これは。そう、あの子…ユリアとグレンの為に…私からも礼を言わせて…ありがとう、アイス』


 その時グレンと花火を見ていたユリアは、急に心がざわついた感じがした。一瞬不安に感じたが、今はグレンと花火を見て居たかった。

 花火終了後に落ち着いた後レイラに聞いた…あの時のざわつきは、一体なんだったのか?そして何故グレンに姿が見える様になったのか…

 それは、アイスが居なくなった事が分かったからだと言われた。ユリアが人間としてグレンの前に姿を現わせる様になったのは、アイスが残り少ない魔術を組み上げ具現化する事が出来たから。精霊として具現化した後で5年もかかったが、人間としての具現化、そして魔力もアイスがくれた物だった。

 そのおかげでユリアはグレンに会う事が出来た。それを聞いたユリアは悲しみに泣いたが同時に嬉しくもあった。

「じゃぁ、またアイスには会えるんだな…私の可愛い娘として…ありがとう…アイス。」

「じゃぁ、その為にも子供を作らなきゃな?」

「グレン、気が早いぞ?」

「だって、俺もアイスに会いたいんだ。確かにアイス自身では無いかもしれない…だけど俺とお前を支え引き寄せてくれたアイスを…俺たちの未来の娘にだなんて!嬉しいじゃないか?」

「あぁ、そうだな。…じゃぁ、私は娘の為に物語を書こう!!」

「どんなのを書くんだ?俺の妻は?」

「ふふっ、幸せな物語だ。私達の”天使へ向ける”物語だ。」

「それ、いいな。出来たら読んでやらなきゃな?」

「あぁ、勿論だ。私の夫」

「その為にレイラ。貴方には私たちの”アイス”を加護してほしい…これからも側にいてほしい。」

 ユリアとグレンの傍をそっと離れようとしていたレイラにユリアは言った。
 レイラは、弾けるような笑顔でユリアに応えた。

「喜んでっ!!側に居させてください。ユリア」

 レイラは、二人の元に駆け寄っていった。

 



 その10年後、2人に可愛い女の子が生まれた。結婚式は国中が祝福してくれた。他国からも祝いに来てくれたほど。

 あんなに幸せな結婚式はなかった。今でもユリアとグレンは、幸せな夫婦である。国中が驚く程、彼女達はラブラブだった。

 2人の間に出来た娘はアイスと名付けられた。彼女は、何かにつけて興味を持ち教育係が手を焼く程だったが元気な女の子だった。

 そんなアイスが大好きな物は…母ユリアとグレンの作った物語だった。

 ”精霊物語”
 ”小さな妖精の大冒険”

 これは全てユリア達の実話を絵本化した物であった。国中に広まった”英雄物語”という本の大元になった物であった。

 そして…もう1冊。忘れられない一冊。

「母様っ!またご本読んで!!」

「はいはい。今日は何を読むの?」

「あのねっ!あのねっ氷恋!!」

「あなたは好きね、この本が」

「うんっ!!」

「どうしたんだ?ユリア、それにアイス」

「母様がご本読んでくれるの!」

「そうかーそれは、父様も聞かせて貰おうかな?」

「あなた、執務は?」

「もう終わったよ、じゃぁリビングに行こうか?二人共」

「うん!行こうレイラも!!」

 グレンとユリアの後ろを歩くアイス。そして妖精レイラ。そんな三人の元に懐かしの2人がやって来た。

「あぁーーカインさんとアイリさんだ!!」

「グレン居るかい?」

「カインじゃないか!?それにアイリも!!…あと?」

「うちの息子よ。私達もあなたの作った物語を聞いても良いかしら?ユリア」

「勿論だとも!さぁ、みんなリビングに集まって!!お話しを始めるわよ?」

「「わーい!!」」




 母と同じくアイスも精霊の血を引く。その為レイラがいつも側で守ってくれている。前のアイスがそうだった様にこの子も、恋を知って愛する人と一緒に幸せな物語を紡いでくれます様に…と祈りながら今日も幸せな1日を家族と共に過ごすユリア達であった。

 Ice  in Love.”氷恋”

 それは、”アイス”が居たから生まれた氷の姫の愛の物語…



END
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