声劇台本集

独身貴族

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シチューの作り方

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美味しいシチューの作り方(仮)

《キャスト》


ママ友1(サバサバ?)
ママ友2(おっとり?)

──────────以下台本


◯台所で料理をしている娘

娘(21歳)
「ママー。もうすぐ夕食できるよー」


「ありがとう~。うわぁ、美味しいそうな匂い~」


「美味しそうじゃなくて、美味しいんだってば」


「うふふふふ。楽しみ~」

(間)


母親N
「──いつの間に、幼かった娘は、大人になっていたのでしょうか。1人で手際よく、シチューを作る背中を見て、そう、感じたのでした」

(間)

◯回想

娘(5歳)
「ねーねー、マーマー。あたしもお手伝いするー」


「はいはい。あなたはお利口さんね。それじゃあ、洗濯物、畳んでもらおうかな」


「ふんふんふん~♪(鼻歌)」

母N
「娘は、まだ小さな頃から、よくお手伝いをしてくれる、いい子でした。下に妹がいたからか、お姉ちゃんらしいところを見せようと、率先して妹の面倒を見たり、私の手伝いをしてくれました」


「ママ~。何作ってるの~? 今日のご飯は何~?」


「今日はね、シチューを作ろうと思ってる」


「やった~! シチュー大好き~! あたしも手伝うー!」


「ああっ、危ないから火のそばに来ちゃダメよ。じゃあ、お手伝いしたがりさんには、お皿の準備、してもらおうかな」

娘(やや不満そうに)
「は~い」

母N
「簡単なお手伝いは任せましたが、料理だけは、まだ危ないからと言って、手伝わせませんでした」

(間)

母N
「娘2人が小学校に上がると、私は仕事を始めました」


◯学校から帰ってくる娘。玄関のドアを開けて入ってくる。

娘(10歳)
「ただいま~」


「はーい、おかえり~」

母N
「娘たちが学校にいる間に働きに出て、彼女たちが帰る前に帰宅し、ご飯の準備をしておかえりを言う。洗濯、風呂掃除を済ませて、布団に入る頃にはへとへとでした。これからの子供の学費を貯めるために、育児と仕事の両立は必要なことでしたが、いくらか無理をしていました。……それがたたって、ある日、熱を出して寝込んでしまいました」



「(咳)ごめんねぇ、今日、ちょっとお母さん、具合が悪くって……」

娘(10歳)
「大丈夫? 何か手伝う?」


「……そうねぇ、お洗濯、回しておいてくれるかな? スイッチを入れる前に、必ず蓋を閉めてね。中に手を入れたまま、ボタンを押さないでね。急に回り出したら危ないから。……それから、夜ご飯はレトルトがあるから、あっためて食べて。冷蔵庫のそばに置いてあるの、場所わかるよね? ……ごめんねぇ、ちゃんとしたもの作ってあげられなくて」


「ううん。大丈夫よ。ゆっくり休んで、良くなってね」

[SE:  静かに戸を閉めて、パタパタと走り去る音]

母N
「──しっかりした子に育ってくれたな、と思いながら、うとうとして──どのくらい経ったでしょうか。ガシャンという物音がして、はっと目が覚めました」

[SE:  台所の方へ行く母]


「どうしたの、何か落とした──?」


「ううん、大丈夫……大丈夫……」


「ちょっと、何やってるの!」

母N
「台所へ行くと、娘が手を押さえて泣きそうになっていました。シンクには、皮のむきかけのジャガイモと、にんじんと、ピーラー。調理台には玉ねぎと、シチューのルーが載っています。──どうやら娘は、シチューを作ろうとしていたようでした」


「指を切ったの!? どこ!? 見せて!」

娘(泣きそうに)
「大丈夫……大丈夫だよ。ちょっと皮を切っただけ……」


「危ないから、料理はしなくていいって言ったでしょ! レトルトがあったのわからなかった?」


「ううん……」

母(イライラと)
「ほら、手を出して。手当するから。それから、もうピーラーは使わないで頂戴。包丁も。もっとひどく切ってたらどうするの! はぁ……後の片付けはお母さんがしておくから。もう……やらなくていいのに、やること増やして……」

娘(泣き始める)
「うぅ……うぇえ……」


「なんで泣くのよ。泣かなくてもいいでしょ。それとも、切ったところ痛いの?」

娘(泣きながら)
「痛くないぃ……」


「(ため息)じゃあ、洗濯物干して、終わったら、ご飯用意してあげるから、食べて寝なさい」

娘(鼻を啜りながら)
「うう……うん……」

母N
「──娘が眠った後、ふと、あんなに怒る必要はなかったなと、1人反省をしました。娘はきっと、私のために、あたたかいシチューを作ってくれようとしたのでしょう。ろくに作り方も知らないのに、私の見よう見真似で準備して──あの子なりの親切心だったのに、私は、その芽を摘み取ってしまった。
──その日から、娘は一切台所に立たなくなりました」

(間)

◯井戸端会議をするママさんたち

ママ友1
「最近の子って、ホント料理しないわよねー。うちの子も、お願いしても、全然しようとしなくてさぁ。そのくせに、『ママー、あれが食べたい、これが食べたい』って……。食べたいなら作ればいいのにさ」

ママ友2
「ウチもよ~。でも、お菓子作りには凝っちゃって。分量も考えずに大量に作るから、夕食の時、『お腹空いてない~』って言って残すのよぉ」


「でも、いいじゃないですか。自分からお菓子作りしようだなんて。うちの子も、山田さんの所と同じです。全然料理には興味持たなくて」

ママ友1
「そう、興味を持たないのよ。あたしたちの小さい時なんか、女の子は年頃になったら母親を手伝ったりとかしてね、味噌汁くらいは作れたものよ。今の子は、インスタント食品とか、コンビニのお惣菜とかで間に合わせてしまうのよねぇ」

ママ友2
「でも小泉さんのところの息子さんは、最近料理に目覚めて、自分でお弁当作ってるらしいのよ? 卵焼きとか、上手に作るんですって」

ママ友1
「あら~。今ドキは男の子も料理をするものね~。うちの子、ちゃんとお嫁に行けるかしら~」

母(独り言のように)
「──でも、私の娘は、昔はよく手伝いをしたり、料理をやりたがってたのに──いつから、嫌がるようになったんだっけ……」

◯bgm遠ざかる

母(独り言のように)
「──そうだ、あのシチューの時だ。あの時、怒ってしまったから──」

◯bgm戻ってくる

ママ友2
「なぁに? じゃがいもの皮を剥くときに手を切っちゃって、その時に危ないって怒ったら、それから料理をしなくなったって事?」


「そうなんです。しまったなぁ、と思ったんですけど、やっぱりこたえてたみたいで」

ママ友1
「あるあるよね~。こっちは『危ないでしょ、気をつけて』って言ったつもりなのに、子供は『悪いことをしたから怒られたんだ』って捉えて、それから一切やらなくなっちゃうんだよね。『注意』と『怒る』の区別がつかないんだな~」


「こっちも、体調が悪かったり忙しかったりで、気が立っていて、ついつい大きな声で言っちゃうと、それから二度と、しなくなるんですよね……」

ママ友1
「そーそー」

ママ友2
「でも、いずれはねぇ、一人暮らし始めたりとか結婚とかしたら、どうしたって作らなきゃいけなくなるんだから、そのうち嫌でも、料理覚えますって」

ママ友1
「そんなに簡単に行かないって! 今は結婚しない子も増えてるし、コンビニに行けばね、料理しなくたって食べていけるんだから、できない子が増えるのもわかるわ~」

(間)


娘(10歳)(回想)
「……ごめんね? ごめんね? 違うの。お仕事増やすつもりじゃなかったの。お手伝いしたかったの。ごめんね、ごめんね……」

母N
「子供たちは、最初は好奇心いっぱいになんでもしたがるのに、時が経つにつれて関心が薄れていってしまう。それは、親である私が、その芽を摘み取ってしまったからかもしれない──そう考えてしまう時がありました」

娘(15歳)(回想)
「大丈夫よ、大丈夫。ママ、私できるから」

母N
「──娘から、そんな言葉を聞くたびに、ほっと胸を撫で下ろす。そうね、大丈夫。この子はしっかりしているから、きっとうまく生きていけるでしょう」

(間)

[BGM:  無音]

母N
「でも、娘が台所に立つことは、一度もないまま時は過ぎていきました──」

(間)

[SE:  電話]


「もしもし……元気にしてる? 1人で生活してて、不安なことなぁい? ちゃんと食べてる? インスタントばかりじゃなくて、たまには野菜も食べなきゃダメよ?」

娘(20歳)(電話)
「も~、心配しすぎ。大丈夫だって。ちゃんとやっていけてるよ」

母N
「娘が一人暮らしを始めて、1ヶ月。最初は不安で何度も連絡を入れたり、住んでいるアパートへ顔を出したりして、しまいには子供に『そんなに心配しなくていい!』と、キッパリと言われてしまいました。それでも、私は不安でした。料理を教えてこなかったことが、心の隅にボヤのように、燻りつづけていました」

(間)

母N
「娘が一人暮らしを始めて、一年経ったある日のことでした。陽が落ちて辺りが暗くなった頃、娘のアパートの最寄りの駅から、電話がかかってきました」


「もしもし……えっ……娘が、線路に落ちた子供を、助けようとして……?」

(間)

[SE:  パタパタと廊下を走る足音]

[SE:  さ、っとドアを開ける]

娘(21歳)(へらり、と)
「あ、ママ~。ごめんねぇ、こんな時間に迎えに来てくれて……」

[SE:  頬を叩く音]


「……バカじゃないの! 線路に落ちた子、助けようとして、線路に降りたって……! 今回はたまたま運が良くて、足をくじいただけだったけれど、もし、万が一、そうじゃなかったら……!!」

娘(怒って)
「大丈夫だったでしょ! 大丈夫だったからいいじゃない! なんでそう! ママはいつも! 私のこと否定するの!」


「あなたを否定してるんじゃないの! こんな危ないこと、もうしないでって言ってるの!」


「でもやらなかったら! あの子、生きてなかったかもしれないんだよ!? 私なら引き上げることができた。周りが騒いで誰もしなかったことを、私はした。私は助けた! そのことは……どうだっていいの……? 危ないからするな、難しいからしなくていい……そうやって、なんにも出来なくなっていって後悔するの、嫌だったから……私は……」


「……そうじゃないの。そういうことを言ってるんじゃないの」

[SE:  抱きしめる]


「私にとって、あなたはたった1人しかいないの。何にも変えられない、大事な大事な娘なの。心配になるのもわかって。……あなたは立派なことをしたと思う。助けてくれて、ありがとう。(強く、でも泣きそうに)でも、もう、本当に、こんなことするのはやめて……」


「うん……わかったよ」

(間)

[SE:  車の走行音]

母N
「育てる、と言うことは本当に難しいです。園芸と同じで、放っておいても上手く育たないし、手をかけ過ぎても枯れてしまう。そういえば子供の頃、私は花壇のお花に水をあげ過ぎて、よく枯らしてしまっていたな、と思いだす。これからは、なるべく見守るだけにしよう。この子も、もう大人なんだから……と、助手席に座る娘の横顔を見ながら、そう心に決めました。それでも、心配になってしまう気持ちは、なくなることはないのでしょうけれど……」

(間)

◯自宅。玄関の戸を開け、中に入りながら。


「ね、そんな足なんだから、今日一晩くらい、うちに泊まって行きなさいよ」


「はぁ~い。そーする」

[SE:  足を引き摺りながら、廊下を歩く]


「じゃあ、ママにはいっぱいご心配をおかけしましたので、そのお詫びに、今日の夕食は私が作りまーす」


「足、怪我してるでしょ。無理しなくていいのよ」


「ちょっと挫いただけだから。ほら、身体はこのとーり元気なわけだし、台所に立つくらいはヘーキヘーキ。──ええっとぉ、ジャガイモと、人参……あと玉ねぎある?」


「野菜室にあったと思う」

[SE:  台所に行き、冷蔵庫を開ける]


「ホントだ。(別の扉を開いて)──ソーセージはあるかなぁ? それから~小麦粉とコンソメは? 牛乳もある?」


「わかった。シチュー作るんでしょ?」


「あったり~。……お、あったあった」


「作り方、わかる?」


「もー、わかるよ。私ね、今洋食屋でバイトしてるでしょ。そこでちょこっと料理やらせてもらってて。そしたら、料理にハマっちゃってさ。レシピとか色々お店の人に教えてもらって、アパートでも作ってるんだ」


「へぇ~。いつの間にそんな。じゃあ、私は手伝うことはなさそう?」


「ないよ~。あ、でもお皿を出したり、テーブルの準備はお願いしようかな~。足痛いからね」


「はいはい」


「はいは一回!」


「ふふふ」

[SE:  料理の音]

母N
「いつの間に、娘はこんなに頼もしくなっていたのでしょう。いつまでも、私の足元で泣いている、小さな子供だと思っていたのに」


「──ね。手、切らないでね?」


「ふふ。気をつけまーす」


「お、ちゃんと包丁で切る時、猫の手してるね」


「当然です~。でないと指切っちゃうので~」


「切り方も上手ね~」


「もー、気が散るからあっち行っててよ!」


「ええー? はいはい……」


(間)


「はいっ! それでは、いただきますっ!」


「はーい、いただきます」

[SE:  食事]


「ふふっ。美味しい?」


「うん。美味しいよ。すっごく美味しい」


「よかった~。何気に、お母さんに作った料理食べてもらうの、初めてな気がする」


「そうねぇ。前に一度、シチュー作ってくれようとしたことがあったけれど」

娘(茶化して)
「あー、あの大失敗したやつ? もー、掘り返さないでよぉ。あの時の私とは、もう違いますからね! ふふん」

母(優しく)
「──そうね。頼もしくなった」


「本当にぃ? ちゃんと思ってる?」


「思ってる思ってる」

[SE:  食事の音]

母N
「その日のシチューは、とても暖かくて、優しい味がしました」


END
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