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1章 帝国と姫

18 鈴木、偽名を名乗る!

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「馬車を停めろ」

 御者をしている俺を取り囲むようにして展開する鎧を纏った騎士達。
 その内の一人、恐らく指揮官であろう者が前に出て声を上げる。

 俺は人目もある、ここで暴れるのは二人の立場を不味くする可能性もあると、指揮官騎士の命令通り馬車を停める。
 後ろの二人も異を唱えないから俺の選択は間違ってはいないのだろう。

「なんです?騎士様が大勢で?」

 俺はどうして止められたのかわからない。という風に首を傾げてみる。

「荷をあらためさせてもらう!この馬車に我が国の姫を騙る不届き者が乗っているという情報が門より報告があった!」

 そう言って乗り込もうとする指揮官騎士を俺は御者台から飛び降りて制する。

「それはおかしな話ですね。門にいた憲兵さんは荷を確認した上で通して下さってるんですよ?再度見せろと言うのは構いませんが、この帝都の警備はザルだと周囲の皆様に喧伝しているようなものですよ?」

 そう大声で周囲を歩く人々に聞こえるように、注意を引くように身振り手振りを踏まえ、劇のワンシーンのように演出する。

 見れば道行く人達は立ち止まり、ザワザワと俺と騎士達に好奇の視線を向ている。

 目の前の指揮官騎士は苦虫を噛み潰したかのような表情をするが、きっと彼は命令されているだけなのだろう。譲れないとばかりに口を開く。

「門を通したのはわざとだ。ここで待ち伏せし、姫の名を騙る悪辣な犯罪者を一匹残らず捉える為だ!さぁ、御者よ!そこを退け!」
「それには及びません!」

 俺を退けようと指揮官や他の騎士達が動いたその時、馬車の中から力強い声を上げ、イザベラが降りてきた。
 俺は直ぐに彼女と騎士達の間に身を滑り込ませる。

「私の名はイザベラ=ギュスターヴ=ブリガント!帝国に剣を捧げる騎士達よ。まさかあなた方は私の顔を見忘れたとは言いませんよね?」

 普段のお淑やか?な雰囲気はなく、苛烈な瞳を騎士達に向け、力の篭った声で名乗りを上げるイザベラ。
 その名乗りを聞いて、周囲のざわめきは一層激しいものになる。
 しかし、指揮官騎士も中々の役者だったようだ。
 イザベラの名乗りにフン!と鼻を鳴らし、腕を上げ、指をさしてイザベラに負けじと声を上げる。

「ふはは!語るに落ちるとは正にこの事よ!貴様はイザベラ姫様の名を騙る偽物よ!我らが剣を捧げる姫様は今も帝城に居られるわ!」

 その言葉に民衆達はザワザワとざわめきつつ、どちらの言い分が正しいのか測り兼ねている様子。そこに、ざわめく民衆の辺りから声が上がる!

「この姫様を騙る偽物め!」
「良く見たら肖像画とは全然違うぞ!この偽物!」

 そう声高に叫ぶ少数の声が次第に民衆を支配し始める。
 どうやら民衆の中に扇動者を用意していたようだ。まったく、騎士のくせにやる事が狡い。

 しかしこうなるともう止まらない。
 集まった民衆達は口々に「この偽物め!」「悪魔が化けているに違いない!」「死ね!この偽物め!」などと口々に罵り、その辺の石や固い果物や生卵なんてのも飛んでくる。

 俺はそれら全てを剣で、拳で、生卵は割れないようにやんわりと掌で受け止める。
 俺の華麗な武技に、暴徒のように騒いでいた民衆達は、物を投げるのを止め俺に恐怖の視線を向けている。
 その空白を突き、俺は背中越しでイザベラに話しかける。

「イザベラ。どうする?」
「あら?スズキ様は私が皆様の言うように偽物だとは思わないのですか?」
「正直どっちでもいいね。目の前のイザベラが何者でも、俺の護るべき雇い主なのには変わりはないよ」

 背中に居る彼女の疑問。表情はわからないが不安の色が窺える声に、俺は素直に思った事を告げる。
 背後では、僅かに身じろぐ衣ズレの音と荒い吐息が聞こえてくるが、俺は気にせずそのまま続けた。

「それに、俺は受けたクエストを放棄したり失敗した事がないのが自慢なんだ。だから、今回もそれを更新したいと思ってるんだよ?」
「なら、私を……私達を護って!あのお城まで連れて行って!そして悪を倒して!」
「ちょっと多いなぁ。ここぞとばかりに増やしてない?……でも、お安い御用だ!」

 俺はイザベラを馬車内に戻すと、中でハラハラとした表情で待っていたエレイラの二人を中心に馬車内に簡易結界発生機で一瞬の内に結界を発動させ防御を固めると、俺は馬車を離れて一気に騎士達に迫る!
 数人の騎士が俺の放った斬り払いに一斉にぶっ飛んで通行人を巻き込んで止まる。

「クッ!この!偽物を庇い立てするというのであれば貴様も同罪!この場で打ち首にしてくれる!かかれ!」

 残った騎士達は指揮官騎士の合図に前後左右から一斉に襲いかかってくる。さらに建物の上からは矢が、路地の影からは、一体何処にこれだけの人間が?と思うほど、わらわらと鎧を纏った騎士や、それよりランクの下がる武装をした戦士が湧いてくる。
 俺はそれら有象無象を、さながら時代劇の殺陣のように斬り、殴り、時に掴んで投げ飛ばしと縦横無尽に暴れまわる。

「弓兵!奴を狙い撃て!」

 指揮官騎士の叫びに、建物の上から、狙いすましたかのように射られた弓矢が一斉に迫る。
 避けようのないタイミングで射られた矢が、俺に突き刺さるのを視たのか、狂喜の声を上げる騎士。
 だが、それら複数の矢は俺に届く前、何もない空間でギギッ!と急ブレーキをかけ、ポトポトと地面に落下した。
 俺のパワーアップした防具、金魔装備が発動させた防壁の前に、タダの弓矢なぞが束になったところでソレを抜ける事なぞ出来る訳がないのだ。

「馬鹿な!弓兵!もう一度だ!」
「何度やっても同じなんだがな……」

 焦る指揮官騎士の声に、俺はそう言ってチラリと馬車の方を見れば、結界に取り付いた騎士達が、必死に剣を振って見えない壁の破壊を試みている。
 割れる訳もないのだが、中の二人を怖がらせるのもどうかと思い、取り付いている騎士達諸君にスキル『エアトスハンマー』をこっそりぶつけて結界から吹き飛ばす。あっ……馬車が壊れた。

 と、よそ見をしている内に弓の第二射が飛来するが、やはり急ブレーキからの落下で決着である。

「あああ、ありえん!貴様!一体何者だ!」

 震える指を突き付けて、ガクガクと足を揺らしている指揮官騎士に、俺は覇気を込めた目で睨みを利かせてこう言った。

「俺か?……俺は巨乳好きのスーさんだ!」



 
 
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