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白雨【8月短編】
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この街は人が少なく、自然が多い。山の中だから夏でも涼しくて過ごしやすい。少し歩けば滝もあるから、この季節は心地よいと思う。
ただ、その代わりと言ってはなんだが娯楽施設はとても少ない。最寄りのコンビニまでは自転車で二十分かかる。古びた自転車の後ろにおみを乗せて、長い坂を下って行くのは気持ちがいい。ただし、帰りはひどく疲れるが。
「りょーたー、アイス溶けちゃう」
「もう、無理……限界……」
久しぶりにコンビニに行こうと言って、おみに大きな麦わら帽子を被せてから自転車を漕ぎ始めた。どんなに涼しい地域でも龍神であるおみは暑さに弱い。
この前は暑すぎて舌をしまい忘れていた。本当にそれで涼しいのかは分からないが。そんな姿を見ていると、つい何か冷たいものをあげたくなる。そういうわけで、クーラーの効いた涼しいコンビニで、お気に入りのアイスを買ってもらったおみは鼻歌を歌うくらいご機嫌だった。
しかし、ただの人間であり、かつ頑張ることも無駄な動きも嫌いな俺にはこの往復はあまりにも過酷で。道半ばで心が折れてしまいそうになっていた。
「りょーた?」
「アイス……ここで食べて、いいから……」
「ほんと?」
「うん、こぼさないよう、気をつけて食べろよ」
坂の途中にあるベンチに座り、汗を拭う。買っておいた麦茶を一気に流し込むと火照っていた体が少し冷やされていく気がした。
隣に座っていたおみは、ソーダ味のアイスにかぶりついている。小さな口を必死にあけているから、尖った八重歯が見えていた。美味しそうに食べるなぁ、相変わらず。
「おいしい?」
「おいしー!」
「あ、これ当たり付きじゃん」
「当たるとどうなるの?」
「もう一本もらえる」
「すごい!」
昔から運が悪くてこういうものに当たったことがない。おみくじだけは常に大吉だけど、それは、まあ、忖度という気もしている。
「りょーた、これ当たり?」
「どれ?」
「これー」
半分ほど食べたアイスの棒を見ると、紛うことなき花丸が描かれていた。おお、これは。
「当たりだ」
「ほんと!?」
「ほんと。すごいな、おみ」
「やったー! もう一本!」
はしゃいでいる間にアイスが溶け始める。この暑さでは、わずか隙が命取りだ。まずは目の前にあるアイスが最優先。こぼさないよう、気をつけながら残りを早く食べるよう促す。
西瓜もトマトも好きだけど、やっぱりアイスは格別のようだ。今まで食べたことがなかったと言っていた。
「りょーた、あーん」
「えっ?」
「あいす、あーん」
最後の一口を、ずいと目の前に差し出された。いきなりのことで呆気に取られてしまう。
「おいしいから、りょーたも食べて」
「え、あ、ありがとう」
おずおずと口に含む。ヒンヤリとしていて、ラムネの味がとても爽やかだ。しかし、まさか。龍神様から直接口に入れてもらうなんて。
親が知ったら驚くだろうな。
「おみ、ありがとう」
「ん!」
「明日、当たりのやつ貰いに行こうな」
「行く!」
ベンチの下で、尻尾がご機嫌に揺れていた。おかげで雲ひとつない快晴で、酷く暑くなるだろうなと思ったけれど。
口に残った僅かなソーダ味のせいか、どこか涼しく感じられた。
ただ、その代わりと言ってはなんだが娯楽施設はとても少ない。最寄りのコンビニまでは自転車で二十分かかる。古びた自転車の後ろにおみを乗せて、長い坂を下って行くのは気持ちがいい。ただし、帰りはひどく疲れるが。
「りょーたー、アイス溶けちゃう」
「もう、無理……限界……」
久しぶりにコンビニに行こうと言って、おみに大きな麦わら帽子を被せてから自転車を漕ぎ始めた。どんなに涼しい地域でも龍神であるおみは暑さに弱い。
この前は暑すぎて舌をしまい忘れていた。本当にそれで涼しいのかは分からないが。そんな姿を見ていると、つい何か冷たいものをあげたくなる。そういうわけで、クーラーの効いた涼しいコンビニで、お気に入りのアイスを買ってもらったおみは鼻歌を歌うくらいご機嫌だった。
しかし、ただの人間であり、かつ頑張ることも無駄な動きも嫌いな俺にはこの往復はあまりにも過酷で。道半ばで心が折れてしまいそうになっていた。
「りょーた?」
「アイス……ここで食べて、いいから……」
「ほんと?」
「うん、こぼさないよう、気をつけて食べろよ」
坂の途中にあるベンチに座り、汗を拭う。買っておいた麦茶を一気に流し込むと火照っていた体が少し冷やされていく気がした。
隣に座っていたおみは、ソーダ味のアイスにかぶりついている。小さな口を必死にあけているから、尖った八重歯が見えていた。美味しそうに食べるなぁ、相変わらず。
「おいしい?」
「おいしー!」
「あ、これ当たり付きじゃん」
「当たるとどうなるの?」
「もう一本もらえる」
「すごい!」
昔から運が悪くてこういうものに当たったことがない。おみくじだけは常に大吉だけど、それは、まあ、忖度という気もしている。
「りょーた、これ当たり?」
「どれ?」
「これー」
半分ほど食べたアイスの棒を見ると、紛うことなき花丸が描かれていた。おお、これは。
「当たりだ」
「ほんと!?」
「ほんと。すごいな、おみ」
「やったー! もう一本!」
はしゃいでいる間にアイスが溶け始める。この暑さでは、わずか隙が命取りだ。まずは目の前にあるアイスが最優先。こぼさないよう、気をつけながら残りを早く食べるよう促す。
西瓜もトマトも好きだけど、やっぱりアイスは格別のようだ。今まで食べたことがなかったと言っていた。
「りょーた、あーん」
「えっ?」
「あいす、あーん」
最後の一口を、ずいと目の前に差し出された。いきなりのことで呆気に取られてしまう。
「おいしいから、りょーたも食べて」
「え、あ、ありがとう」
おずおずと口に含む。ヒンヤリとしていて、ラムネの味がとても爽やかだ。しかし、まさか。龍神様から直接口に入れてもらうなんて。
親が知ったら驚くだろうな。
「おみ、ありがとう」
「ん!」
「明日、当たりのやつ貰いに行こうな」
「行く!」
ベンチの下で、尻尾がご機嫌に揺れていた。おかげで雲ひとつない快晴で、酷く暑くなるだろうなと思ったけれど。
口に残った僅かなソーダ味のせいか、どこか涼しく感じられた。
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