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天泣【9月長編】
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それからほぼ毎日、仕事が終わるとイネとマイは青い帯紐を持ってうちを訪れるようになった。仕事はちゃんとしているらしく、そこは安心している。
結婚式までもうあと数日。準備は着々と進められていた。
「嫁入り行列は、店から森の出口までに決まったよ」
「店長が張り切って花嫁衣装も作ってる」
「あとはアタシたちの贈り物だけ」
「ふぐぐ……!」
各々好き勝手にお菓子を食べたり刺繍をしたり、針に糸を通そうとしたり、のんびり過ごしている。俺は店があるから少ししか様子を見られないが、おみは双子に随分と懐いてきたようだ。
ウカさんの結婚式に何を着るかと話をしては盛り上がっている。そう言えば俺とおみも招待されているんだった。流石に外出着みたいにラフなものは着られない。招待客がほとんど顔見知りであっても、自分の立場的にそれなりの格好をしないといけないだろう。
なんたって隣にはおみがいるんだ。色紋付を出しておかなければ。
「しまった、おみの分を仕立ててないな」
「あら、お困りのようね?」
「うああ!?」
呟いた瞬間、店のドアが開き織田さんが入ってきた。いつも思うがどうしてこんなにも神出鬼没なんだろう。心臓が跳ね上がってしまうからなるべく普通に来て欲しい。
「ど、どうしたんですか、急に」
「あらやだ、アタシが来ちゃダメなの?」
「そういう訳じゃ……」
「イネとマイが迷惑かけてるから、そのお詫びに来たのよ」
「お詫び?」
まさか織田さんからそんなこと言われるとは思っていなかった。基本的に義理堅く礼儀正しいが、自分からお詫びをすることは滅多にない。「そう」ならないように上手く振る舞っていると言ってもいい。
その織田さんが。一体どうしたというんだろう。
「仕事が終わったら二人してコソコソ何処かに行ってたから、まあここだろうと思ってたけど。毎日何してるか知らないけど、大変だと思ったのよ」
「大変ではないですよ。おみも一緒に遊べて嬉しいみたいだし」
「それならよかった。イネもマイも、ウカ以外の子と遊ぶ機会がほとんどなかったから」
時期的にウカさんはまだ他に仲間がいただろう。でもイネやマイがここに来た時は既に状況が変わっていた。だから、俺と初めて出会った時は二人とも驚いて、そして大喜びしていた。
「ウカの結婚式、色紋付がいるでしょ? りょうちゃんとおみちゃんの分、用意してきたの」
「あ、そうだった。探そうと思っていたんです」
「当日は嫁入り行列があるの。参列者はほとんど顔見知りだけど、よかったら来てちょうだいね」
「もちろん。ウカさんにもよろしく伝えてください」
大きなたとう紙を受け取り、イネとマイを呼ぶついでに座敷へと運ぶ。二人が帰ったらおみと一緒に新しい色紋付を見てみよう。少しずつ冷たくなってきた夜風が肌を撫でる。
遠くから、三人の楽しそうな声が聞こえてくる。明るいはずの声なのになぜだから俺の胸はきゅっと締め付けられていた。
結婚式までもうあと数日。準備は着々と進められていた。
「嫁入り行列は、店から森の出口までに決まったよ」
「店長が張り切って花嫁衣装も作ってる」
「あとはアタシたちの贈り物だけ」
「ふぐぐ……!」
各々好き勝手にお菓子を食べたり刺繍をしたり、針に糸を通そうとしたり、のんびり過ごしている。俺は店があるから少ししか様子を見られないが、おみは双子に随分と懐いてきたようだ。
ウカさんの結婚式に何を着るかと話をしては盛り上がっている。そう言えば俺とおみも招待されているんだった。流石に外出着みたいにラフなものは着られない。招待客がほとんど顔見知りであっても、自分の立場的にそれなりの格好をしないといけないだろう。
なんたって隣にはおみがいるんだ。色紋付を出しておかなければ。
「しまった、おみの分を仕立ててないな」
「あら、お困りのようね?」
「うああ!?」
呟いた瞬間、店のドアが開き織田さんが入ってきた。いつも思うがどうしてこんなにも神出鬼没なんだろう。心臓が跳ね上がってしまうからなるべく普通に来て欲しい。
「ど、どうしたんですか、急に」
「あらやだ、アタシが来ちゃダメなの?」
「そういう訳じゃ……」
「イネとマイが迷惑かけてるから、そのお詫びに来たのよ」
「お詫び?」
まさか織田さんからそんなこと言われるとは思っていなかった。基本的に義理堅く礼儀正しいが、自分からお詫びをすることは滅多にない。「そう」ならないように上手く振る舞っていると言ってもいい。
その織田さんが。一体どうしたというんだろう。
「仕事が終わったら二人してコソコソ何処かに行ってたから、まあここだろうと思ってたけど。毎日何してるか知らないけど、大変だと思ったのよ」
「大変ではないですよ。おみも一緒に遊べて嬉しいみたいだし」
「それならよかった。イネもマイも、ウカ以外の子と遊ぶ機会がほとんどなかったから」
時期的にウカさんはまだ他に仲間がいただろう。でもイネやマイがここに来た時は既に状況が変わっていた。だから、俺と初めて出会った時は二人とも驚いて、そして大喜びしていた。
「ウカの結婚式、色紋付がいるでしょ? りょうちゃんとおみちゃんの分、用意してきたの」
「あ、そうだった。探そうと思っていたんです」
「当日は嫁入り行列があるの。参列者はほとんど顔見知りだけど、よかったら来てちょうだいね」
「もちろん。ウカさんにもよろしく伝えてください」
大きなたとう紙を受け取り、イネとマイを呼ぶついでに座敷へと運ぶ。二人が帰ったらおみと一緒に新しい色紋付を見てみよう。少しずつ冷たくなってきた夜風が肌を撫でる。
遠くから、三人の楽しそうな声が聞こえてくる。明るいはずの声なのになぜだから俺の胸はきゅっと締め付けられていた。
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