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朝時雨【12月特別編】
【クリスマス】2
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おみが背負っている白い袋には、先日の大掃除で見つけた様々なものが入っている。それらを綺麗にして、一つ一つ丁寧にラッピングしたものをサンタとして届けるのだそうだ。
一応、龍神だけど異教の祭事は許されるのか、と聞いてみたが、その辺は「くるしゅうない」のだそうだ。心が広いな、さすが神様。
「まずは、さかぐち!」
「やっぱり一番は坂口さんなんだな」
「おうちが近いから」
「……それは言わないでおこうな」
一番懐いているのかと思ったのに。まさかそんな理由だったなんて。とはいえ、この狭い山では限られた人としか交流しない。
一番好き、とかは決められないのかもしれないな。
「じんぐーべーじんぐーべー」
「何それ」
「てれびで聞いたの、じんぐーべー」
ジングルベル、だろうな。正確な歌詞は分からないようで、同じ歌詞を何度もふにゃふにゃ繰り返しながら坂口さんの家まで歩いていく。
本当ならトナカイに乗るはずだけど、サンタの背中にくっついていた。おみサンタはこれが正しい姿なんだろう。
「おみ、くいしゅましゅはじめて」
「クリスマス」
「くいすましゅ」
「惜しい」
「くーりーすーまーすー」
「そうそう」
そんな、脳天気なことを話している間に坂口さんの家が見えてきた。今日も変わらず立派な日本家屋だ。大きな農作業用の機械が置かれている。
五穀豊穣の神様は休む暇がないみたいだ。
「さかぐちー、おみサンタでーす」
「おうおう、待ってたぜおみ坊」
無遠慮に扉を叩くと、言葉通り俺たちの訪問を待っていたのだろう。すぐに坂口さんが顔を出した。今日もお洒落な帽子を被っている。
サンタって寝ている間にプレゼントを届けるんじゃなかったっけ。まあいいか。
「さかぐち、めりーくりすます!」
「嬉しいねぇ、おみ坊からの贈り物なんて」
「あけてみてー!」
少し歪なラッピングを、坂口さんは嬉しそうに開けていく。それをワクワクしながら見つめるおみの方が、プレゼントをもらう子供のようだ。
坂口さんには何をあげるんだろう。蔵から出てきた物の中で、それぞれに合いそうなものをおみが見繕っていたが。具体的に何かまでは見ていない。
「お、これはまた」
「どう? どう?」
「お猪口か。いいな、おみ」
中から出てきたのは、やたらと使い込まれたお猪口と徳利だった。よく見るとひび割れしている。使えるのか? これ。
「へぇ、室町時代のものか。しかも金継ぎまでされてやがる」
「む、室町!?」
確かに年代物だとは思ったが、まさか室町時代のものだったとは。しかも金継ぎまでしてあるということはかなり価値が高いだろう。そんなものがうちの蔵にあったなんて。
少し、いや、かなりビビってしまう。
「さかぐちは、おさけが好きだからこれ!」
「嬉しいなァ、毎日使わせてもらおう」
「いやでもそれ、かなり高価なものですけど……!」
「おいおい、室生の坊」
慌てふためく俺に向かって、坂口さんが諭すように話し始めた。うぐぐ、と息を飲む。七福神の威厳は圧倒的だ。
「どんなに高価なぐい呑みも使ってもらえなきゃ可哀想だろ?」
「そ、そうです、けど」
「俺が大事に使うんだ、こいつも本望だろうさ」
そうかなぁ。そうかもしれない。神様の時間感覚にはまだ慣れないけれど、物を大切に慈しむ考えは分かってきた。
だから、おみもこのお猪口を選んだのかな。
「りょーた、次おだしゃ!」
「そうだな、行こうな」
「さかぐちまたねー」
「おう、またな」
大きく手を振りながら坂口さんの家を後にする。次は織田さんの家に行こう。呑気な歌と共に、おみサンタはまだまだ進む。
一応、龍神だけど異教の祭事は許されるのか、と聞いてみたが、その辺は「くるしゅうない」のだそうだ。心が広いな、さすが神様。
「まずは、さかぐち!」
「やっぱり一番は坂口さんなんだな」
「おうちが近いから」
「……それは言わないでおこうな」
一番懐いているのかと思ったのに。まさかそんな理由だったなんて。とはいえ、この狭い山では限られた人としか交流しない。
一番好き、とかは決められないのかもしれないな。
「じんぐーべーじんぐーべー」
「何それ」
「てれびで聞いたの、じんぐーべー」
ジングルベル、だろうな。正確な歌詞は分からないようで、同じ歌詞を何度もふにゃふにゃ繰り返しながら坂口さんの家まで歩いていく。
本当ならトナカイに乗るはずだけど、サンタの背中にくっついていた。おみサンタはこれが正しい姿なんだろう。
「おみ、くいしゅましゅはじめて」
「クリスマス」
「くいすましゅ」
「惜しい」
「くーりーすーまーすー」
「そうそう」
そんな、脳天気なことを話している間に坂口さんの家が見えてきた。今日も変わらず立派な日本家屋だ。大きな農作業用の機械が置かれている。
五穀豊穣の神様は休む暇がないみたいだ。
「さかぐちー、おみサンタでーす」
「おうおう、待ってたぜおみ坊」
無遠慮に扉を叩くと、言葉通り俺たちの訪問を待っていたのだろう。すぐに坂口さんが顔を出した。今日もお洒落な帽子を被っている。
サンタって寝ている間にプレゼントを届けるんじゃなかったっけ。まあいいか。
「さかぐち、めりーくりすます!」
「嬉しいねぇ、おみ坊からの贈り物なんて」
「あけてみてー!」
少し歪なラッピングを、坂口さんは嬉しそうに開けていく。それをワクワクしながら見つめるおみの方が、プレゼントをもらう子供のようだ。
坂口さんには何をあげるんだろう。蔵から出てきた物の中で、それぞれに合いそうなものをおみが見繕っていたが。具体的に何かまでは見ていない。
「お、これはまた」
「どう? どう?」
「お猪口か。いいな、おみ」
中から出てきたのは、やたらと使い込まれたお猪口と徳利だった。よく見るとひび割れしている。使えるのか? これ。
「へぇ、室町時代のものか。しかも金継ぎまでされてやがる」
「む、室町!?」
確かに年代物だとは思ったが、まさか室町時代のものだったとは。しかも金継ぎまでしてあるということはかなり価値が高いだろう。そんなものがうちの蔵にあったなんて。
少し、いや、かなりビビってしまう。
「さかぐちは、おさけが好きだからこれ!」
「嬉しいなァ、毎日使わせてもらおう」
「いやでもそれ、かなり高価なものですけど……!」
「おいおい、室生の坊」
慌てふためく俺に向かって、坂口さんが諭すように話し始めた。うぐぐ、と息を飲む。七福神の威厳は圧倒的だ。
「どんなに高価なぐい呑みも使ってもらえなきゃ可哀想だろ?」
「そ、そうです、けど」
「俺が大事に使うんだ、こいつも本望だろうさ」
そうかなぁ。そうかもしれない。神様の時間感覚にはまだ慣れないけれど、物を大切に慈しむ考えは分かってきた。
だから、おみもこのお猪口を選んだのかな。
「りょーた、次おだしゃ!」
「そうだな、行こうな」
「さかぐちまたねー」
「おう、またな」
大きく手を振りながら坂口さんの家を後にする。次は織田さんの家に行こう。呑気な歌と共に、おみサンタはまだまだ進む。
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