泣き虫龍神様

一花みえる

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春の雨【3月長編】

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    朝から頑張って作ったお弁当はすこぶる好評だった。おみの思惑通り、坂口さんはちくわを肴にお酒を飲んでいる。織田さんはトマトのマリネを摘みつつ、イネとマイが稲荷寿司を頬張っているのを微笑ましく見つめていた。
    そして、おみはというと。
「んま、んまま!」
「自分で作ると美味しさ倍増だな」
「んー!」
    片手におにぎり、もう片方の手にはお箸を握ってご満悦だった。お皿には既にエビフライと卵焼きが乗せられている。味見と称して少なくない量を食べていたはずなのに。相変わらずよく食べる子だ。
    ちなみに坂口さんは採れたて野菜と魚介類を持ってきていた。このあと網で焼いて、その場で食べる予定だ。織田さんは桜にちなんだデザートを作ってきてくれたようで、こちらは食後のお楽しみ。今回もすごく豪華で大量だ。
「いね、まい、これおみのおすすめ」
「これ?」
「たまご?」
「そう!」
    どうやら自分の好物を他人に勧めたいらしい。独り占めしようとしないのは、本当におみの素敵なところだ。
    自分が好き。だから人にも与えたい。心優しい龍神様だ。
「このたまご、黄色いね」
「あまいの。ふわふわ」
「店長の卵焼きはしょっぱいよ」
「あまいのもおいしーの!」
    どうやら甘い卵焼きが好物なのは間違いないらしい。そこまで自信満々に勧められるとなんだか作り手としては嬉しい反面、気恥ずかしくもある。
    お口に合えばよろしいのですが。
「じゃあ、卵食べるね!」
「卵焼きいただきまーす!」
「どぞどぞ」
    イネとマイが一つずつ卵焼きを皿にとる。蜂蜜をたっぷり入れて、塩で味を整えた甘くてふわふわの卵焼き。
    二人の口に合うといいけど。
「んー!    甘くて美味しい!」
「卵焼きってこんなに甘いんだ!」
「でしょー!」
    よかった。喜んでもらえたみたいだ。お酒を飲む織田さんや坂口さんには甘すぎるかもしれない。
    でも、俺にとって卵焼きはこの甘い味なんだ。それを喜んでもらえたのはやっぱり嬉しい。
「りょーた、たまご、おいしーって」
「よかった。嬉しいな」
「おみもすき!    もいっこたべていい?」
「はい、どうぞ」
    一番大きくて形が綺麗なものを皿に乗せてやる。桜よりも鮮やかに笑ったおみが、卵焼きをぱくりと頬張った。
    この後は坂口さんが持ってきた野菜と魚介類を焼いて食べる。それも楽しみだな。
「おはなみたのしーねー」
「な、楽しいな」
    気持ちよさそうに腹を見せて寝転がるちびすけが、ゴロゴロと喉を鳴らした。お花見はまだ始まったばかり。
    楽しい時間もまだまだ続く。
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