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花時雨【4月短編】
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「やっと届いたな」
「まー!」
我が家に届けられた一際大きな段ボール。その中身は少し前に注文していた大量のトイレットペーパーだった。外に買いに行くこともできるが、頻繁に山を降りるのは面倒だから定期的に通販を利用している。送り先は実家の住所なので、食料などが送られてくるタイミングで一緒に届けられるのだ。三ヶ月分をまとめて注文するので、その箱はとても大きい。早く中身を出して片付けてしまいたい。
その前に、保存のきく食料や野菜も在るのでそちらを先に片付けておきたい。冷凍保存や仕分けなど、やるべきことは多いのだ。
「おみ、これ開けられるか?」
「できるよー」
「じゃあ一個ずつ納戸に持っていってくれるか?」
「うぃ!」
これくらいならおみも楽しくできるだろう。その間に俺は野菜を切って冷凍庫に入れていこう。おみが手伝ってくれて本当に助かる。
さっそく食料の入った箱を持って台所へと向かう。おみはやる気十分に大きな段ボールの前で手を振っていた。
それから約一時間。ようやく全ての野菜を冷凍処理し、冷凍庫がパンパンになったので居間に戻ることにした。果たしておみは無事にトイレットペーパーを片付けられただろうか。雨が降らなかったから泣いてはいないのだろうけれど。
「おみ、どんな感じだ?」
「みぃ」
「おみ?」
居間に向かうと、大きな段ボールだけがぽつんと真ん中に取り残されていた。おみの姿は見えない。でも、小さいながら鳴き声は聞こえてきた。
うーん、新しい遊びを見つけたな。
「おみ、箱の中にいるのか?」
「そう!」
「見事に入ったなぁ」
段ボールの中を覗き込むと、すっぽりと収まってニコニコ笑っているおみがこちらを見上げていた。縦も横も大きい箱だから、立ち上がっても角の先っぽいがちょっと見えるくらいだ。子供の頃、俺もよくやったな。段ボールとか押し入れにお気に入りのぬいぐるみを持ち込んで、自分の家にしてたっけ。おみも変わらないんだなぁ。
「ここね、おみのおうち!」
「いつかもっと立派な家を建ててもらえるよ」
「いーしゃんのおうちみたいな?」
「そうそう」
おみは、まだ幼いためちゃんとした神社が建てられていない。でも、いつか、立派な龍神様になったら。きっと本家が総力をあげて神社を建てるだろう。とはいえ、おいちさんの家、つまり宗像大社のようにスタイリッシュでスマートなものにはならない気がするが。
どこもかしこもお菓子で作られているような気がしてならない。
「まあ、練習と思ってもいいか」
「み?」
俺が生きている間におみの家が建てられているかはわからない。できれば見届けたいけれど。この調子だと難しいだろう。
だから不完全だし、簡単なものだけど。今のおみに専用の家を作ってあげよう。
「この箱、ひっくり返して上手に切ったら本当の家みたいにできるぞ」
「おおー! おみはうす!」
「そう」
おみを中から引っ張り出し、箱をひっくり返す。そのままカッターで入口を作ってやると、どことなく家のように見えてきた。本当はこのドアもスムーズに開閉できたらいいんだけど。今の俺には難しいな。
それから窓も作ってみる。こうするとますます家みたいだ。
「おみのおうちだ!」
「縁側に置いたらちびすけが入り込むかもな」
「ちびちゃのおへや、ないよ」
「じゃあ新しい箱が来たら作ってやろうか」
「やったー!」
手作りの家に感激したおみが、段ボールの家で喜びの舞を披露する。明日、もし晴れたら色でも塗ってやろうか。
壁に好きな絵を描いてもいい。やっぱり俺が生きている間に、ちゃんとしたおみの家を作ってやりたいなと、夢のようなことを願っていた。
「まー!」
我が家に届けられた一際大きな段ボール。その中身は少し前に注文していた大量のトイレットペーパーだった。外に買いに行くこともできるが、頻繁に山を降りるのは面倒だから定期的に通販を利用している。送り先は実家の住所なので、食料などが送られてくるタイミングで一緒に届けられるのだ。三ヶ月分をまとめて注文するので、その箱はとても大きい。早く中身を出して片付けてしまいたい。
その前に、保存のきく食料や野菜も在るのでそちらを先に片付けておきたい。冷凍保存や仕分けなど、やるべきことは多いのだ。
「おみ、これ開けられるか?」
「できるよー」
「じゃあ一個ずつ納戸に持っていってくれるか?」
「うぃ!」
これくらいならおみも楽しくできるだろう。その間に俺は野菜を切って冷凍庫に入れていこう。おみが手伝ってくれて本当に助かる。
さっそく食料の入った箱を持って台所へと向かう。おみはやる気十分に大きな段ボールの前で手を振っていた。
それから約一時間。ようやく全ての野菜を冷凍処理し、冷凍庫がパンパンになったので居間に戻ることにした。果たしておみは無事にトイレットペーパーを片付けられただろうか。雨が降らなかったから泣いてはいないのだろうけれど。
「おみ、どんな感じだ?」
「みぃ」
「おみ?」
居間に向かうと、大きな段ボールだけがぽつんと真ん中に取り残されていた。おみの姿は見えない。でも、小さいながら鳴き声は聞こえてきた。
うーん、新しい遊びを見つけたな。
「おみ、箱の中にいるのか?」
「そう!」
「見事に入ったなぁ」
段ボールの中を覗き込むと、すっぽりと収まってニコニコ笑っているおみがこちらを見上げていた。縦も横も大きい箱だから、立ち上がっても角の先っぽいがちょっと見えるくらいだ。子供の頃、俺もよくやったな。段ボールとか押し入れにお気に入りのぬいぐるみを持ち込んで、自分の家にしてたっけ。おみも変わらないんだなぁ。
「ここね、おみのおうち!」
「いつかもっと立派な家を建ててもらえるよ」
「いーしゃんのおうちみたいな?」
「そうそう」
おみは、まだ幼いためちゃんとした神社が建てられていない。でも、いつか、立派な龍神様になったら。きっと本家が総力をあげて神社を建てるだろう。とはいえ、おいちさんの家、つまり宗像大社のようにスタイリッシュでスマートなものにはならない気がするが。
どこもかしこもお菓子で作られているような気がしてならない。
「まあ、練習と思ってもいいか」
「み?」
俺が生きている間におみの家が建てられているかはわからない。できれば見届けたいけれど。この調子だと難しいだろう。
だから不完全だし、簡単なものだけど。今のおみに専用の家を作ってあげよう。
「この箱、ひっくり返して上手に切ったら本当の家みたいにできるぞ」
「おおー! おみはうす!」
「そう」
おみを中から引っ張り出し、箱をひっくり返す。そのままカッターで入口を作ってやると、どことなく家のように見えてきた。本当はこのドアもスムーズに開閉できたらいいんだけど。今の俺には難しいな。
それから窓も作ってみる。こうするとますます家みたいだ。
「おみのおうちだ!」
「縁側に置いたらちびすけが入り込むかもな」
「ちびちゃのおへや、ないよ」
「じゃあ新しい箱が来たら作ってやろうか」
「やったー!」
手作りの家に感激したおみが、段ボールの家で喜びの舞を披露する。明日、もし晴れたら色でも塗ってやろうか。
壁に好きな絵を描いてもいい。やっぱり俺が生きている間に、ちゃんとしたおみの家を作ってやりたいなと、夢のようなことを願っていた。
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