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催涙雨【7月短編】
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しおりを挟む「……満足か?」
「うぃ……」
家中を走り回り、ちびすけに逃げられ続けたおみが畳の上で伸びていた。すばしっこい猫相手に鬼ごっこなんて。おみにはまだ早かったようだ。
それでも全力で走ったことに満足はしているらしい。汗だくのまま扇風機の前でうにゃうにゃ転がっている。
「ちびちゃ、おとこのこだといいな」
「そうなのか」
「そしたら、いーしゃんにしっぽふたつにしてもらえるもん」
そういえばそんな話をしたな。二十年以上生きた猫はしっぽが二つに分かれ、猫又になる、と。そうすればちびすけともっと長く一緒に過ごすことが出来る。
驚くことにちびすけもそれを望んでいるようだし、宗像に行けばそれが叶うかもしれない。しかし、そもそも猫は環境の変化に敏感だ。いきなり宗像に連れて行ってストレスにならないだろうか。
「んにゃーん」
「あ! ちびちゃ!」
「ふにゃ」
そんな、おみの願いが聞こえたのだろうか。それまでずっと隠れていたちびすけがヒョコリと顔を出した。とてとて歩いて、そのままおみの顔に腰をおろす。
むぎゅ、と潰れた声が聞こえた。
「ちびちゃー……おみ、おふとんじゃないよ」
「にゃん」
「みえぇ……」
うーん、なんとも自由だ。
俺はもう何もしてやれない。頑張れ、おみ。
「むー、むむー!」
「おみ、ちびすけはまだ子供だし、そう焦らなくても猫又になる機会はあるよ」
「むー……あー!」
「あぁ!?」
慰めていた俺をよそに、おみは大きな声をあげて起き上がった。ちびすけは突然のことに固まっている。
そして、そのままちびすけを仰向けにし。
「ふん……ふんふん」
「にゃ。にゃう」
まじまじとちびすけを観察した後。
「りょーた! ちびちゃ、おとこのこ!」
「そ、そうか」
「おとこのこだー!」
一体何をどう見たのかは聞かないが、どうやらちびすけが男の子である証拠を見つけたらしい。短い手足をじたばたさせるちびすけを抱き抱え、おみは嬉しそうに部屋を走り回る。
なんだろう、ちびすけが少しかわいそうに見えてきた。
「ちびちゃのごはん、もっていかなきゃ!」
「それはいいけど、入るのか?」
「……りょーた、まだはいる?」
「はいはい。まだ入るよ」
やれやれ。どうにも俺はおみに甘いんだ。買い置きしているキャットフードをトランクに詰め、ついでにおいちさんにメッセージを送っておく。
子猫も一緒に行くので、寝床を一つ用意してください。それから子猫が食べても大丈夫なものをいくつか。
「宗像三女神になんてことを頼んでいるだ、俺は……」
そんなわけで、新たに旅の仲間が加わった。
ますます賑やかになるであろうこの旅が、どこか輝かしいものに思えた。
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