106 / 112
幼女 ※高齢者の事故死表現あり
しおりを挟む
私は、町内会の清掃作業をしていた。
「ねえねえ、旦那さんは来てないの?」
声を掛けてきたのは、5,6歳くらいの幼女。清掃作業は基本的に大人が参加する行事だが、1人で留守番出来ない年齢の子供を一緒に連れて来て、参加する事も珍しくない。私は返事した。
「うん。お仕事だから」
「そうなんだ。大変だね」
幼女はしゃがんで頬杖をつきながら、私の作業を見ている。
「あなたのお父さんとお母さんは?」
私が尋ねると、幼女は答えた。
「いない。1人で来た」
幼女は興味深そうに私の後ろをついて歩く。周りの大人達は、親子で参加しているとでも思っているのか、誰も気にしていない様子だ。私は言った。
「何歳なの?」
「あたし? 5歳」
「へえ、うちの子と一緒だ」
「5歳の子、居るの? あたしとおんなじだ! ね、これが終わったら遊びに行っていい?」
「え? お父さんお母さんにちゃんと訊いてからにしてね」
幼女は話を聞いているのかいないのか、私が言い終わる前にどこかへ駆けだして行った。
その日の昼頃。食事を作っていると、何者かが玄関のチャイムを鳴らした。インターホンのカメラには、80代くらいの背中を丸めた見知らぬ老女が映っていた。
「はい、どちら様ですか?」
(近所にこんな人居たっけ?)
首を傾げつつインターホン越しに返事すると、老女は意味不明な事を言った。
『ねえ、川に行こうよ』
「え?」
『川だよ、川』
「何ですか?」
『だから、川で遊ぼうって言ってるの!』
老女に覚えはなく会話も不成立、私は思わず黙り込んでしまった。老女は怒ったのか、肩を震わせ喚いた。
『噓つき!!』
老女は踵を返し、我が家を後にした。
数日後。隣人にこんな話をされた。
「そう言えばウスタさん、お亡くなりになったそうですよ」
「ウスタさん…? どこのお家の方でしたっけ」
「隣の班の人で、あそこの黒い屋根の平屋の人です。こないだの清掃の時、神地さんに絡んでた人ですよ」
私は眉根を寄せた。
(え、あの小さな子?まだ5歳なのに…)
「あら、そうだったんですか…」
「ええ、2丁目にある水路に落ちて、溺れたとか。まあ、あんな感じでずっと徘徊してた人だったから…」
「徘徊?」
私は耳を疑った。
「だいぶ前から、認知症だったんですよ」
とうの昔に両親は居なくなり、遊び相手を探していた5歳のあの子。川遊びに誘ったのに断られ、独り溺れてしまった。
(誰からも、気にかけて貰えなかったのか)
私は、主の無い家を眺めた。
「ねえねえ、旦那さんは来てないの?」
声を掛けてきたのは、5,6歳くらいの幼女。清掃作業は基本的に大人が参加する行事だが、1人で留守番出来ない年齢の子供を一緒に連れて来て、参加する事も珍しくない。私は返事した。
「うん。お仕事だから」
「そうなんだ。大変だね」
幼女はしゃがんで頬杖をつきながら、私の作業を見ている。
「あなたのお父さんとお母さんは?」
私が尋ねると、幼女は答えた。
「いない。1人で来た」
幼女は興味深そうに私の後ろをついて歩く。周りの大人達は、親子で参加しているとでも思っているのか、誰も気にしていない様子だ。私は言った。
「何歳なの?」
「あたし? 5歳」
「へえ、うちの子と一緒だ」
「5歳の子、居るの? あたしとおんなじだ! ね、これが終わったら遊びに行っていい?」
「え? お父さんお母さんにちゃんと訊いてからにしてね」
幼女は話を聞いているのかいないのか、私が言い終わる前にどこかへ駆けだして行った。
その日の昼頃。食事を作っていると、何者かが玄関のチャイムを鳴らした。インターホンのカメラには、80代くらいの背中を丸めた見知らぬ老女が映っていた。
「はい、どちら様ですか?」
(近所にこんな人居たっけ?)
首を傾げつつインターホン越しに返事すると、老女は意味不明な事を言った。
『ねえ、川に行こうよ』
「え?」
『川だよ、川』
「何ですか?」
『だから、川で遊ぼうって言ってるの!』
老女に覚えはなく会話も不成立、私は思わず黙り込んでしまった。老女は怒ったのか、肩を震わせ喚いた。
『噓つき!!』
老女は踵を返し、我が家を後にした。
数日後。隣人にこんな話をされた。
「そう言えばウスタさん、お亡くなりになったそうですよ」
「ウスタさん…? どこのお家の方でしたっけ」
「隣の班の人で、あそこの黒い屋根の平屋の人です。こないだの清掃の時、神地さんに絡んでた人ですよ」
私は眉根を寄せた。
(え、あの小さな子?まだ5歳なのに…)
「あら、そうだったんですか…」
「ええ、2丁目にある水路に落ちて、溺れたとか。まあ、あんな感じでずっと徘徊してた人だったから…」
「徘徊?」
私は耳を疑った。
「だいぶ前から、認知症だったんですよ」
とうの昔に両親は居なくなり、遊び相手を探していた5歳のあの子。川遊びに誘ったのに断られ、独り溺れてしまった。
(誰からも、気にかけて貰えなかったのか)
私は、主の無い家を眺めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる