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【番外】騎士と騏驥の旅(1)
しおりを挟むざく、ざくと重たい蹄が地を踏む音が辺りに響く。
剥き出しの土に、木の根がボコボコと波打つ荒れた山道だが、ルーランの足取りは相変わらず確かで安定している。乗っていて、全く不安がない。
ただでさえ陽も落ちて薄暗い上、木々が生い茂っているため見通しも決して良くはないし、ときおり、道にまで伸び出してきている枝が顔を掠めそうになるが、二つほど灯している発光石のおかげで避けることができて、葉先に頬を叩かれることもない。
もっとも——騏驥は夜目が利く上に真後ろ以外は全て見えるから、乗っている者に配慮するならそんな道はそもそも通らないものなのだが……。
(……)
要はわざとなのだ。
リィは、また頬を掠めそうになった葉をよけながら、鞍下の性格の悪い騏驥に向けて無言で渋顔を作る。
こんな風に騎士に対して無用な挑発をする気性の悪さだから、その能力の高さにも関わらず、どの騎士もみな自分の騏驥にしようとはしなかったのだ。
最高で最悪の騏驥と名高い、この世で唯一の三つ輪の騏驥。
狂悦の緑。
そんなルーランは、リィの反応を楽しむように軽く身震いする。
直後、
<なぁ、腹へったんだけど>
手綱を通して、彼の声が伝わってきた。リィが無視していると、
<なあってば>
声はさらに続く。リィは溜息をつくと、仕方なく応じる。
このまま無視していたいが、そうするとますます喧しくなることは経験済みだ。
「お前のそれはさっきから何度目だ? もう少し我慢しろ。野営できそうなところに着いてからだ。お前も腹が減っているなら、つまらない悪戯をしていないで、安全に休めそうな場所を積極的に探す手伝いをしろ」
<……面倒だろ。だからさっきの街で宿屋に泊ればよかったんだ>
「…………」
<騎士なんだから、どんなに混み合ってたって優先されるはずだろ。なのに祭りを見に来た親子に部屋を譲るなんて……あんたってホントどうかしてるよな。丸一日あちこち行って疲れてるくせに>
無視する。このやりとりはもう何度もしているからだ。
するとすかさず、
<泊まればよかったのになー>
と、再び不満も露わな声がした。人の姿であったなら、きっと唇を尖らせて言っているに違いない声が。
◇
今日——正確には一昨日前から、リィがルーランを伴って王都を離れているのは、休暇を利用して行方のわからなくなっている父親を捜すためだった。
従えていた牝の騏驥と——「始祖の血を引く騏驥」と前後するようにして失踪してから、どのくらい経つだろう。
リィはもう何年も、こうして折りに触れては国のあちこちを訪れていた。些細なものであっても、父らしき人物がいたという噂を耳にすれば「もしかして」と期待して。
大抵は空振りで(今回もそうだった)とぼとぼと戻ることになるのだが、それでも行かずにはいられなかった。
何か少しだけでも手がかりが得られるかもしれないと——淡い期待を抱くことを止められなくて。
そしてこの捜索にルーランを伴ったのは、彼がリィの騏驥であり、遠方まで移動するには騏驥が一番速くて便利だからという事実もあるのだが、他の騏驥には乗りづらいという面もある。
騎士が望めばほとんどどんな騏驥にも乗れるが、父を探すという全くの私用——しかも騏驥が関わる不名誉な噂の付き纏っている父を探すことで、そこらの騏驥を使うことは気が引けたのだ。
きっと調教師も嫌がるだろう、と思って。
そうは言っても、過去にルーランに乗って遠出をして、散々な目にあったことは数限りないほどだったから迷いもしたのだが……。特別な関係になってからは、こちらの指示もいくらか素直に聞くようになっていたから「彼も成長したのだな」と思っていた。のに。
(まったく……)
まだぶうぶうと宿に泊まらなかった文句を言い続けているルーランに苦笑しつつ、リィはあたりを確認すると、少し道を逸れ、森の奥の方へと彼を促す。
騎士学校で学んだことと過去の経験からして、この木々の様子なら奥へ行けば今夜の野営地にできそうな場所がありそうな気がしたのだ。
遠征に出かけることも多い騎士だから、一応は「どこでも眠れる」ように訓練しているが、ゆっくりと身体を休められそうなところがあればそれに越したことはない。
だから確かにルーランの言う通り、宿で休むのが正解なのだろう。
この国では、騎士ならばほぼ間違いなくいつでもどこでも誰よりも優先されて宿と食事を確保できる。騏驥を連れていればなおさらだ。
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