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【番外】騎士と騏驥の旅(2)
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国の宝である騏驥とそれに騎乗する騎士を泊めるとなれば、宿にとっても名誉なことで、公用時はもちろん私用の時でも、優先どころではなくどこへ行っても厚遇されるのが普通だった。
だからリィも、本来はそのつもりでいたのだ。
特別な扱いを受けたいとまでは思っていないが、疲れた身体を宿でゆっくり休めるつもりだった。
ただ。
そのつもりでの帰り道。立ち寄った街は祭りの最中で宿も道も人で溢れかえっていた。
だから、泊まるとなれば他の客を追い出してしまうことになりそうで……。リィは宿屋の主人がそうしようとしているのを知って、断ったのだ。
『別に用事があるのを忘れていた。だから泊まれなくなった』と理由を作って。
しかしルーランはといえばすっかり泊まる気になっていたから、みるみる不機嫌になった。
リィが林檎と角砂糖で上手く彼の気を逸さなかったなら、抵抗の意思を示すために馬の姿のまま道に転がりさえしただろう。
(これは我ながら上手くやった、とリィは思っている。連れていた騏驥が街中で暴れたなどと報告されたら始末書程度では済まない)
だが、初めて祭りの様子に目を輝かせている子どもと——二人の幼い兄弟だった——この祭りを見せたくてわざわざ遠方からやってきたと思しき両親を押しのけてまで、そこに泊まろうとは思わなかったのだ。
どうしても。
せっかくの家族団欒の幸せに水をさすような真似はしたくなくて。
(まあ、わたしはどこでも寝られるのだし……)
ルーランだって……。
そう思いながらルーランに揺られていると、ほどなく、予想していた通りに少しひらけた場所に出る。
ほっとした途端、
<星の見える本日の宿に到着>
ルーランが憂さ晴らしのように尻っ跳ねながら言った。
◇ ◇ ◇
「こっちはこれでよし——と。さてお次は……」
どこからか見つけて来た材料と持っていた発光石で手際よく角灯のようなものを作ると、次には周囲に警戒用の魔術石を手際よく配置する。それを終えると、今度はさくさくと寝床を作り始める。
しかも鍋から漂ってくるのは、携帯食を使っているとは思えない程の美味しそうな香りだ。
先刻、ルーランが発火石で火を起こして煮炊きし始めたのだった。
「お前……どうしたんだ、急に」
鍋の側。草地に重ねた布が敷かれた上に座っているリィは、ルーランの無駄のない動きに目を丸くしつつ尋ねる。
野宿なんかイヤだと散々文句を言っていた彼なのに、いざそうなってみれば打って変わったかのように働き者だ。
(ひょっとして何か企んでないか……?)
戸惑うと同時に警戒してしまう。
ついじっと見つめてしまっていると、
「どうもこうも。ここまで来たら仕方ないだろ。だったらせめて快適に——ってね。ああ、あんたはいいから座ってろよ」
ルーランはこともなげに言い、どころか、鍋の中の汁物が、とぷん、と音を立てて跳ねたのをなんとかしようと腰を浮かせかけたリィを制すると、素早く火加減を調節してしまう。
完璧な”騎士に仕える騏驥”ぶりだ。
つまり”良い騏驥”。
——彼には最も似合わない肩書きだ。
「……いったい……なんなんだ」
調子が狂う。
彼は本当にルーランなのか?
「なんだか……別人のようだな」
ポツリと独りごちるように言うと、聞きつけたルーランが微かに苦笑した。
「そんなわけないだろ。出かける時からずっと一緒だったのに」
「それはそうだが……」
そういう意味ではない。
ずっと一緒だったけれど別人のようだから落ち着かないのだ。
しかも——。そんなふうに思うのは、そんなふうに感じるのは、今が初めてじゃない。
いつからだろう。
知っているはずの彼のふとした仕草や声音に微かな引っ掛かりのようなものを覚えるようになったのは。
元々ルーランはムラっ気があって気分屋で、意見なんてコロコロ変わる騏驥だった。その時その時のしたいようにやる我儘さで、だから扱い辛い騏驥だった。
だから、たまに感じていた引っ掛かりも、そうした我儘が現れた一つなのだろうと——気のせいだと思っていたけれど……。
けれどなんとなくそれだけではない気もするのだ。
(まるで彼の中にいろいろな彼がいるような……)
想像した直後、リィはあまりの馬鹿馬鹿しさに苦笑して頭を振る。
うっかり口にしなくてよかった。ルーランに聞かれたら大笑いされていただろう。騏驥は耳がいいから注意が必要なのだ。
だからリィも、本来はそのつもりでいたのだ。
特別な扱いを受けたいとまでは思っていないが、疲れた身体を宿でゆっくり休めるつもりだった。
ただ。
そのつもりでの帰り道。立ち寄った街は祭りの最中で宿も道も人で溢れかえっていた。
だから、泊まるとなれば他の客を追い出してしまうことになりそうで……。リィは宿屋の主人がそうしようとしているのを知って、断ったのだ。
『別に用事があるのを忘れていた。だから泊まれなくなった』と理由を作って。
しかしルーランはといえばすっかり泊まる気になっていたから、みるみる不機嫌になった。
リィが林檎と角砂糖で上手く彼の気を逸さなかったなら、抵抗の意思を示すために馬の姿のまま道に転がりさえしただろう。
(これは我ながら上手くやった、とリィは思っている。連れていた騏驥が街中で暴れたなどと報告されたら始末書程度では済まない)
だが、初めて祭りの様子に目を輝かせている子どもと——二人の幼い兄弟だった——この祭りを見せたくてわざわざ遠方からやってきたと思しき両親を押しのけてまで、そこに泊まろうとは思わなかったのだ。
どうしても。
せっかくの家族団欒の幸せに水をさすような真似はしたくなくて。
(まあ、わたしはどこでも寝られるのだし……)
ルーランだって……。
そう思いながらルーランに揺られていると、ほどなく、予想していた通りに少しひらけた場所に出る。
ほっとした途端、
<星の見える本日の宿に到着>
ルーランが憂さ晴らしのように尻っ跳ねながら言った。
◇ ◇ ◇
「こっちはこれでよし——と。さてお次は……」
どこからか見つけて来た材料と持っていた発光石で手際よく角灯のようなものを作ると、次には周囲に警戒用の魔術石を手際よく配置する。それを終えると、今度はさくさくと寝床を作り始める。
しかも鍋から漂ってくるのは、携帯食を使っているとは思えない程の美味しそうな香りだ。
先刻、ルーランが発火石で火を起こして煮炊きし始めたのだった。
「お前……どうしたんだ、急に」
鍋の側。草地に重ねた布が敷かれた上に座っているリィは、ルーランの無駄のない動きに目を丸くしつつ尋ねる。
野宿なんかイヤだと散々文句を言っていた彼なのに、いざそうなってみれば打って変わったかのように働き者だ。
(ひょっとして何か企んでないか……?)
戸惑うと同時に警戒してしまう。
ついじっと見つめてしまっていると、
「どうもこうも。ここまで来たら仕方ないだろ。だったらせめて快適に——ってね。ああ、あんたはいいから座ってろよ」
ルーランはこともなげに言い、どころか、鍋の中の汁物が、とぷん、と音を立てて跳ねたのをなんとかしようと腰を浮かせかけたリィを制すると、素早く火加減を調節してしまう。
完璧な”騎士に仕える騏驥”ぶりだ。
つまり”良い騏驥”。
——彼には最も似合わない肩書きだ。
「……いったい……なんなんだ」
調子が狂う。
彼は本当にルーランなのか?
「なんだか……別人のようだな」
ポツリと独りごちるように言うと、聞きつけたルーランが微かに苦笑した。
「そんなわけないだろ。出かける時からずっと一緒だったのに」
「それはそうだが……」
そういう意味ではない。
ずっと一緒だったけれど別人のようだから落ち着かないのだ。
しかも——。そんなふうに思うのは、そんなふうに感じるのは、今が初めてじゃない。
いつからだろう。
知っているはずの彼のふとした仕草や声音に微かな引っ掛かりのようなものを覚えるようになったのは。
元々ルーランはムラっ気があって気分屋で、意見なんてコロコロ変わる騏驥だった。その時その時のしたいようにやる我儘さで、だから扱い辛い騏驥だった。
だから、たまに感じていた引っ掛かりも、そうした我儘が現れた一つなのだろうと——気のせいだと思っていたけれど……。
けれどなんとなくそれだけではない気もするのだ。
(まるで彼の中にいろいろな彼がいるような……)
想像した直後、リィはあまりの馬鹿馬鹿しさに苦笑して頭を振る。
うっかり口にしなくてよかった。ルーランに聞かれたら大笑いされていただろう。騏驥は耳がいいから注意が必要なのだ。
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