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第1巻 犬耳美少女の誘拐
断章1
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「また会ったね、アレクシア」
オーウェン達一行が地下迷宮に到着した頃、ある酒場にひとりのシンエルフが現れた。
最近もその勢いを加速させている勇者パーティー、【聖剣】のリーダー、ウィルだ。
さっぱりとした明るい金髪に、太陽のような紅の瞳。
エルフといえばの尖った耳も健在だ。
ウィルの種族はシンエルフ。
普通のエルフと異なるのは、その小さな体格と、高い身体能力。その代わり寿命は300年ほどと、さほど長くはない。
135CMの小さな体には、次元の違う戦闘技術や知性、パワーが詰まっている。
「わたくしを呼び出すとは、どういう風の吹き回しでしょう?」
おしとやかな温かい声で、ウィルと同じハイエルフの女が聞いた。
「少し確認したいことがあってね」
「それは……先日の告白の件でしょうか?」
「いいや、神託の予言について話したい」
ハイエルフの女がうつむく。
彼女の名前はアレクシアといった。
高潔なシンエルフの元貴族で、実家を飛び出し、ひとりでアレクサンドリアまで辿り着いた。
長い金髪はポニーテールにしている。
「それで、なんでしょう? わたくしとしては、つい先日フラれた殿方と話すことが、辛くてしかたないのです。責任を取っていただかないと」
前にも言ったはずだよ、とウィルが話し出す。
「僕には魔王討伐という目的がある。それを達成するまで、恋愛はできない」
「そうですか」
それからすぐ、アレクシアが酒を注文した。
隣に座るシンエルフの男は、曇りのないまっすぐな目で、魔王討伐という目標を見据えている。
逆に言うと、それしか見えていなかった。ウィルの中で、魔王に対する執着が大きく、異性との恋愛に関してまったく感心を示さない。
アレクシアはムッとした。
表情に出すわけでもない。心の底からウィルを軽蔑すると同時に、目標に向かって一途に突き進むウィルを尊敬し、応援していた。
「あなたのパーティーの仲間は、十分に信頼に足る人物だとお思いですか?」
「僕は彼らを信じてるよ」
アレクシアの意味深な質問に、迷うことなく応えるウィル。
【聖剣】のリーダーとしての仲間への信頼が見て取れた。
「感動的ですね」
皮肉っぽく呟くアレクシア。
その幼い童顔で、冷酷な表情を見事に作り出している。
「キミは神託の予言に詳しいんだったよね。それなら昨日僕達が受けた神託のお告げも知っていたりするのかい?」
「ええ、存じ上げております。その確信があったからこそ、わたくしをここにお呼び出しになったのでしょう?」
「確信とまではいかないかな。予言のことで頼れる友人は少ないからね」
ウィルはアレクシアの様子を伺いながら、慎重に話している。
「あなたの勇者パーティーの中に、裏切り者がいる、ということでしたね」
アレクシアは決め手を打った。
彼女は知っていたのだ。昨日神託が告げた、パーティーの命運を左右する予言の内容を。
「そう、その予言のことだよ」
「もしあなたが『この予言の示す事実は本当なのか』と聞けば、わたくしは迷わずそうと応えるでしょう」
「つまり、僕のパーティーには裏切り者が確実に存在する、そういうことだね?」
「賢いあなたなら、そんなことをいちいち聞かずとも理解できていたのではありませんか?」
鋭い目でウィルを見つめる小さきハイエルフの女。
妖精のように軽く微笑みながら、この状況を楽しんでいる。
アレクシアはウィルのことが好きだった。
ウィルを愛している、どころか彼に深く心酔していたのだ。ウィルという輝かしいシンエルフの希望が、どれだけ彼女を励ましてきたか。
アレクシアはウィルの全ての表情が見たかった。
普段の余裕と自信に満ちた表情だけでなく、悩んだり困ったりして、変に歪めているような表情も見たかった。
そんなウィルの顔を想像しただけで、興奮してよだれが止まらなくなる。
心がとろけ、体の感度が上がり、頭のなかがウィルでいっぱいになるあの感覚。
(……ああ、ウィル様……わたくしはどんな姿のあなたでも愛し続けます……)
今のアレクシアは、ウィルの困っている表情が見たくて仕方なかった。
「確かに神託の予言は絶対なのかもしれないね。それでも、僕はその予言になんとしてでも抗いたい。大切な仲間と勇者パーティーを守りたい、そう思ってる」
「素敵ですね」
「キミは神託に詳しいだけじゃない、違うかい? キミ自身も神アポロンからの祝福を受け、生きる予言者として存在している」
ウィルが酒を一杯飲み終わった。
随分と早い時間の酒にはなったが、目の前に酒が用意されるとついつい飲みたくなってしまう。
それに、この酒場【月光】は昨日の打ち上げでもお世話になった行きつけの店だ。
ウィルとしては、できるものなら売上に貢献したいと思っていた。
「ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
どこか楽しそうなアレクシアの質問に、ウィルが慎重に頷く。
「ウィル様は、裏切り者が誰であるとお考えですか?」
かなり踏み切った質問だ。
しかし、話の流れからして当然の流れでもある。
裏切り者がいる、ということが事実だとなった以上、今度はそれが、誰なのか、ということにスポットライトが当たるのだ。
「僕は前から裏切り者の正体に気づいていたよ」
ウィルの瞳の輝きが、ほんの一瞬だけ消え失せた。
オーウェン達一行が地下迷宮に到着した頃、ある酒場にひとりのシンエルフが現れた。
最近もその勢いを加速させている勇者パーティー、【聖剣】のリーダー、ウィルだ。
さっぱりとした明るい金髪に、太陽のような紅の瞳。
エルフといえばの尖った耳も健在だ。
ウィルの種族はシンエルフ。
普通のエルフと異なるのは、その小さな体格と、高い身体能力。その代わり寿命は300年ほどと、さほど長くはない。
135CMの小さな体には、次元の違う戦闘技術や知性、パワーが詰まっている。
「わたくしを呼び出すとは、どういう風の吹き回しでしょう?」
おしとやかな温かい声で、ウィルと同じハイエルフの女が聞いた。
「少し確認したいことがあってね」
「それは……先日の告白の件でしょうか?」
「いいや、神託の予言について話したい」
ハイエルフの女がうつむく。
彼女の名前はアレクシアといった。
高潔なシンエルフの元貴族で、実家を飛び出し、ひとりでアレクサンドリアまで辿り着いた。
長い金髪はポニーテールにしている。
「それで、なんでしょう? わたくしとしては、つい先日フラれた殿方と話すことが、辛くてしかたないのです。責任を取っていただかないと」
前にも言ったはずだよ、とウィルが話し出す。
「僕には魔王討伐という目的がある。それを達成するまで、恋愛はできない」
「そうですか」
それからすぐ、アレクシアが酒を注文した。
隣に座るシンエルフの男は、曇りのないまっすぐな目で、魔王討伐という目標を見据えている。
逆に言うと、それしか見えていなかった。ウィルの中で、魔王に対する執着が大きく、異性との恋愛に関してまったく感心を示さない。
アレクシアはムッとした。
表情に出すわけでもない。心の底からウィルを軽蔑すると同時に、目標に向かって一途に突き進むウィルを尊敬し、応援していた。
「あなたのパーティーの仲間は、十分に信頼に足る人物だとお思いですか?」
「僕は彼らを信じてるよ」
アレクシアの意味深な質問に、迷うことなく応えるウィル。
【聖剣】のリーダーとしての仲間への信頼が見て取れた。
「感動的ですね」
皮肉っぽく呟くアレクシア。
その幼い童顔で、冷酷な表情を見事に作り出している。
「キミは神託の予言に詳しいんだったよね。それなら昨日僕達が受けた神託のお告げも知っていたりするのかい?」
「ええ、存じ上げております。その確信があったからこそ、わたくしをここにお呼び出しになったのでしょう?」
「確信とまではいかないかな。予言のことで頼れる友人は少ないからね」
ウィルはアレクシアの様子を伺いながら、慎重に話している。
「あなたの勇者パーティーの中に、裏切り者がいる、ということでしたね」
アレクシアは決め手を打った。
彼女は知っていたのだ。昨日神託が告げた、パーティーの命運を左右する予言の内容を。
「そう、その予言のことだよ」
「もしあなたが『この予言の示す事実は本当なのか』と聞けば、わたくしは迷わずそうと応えるでしょう」
「つまり、僕のパーティーには裏切り者が確実に存在する、そういうことだね?」
「賢いあなたなら、そんなことをいちいち聞かずとも理解できていたのではありませんか?」
鋭い目でウィルを見つめる小さきハイエルフの女。
妖精のように軽く微笑みながら、この状況を楽しんでいる。
アレクシアはウィルのことが好きだった。
ウィルを愛している、どころか彼に深く心酔していたのだ。ウィルという輝かしいシンエルフの希望が、どれだけ彼女を励ましてきたか。
アレクシアはウィルの全ての表情が見たかった。
普段の余裕と自信に満ちた表情だけでなく、悩んだり困ったりして、変に歪めているような表情も見たかった。
そんなウィルの顔を想像しただけで、興奮してよだれが止まらなくなる。
心がとろけ、体の感度が上がり、頭のなかがウィルでいっぱいになるあの感覚。
(……ああ、ウィル様……わたくしはどんな姿のあなたでも愛し続けます……)
今のアレクシアは、ウィルの困っている表情が見たくて仕方なかった。
「確かに神託の予言は絶対なのかもしれないね。それでも、僕はその予言になんとしてでも抗いたい。大切な仲間と勇者パーティーを守りたい、そう思ってる」
「素敵ですね」
「キミは神託に詳しいだけじゃない、違うかい? キミ自身も神アポロンからの祝福を受け、生きる予言者として存在している」
ウィルが酒を一杯飲み終わった。
随分と早い時間の酒にはなったが、目の前に酒が用意されるとついつい飲みたくなってしまう。
それに、この酒場【月光】は昨日の打ち上げでもお世話になった行きつけの店だ。
ウィルとしては、できるものなら売上に貢献したいと思っていた。
「ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
どこか楽しそうなアレクシアの質問に、ウィルが慎重に頷く。
「ウィル様は、裏切り者が誰であるとお考えですか?」
かなり踏み切った質問だ。
しかし、話の流れからして当然の流れでもある。
裏切り者がいる、ということが事実だとなった以上、今度はそれが、誰なのか、ということにスポットライトが当たるのだ。
「僕は前から裏切り者の正体に気づいていたよ」
ウィルの瞳の輝きが、ほんの一瞬だけ消え失せた。
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