【完結】勇者パーティーの裏切り者

エース皇命

文字の大きさ
21 / 29
第1巻 犬耳美少女の誘拐

断章4

しおりを挟む
 クロエははっきりと確認した。

 同年代の人間ヒューマンのメイドが、オーウェンの部屋に入っていくところを。
 これで目撃するのは何度目だろうか。
 もう5回は見たような光景に、焦り、ソワソワする。

 クロエ自身、この感情の正体が何なのかはわからない。
 ただ、それを見た後には強烈に落ち込み、安心して眠ることができないことだけは確実だ。

(今日こそ……ふたりで何してるのか確かめないと――)

 頬を膨らませ、音を立てないよう慎重に扉に近づく。

 あのメイドおんなは部屋の中に入る際、念入りに周囲の目を気にしていたようだが、人間ヒューマンの感覚には限界がある。その分、獣人であるクロエはバレずに接近できているというわけだ。
 自分のしていることに羞恥心を覚えながらも、これは大事なことなんだ、と自分を奮い立たせる。

『オーウェン様♡』

(えぇぇぇぇ!!!)

 なんだか愛らしくオーウェンの名を呼ぶ声を壁越しに聞き、内心で叫ぶ。

『最近は忙しそうで、私、ずぅっと我慢してたんです。オーウェン様が言うように、周囲にこの関係がバレると困りますから……でも、でもでも……夕食の席にも現れないオーウェン様を想うと、気持ちが抑えられなくなって……』

「こ、この関係……!」

 ということはもう付き合っている・・・・・・・ということなのか。
 
 クロエの頭の中で、そんな言葉が反芻する。
 時は既に遅かった。
 もうオーウェンには妻がいたのだ。愛し愛される関係で結ばれた、伴侶という存在が。

 つい大きめの声を出してしまったが、クロエを気にする様子もない。なんとかバレずに済んだのだろうか。

『少し考え事をしてただけだから、後で夕食はちゃんと食べるよ』

『そうだったんですね。でもよかったです。こうしてオーウェン様と同じ空気を共有できて』

『え……』

『なんでもありません♡ ところで、今夜はどうなさいますか?』

(こ、今夜……!?)

 気づけば走り出していた。
 廊下を逃げるように駆け、ひとつ階が上の自室へ向かう。途中でヴィーナスとすれ違い声を掛けられそうになったが、様子がおかしいことを悟ったのか絶世の美女ヴィーナスは開きかけていた口を閉じた。



 ***



 オーウェンの部屋ではまだ会話が続いている。

「もう行ったか」

 クロエの逃走を引き起こした原因である男、オーウェンが呟いた。
 淡々と、無表情のままルーナを見る。

「上出来だった」

 濃い紫の瞳には満足の色が浮かんでいる。

「オーウェン様、クロエあの子を嫉妬させて、何がしたいんですか?」

 少しむっとした顔で、腰に手を当てて聞くルーナ。
 あの発言も、全てはオーウェンの指示通りに曖昧に表現しただけだ。

 だが、彼女のオーウェンへの熱は本当だった。妹の命を救ってくれたあの日から――いや、もうその前から好きになっていたのかもしれない。必死な頼みを受け入れ、自分を助けると約束してくれたその瞬間から。

 オーウェンの近くにいることが、自分の幸せに直結する。
 ルーナはもうオーウェンのものだった。完全に心酔していた。頭の中はオーウェンへの愛、信頼、想い……全てはオーウェン様のために、その気持ちが彼女をどこまでも突き動かす。

「クロエはどうしても手に入れなければならない」

 オーウェンの声が胸に響く。
 
 並々ならぬ決意がそこにはあった。
 クロエに個人的に熱を上げているというわけではなく、あくまで自分の最大の目的のために必要な仲間こま。たとえ周囲を都合のいいように利用したとしても、目的は達成させる。瞳の奥で蠢《うごめ》く闇。

 ルーナはオーウェンの本当の目的こそ知らないが、遥か遠くの理想を追いかける彼の姿に心奪われた。

「私だけを見ていて欲しい気もしますけど……オーウェン様が望むことなら、もうそれは私の望みですから」

「ありがとう、ルーナ」

 オーウェンがルーナの頭に優しく手を置く。

(頭ポンポン――ッ!)

 熱が一気に上がり、蒸気が頭上から出ているような錯覚に陥る。
 ルーナの心臓は激しく鼓動していた。

「ルーナは確か俺がパーティーに入る前からメイドなんだっけ?」

 急にオーウェンが聞く。

「は、はい。アル様とハル様が加入されたあたりの頃かと」

「そうか。それじゃあ、メンバーみんなのことは信じてる?」

「はい勿論です。私聞きました、裏切り者がいると神託のお告げがあったこと。ですが、私には到底信じられません」

 その言葉を聞き、オーウェンが沈黙を作った。
 ルーナの発言は本心から出たものであると、彼は確信した。

「ルーナのことは信頼・・してる。今から俺が言うことはあくまでウィルの憶測になるけど、それでもいいか?」

「は……はい」

 真剣な眼差しにドキッとしながらも、ルーナはその可愛らしい前髪を上下に揺らした。

 オーウェンは信じている。
 完全に自分に心酔し切ってしまったルーナは、もう自分の支配下にある。命令は忠実に守り、どんな時でも味方でいてくれる、と。

 そして彼の口から、ついさっき知ったばかりの、裏切り者の正体・・・・・・・が明かされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...