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許されない二人
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しおりを挟む当然のことながら引っ越しの荷物は少なかった。
家電も家具もmasaさんと決めたし、あっさりとお礼を行って拓也に鍵を返した。
「仕事の時は今まで通りにしてほしい」という我儘を最後に突き通す。
隠してきた恋愛だからこそ、これからも隠し通したいもの。
はじめて恋にサヨナラを告げて、新たな生活をするアパートは6畳一間の決して広いとは言えないけれど、寮に比べれば贅沢すぎるくらいで、1人での生活ならば充分な広さだった。
シングルの布団で眠る夜が寂しいのは初日だけだと思い込むようにする。
一人暮らしが落ち着いた頃に、実家へと赴き通帳のお礼を言うと母は照れ臭そうにした。
「使いすぎないように結婚資金に残しておきな」と言ったが生憎、結婚相手はいないという事実に虚しくなる。
母は、今の私の年齢ではすでに姉を産んでいるというのに。
開店前の店内では、母が好きな洋楽が流れる。
母の仕込みの手伝いをしながら、母が出した冷たく冷えたりんごジュースを飲む。
りんごジュースを少しずつ口に含んでは拓也のことを思い出す。
ここまでの経緯や、彼氏については母に言わぬようにとmasaさんに口止めをしてもらっていた。
きっと怒って拓也の実家に乗り込みに行きそうだったからだ。
(いつか、お母さんが喜んでくれそうな相手を紹介できるように頑張るね!)
その時、お店のドアが開く。
「こんちはーー。え?バイト雇ったの?」
と母に気さくに話しかける青年に「違うわよ。うちにそんな余裕あるわけないでしょ!
と母は返す。
彼は「だよねーー」と失礼な返答をした。
普通は否定するものなのに。
年は私とさほど変わらない、黒髪でパーマをかけていて拓也のように長身でスタイルがよく顔の整った男だった。くりっとした目は小動物のように愛らしいのに、目元のホクロと薄い唇と整った凛々しい眉が「雄」であることを再認識させる。
目が合えばそらすことができなくなる。
彼は、私服で、白のニットに黒のスキニーパンツを合わせておりそのシンプルながらも洗練されたファッションがよく似合う。
こちらに目を向けながら商店街のお知らせ回覧板を母に渡す。
拓也と違うのは、常にニコニコと笑顔で、母とすぐに世間話を始めるぐらいのコミュニケーション能力の高さだった。
(絵に描いたようなコミュニケーション能力高めのイケメン・・・こんな人がこの商店街にいるんだ・・・)
彼を見るつもりはないのだが、ふと目があって軽く会釈をする。
「はじめまして」
とどんな言葉をかけたら良いかわからず振り絞った一言に、母は目を見開いた。
「信雪くんだよ!忘れたの?小学校一緒だったでしょ?」
信雪くんと言う名前は強烈に覚えている。
彼は、確かに同じ小学校に通っていたが私の中の彼はもう少し体格がよくて、丸坊主でガキ大将。
クラスの中でいつも威張っていたし、いつも野球かサッカーをしているような活発な男の子だった。
彼は、現在は母が営むスナックの斜向かいの料亭を営んでいるお家で、その料亭はお祝い事や接待などで使用される隠れた名店で、この商店街の中でも別格のお店だった。
たまに、芸能人がきただの、政治家がきただのと自慢するこの男が大っ嫌いでいつもおいしいものを食べているから太っていると私は認識していた。我が家とは大違い。
私は1杯で我慢しなくてはならないリンゴジュースも、彼は何杯飲んでも良い。
そんな彼は、私がアイドルをやっていることを一番に冷やかしたのだ。
クラスの男子からは、振り付けや歌い方に声の出し方やポーズを真似されて、冷やかしにライブを見にきてはパンツ(見せパンだけど)が見えていただ。
気持ち悪いオタクがいただのを言われる。
それをうまくあしらえればよかったものの、当時小学生だった私にその術はなかった。
中学に入ってからは同じクラスにならなかったし、私自身も必要最低限の友達を作り、息を潜めて生活をしていたため彼と関わることがなかったし、アイドルの活動がハードすぎて気にしている暇もなかった。
高校は別々で、寮生活を初めていたため彼の存在は記憶の中から抹消されていた。
「先月まで、京都の旅館で修行していてこっちに帰ってきたのよね。」
と母は目を輝かせながら言う。もうすっかりファンのようだ。
若い女はもちろん、マダムたちが夢中になるような顔立ちをしている。
あの頃とはまるで持って別人だった。
「久しぶり。元気だった?」
とまるで何事もなかったかのように声をかけてきた信雪くんに腹が立った。
覚えているのは被害者だけで、当事者というのは忘れてしまっている。
初めての失恋で傷ついた心は、思い出したくもない嫌な記憶が加わると嘘でも笑顔を作ることは出来なくなった。
衝動的に、荷物を持って店を飛び出したかったが、その気持ちをぐっと堪える。
「うん。元気だったよ。」
変に明るい声でそう言って、わざとらしくスマホのディスプレイで時間を確認する。
「そろそろ帰らなくちゃ・・・」
誰もいない部屋に。門限もなければ夕飯を作る人もいないのに。
もし、あのまま拓也と付き合ってタワーマンションに住んでいたら信雪くんはびっくりした思うし、アイドルをやっていることを馬鹿にした過去を後悔するだろう。
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