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4話 パツキンボインねーちゃん
しおりを挟む私の新たな生活がスタートしてから一ヶ月くらい経過した。まず朝起きたら布団を片付けて、身支度を整えたら廊下に並んで点呼と朝礼を行い、そこから仕事が始まる。私が配属されたのは騎士団の非戦闘員部隊、通称奥様軍団。兵士さんの朝昼夕の食事を用意する食事班、シーツや服を洗って干して、各部屋まで届ける洗濯班、寮や騎士団本部の建物を隅々まで綺麗に掃除する掃除班にそれぞれ五人くらい振り当てられて、一週間ごとにローテーションで役割を交代しながらそれらを回す。
この異世界には魔法器具というものが存在しており、四大元素を司る水や火の妖精さんの特別な力が水道やガス台に宿ることで使えるようになる。蛇口を捻るだけで普通に綺麗な水が出るのはありがたい。料理するときもいちいち火を起こす必要はなく、ボタンを押すだけなので簡単だ。科学の代わりに魔法が発展した世界......うーん、ファンタジー。
でも洗濯機はないから、洗うときは外の水道にデカいタライを置いて一枚一枚手洗い、干したものが乾いたら畳んでネームタグのついた袋に入れて、それぞれの部屋まで届ける。全員の部屋を覚えるのには苦労した。
今週の私の担当は食事班だ。お昼のときはみんなが一斉に食堂で昼食を取るので戦場になる。この国の主食はだいたいパン、お米はあるにはあるが、パッサパサで固くてまずい、しかも臭い。おかずは豆か葉っぱか蒸したジャガイモっぽいイモ。たまに加工肉が届けられて、それを焼いたり、細かく切ってスープの中に入れたりする。お肉が出るのは当たりの日。新鮮な魚は食べられない、というかこの国で見たことがない。冷蔵庫がないから長期の保存がきかないのが原因だろう。買ってきた食材はその日のうちに消費するのが原則だ。氷と電気の妖精さんはいないらしい。
「またイモ......はぁー、新鮮なお刺身が食べたいなぁ」
「魚は海が近い所じゃないと、アスディア王国は陸続きだから仕方ないよ」
「川にも魚はいるよね?」
「無理無理、川魚なんて泥臭くって食べられたもんじゃないよ。それに運んでる途中で腐っちゃう」
大量の人だかりを捌き終えて、食器洗いを済ませたらやっと休憩時間。遅めの昼食をアイシャちゃんと一緒に取る。ポトフが余ったから二人の分だけ多めに大鍋からよそったのは他の人にはナイショ。
「あなたが新人さん?」
突然話しかけられたのは、金色の長髪を高い位置でまとめている軍服のボインねーちゃんだった。バッチリ上げたまつ毛。ギラギラしたアイシャドウ。口元には真紅のバラのような深い赤色のリップが塗られている。香水をつけているのか、花のような果実のような濃厚な香りが私の鼻腔をついた。
背が高くて、百七十センチくらいはありそう。胸元に付いているバラのマークの紋章は他の兵士さんより偉い証だ。私とアイシャちゃんは食事の手を止めて、彼女に向かって最敬礼をした。
「はい! そうであります!」
「そう縮こまらなくていいわ。一度ごあいさつしておきたかったの。お名前は? 年齢はいくつ?」
「サトミです、歳は十九です!」
「あらまぁ、お若いのね、羨ましいわ。私はマーガレット・ミュラー。同じ寮に住んでいるから、困ったことがあったらいつでも言ってちょうだいね」
「わ、わかりました」
「んもぅ、可愛い」
「んぶっ」
「バイバーイ」
パツキンボイン美女は私をギュッと抱きしめると、ひらひらと手を振って食堂から出て行った。なんか、キャラが濃い人だったな。
「マーガレットさんか……あれ? そういえばあの人軍服着てたけど、こっちの人じゃないの?」
「マーガレット様は七番隊の隊長だよ、すっごい強いんだ。そこらの男なんて相手にならないくらい」
「へぇー、そうなんだ」
ふたたび席に腰掛けて、アイシャちゃんと食事を再開する。あんまり見たことないけど、女性の兵士さんもいるってことだよね。美人で胸がデカくて、それで強いって……。神様って理不尽。
抱きしめられたときに感じた二つの柔らかな感触を思い出して、自分の控えめな胸を見つめる。別にマーガレットさんの乳が大きいのが羨ましいとかじゃないけど……いや、私は小さくない、平均くらいだ。あの人がデカすぎるだけだ。……谷間が欲しいなぁ、切実に。
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