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7話 愛と欲
しおりを挟む俺が副団長室から戻ると、サトミが慌てた様子で俺に紙袋を押し付けて小ネズミみたいに足早に隊長室から退散していった。中身はお菓子。俺が甘いものが好きだって言ったの覚えててくれたんだな。大事に食べよ。紙袋を机の上に置いて業務再開。
そういえば、なんかサトミの様子がおかしかった気がする。
「好きな子からプレゼントもらえてよかったな」
「まさかサトミに変なこと言ったんじゃないだろうな」
思ったことをすぐに口に出してしまうあいつのことだ。面白半分でからかったり、いじめたりしたんじゃないか。俺が問い詰めると、ヨハンは俺が部屋を空けていた間に起きた出来事を語り始めた。
「どうしてお前はいつも余計なことを......」
喉の奥から、獣の唸り声のような低い声が出た。サトミが傷ついてしまったかもしれない、落ち込んでしまったかもしれない。サトミに疑惑が向けられているのは事実かもしれないが、わざわざそれを本人に伝える必要はないはずだ。
「聞かれたから答えただけだ。裏切りは死罪。もし敵国からのスパイだったとしたら、女子どもでも容赦なく粛清する。それがウチの鉄の掟だ、わかってるだろ?」
「サトミは真面目で、頑張り屋で、ちょっと考えすぎちゃうこともあるけど......いい子なんだ。そんなことありえない」
「考えたくないの間違いだろ」
「っ!」
ヨハンの淡々とした口調に息が詰まる。まるで悪口を言われているみたいで、ふつふつと湧き上がる負の感情をどこに向けたらいいかわからなくて、唇を噛み締めて自分の太ももを強く叩いた。
「ルイスは今あの女のことしか頭にないだろ? だから周りが見えていない。自分にとって都合の悪い可能性を否定しようとする」
「だからって、サトミがスパイだって証拠はどこにもない」
「今のところはな」
「……もう、いい」
これ以上ヨハンと口を聞きたくない。彼が言っていることは全て正論だ。だけど俺にとっては十分耳が痛い話で。俺はふらふらと立ち上がると、サトミがくれたお菓子を持って、そのまま部屋から出て、あてもなく廊下を歩いた。
サトミが窮屈な思いをしているのは俺のせいか? じゃあどうすればよかったんだ。金と可愛い服を与えて、際限なく甘やかせば彼女は俺に懐いてくれたのか。俺のことを好きになってくれただろうか。家を借りられるだけの貯金はある。女一人養うくらいわけない。今すぐ俺も騎士団を辞めて、サトミと一緒に遠くで静かに暮らすんだ。誰も邪魔が入らない場所で。
……って、なんつー妄想してんだ、俺。
「みぎゃっ」
考えごとをしていたせいで、避けるのが間に合わなかった。廊下の角から出てきたサトミの顔面が俺の胸板あたりにぶつかると、その衝撃を受けて彼女が変な奇声をあげて鼻のあたりを抑えた。
「すまない。大丈夫か? 怪我はないか?」
「大丈夫です、こっちの不注意でもあるので。ルイス隊長」
「どうかしたか?」
「これもどうぞ。プレゼントの中に入れておくの忘れちゃって」
サトミが差し出したのは一枚のメッセージカードだった。アスディア語でルイスさん、ありがとう。と書かれている。俺のために勉強してくれたのかな、文字は決して上手いとはいえないが、サトミの感謝の気持ちが十分すぎるほど伝わってきた。
「こちらこそありがとう、大事にするよ」
心臓の奥がグッと熱くなる。抱きしめたい、キスしたい、あとほんの僅かで爆発しそうになる汚い欲望を理性で抑えつけて、彼女の肩に手を当てるだけにとどめた。
「えへへ」
子どもみたいに無邪気に笑って、サトミはまた俺の視界から消えていった。……好きだ、サトミ。俺は君を信じてる、だから君は俺のことを裏切らないでくれるよね?
......また明日も、俺の名前を呼んでくれるといいな。
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