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10話 尾行任務失敗
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今、副団長室で俺はヨハンと共にレオさんから長々とお説教を受けていた。理由は……。
「こうもあっさり尾行対象に気づかれるとはね」
「「申し訳ございませんでした」」
レオさんは額に手を当てて、もう何度目かもわからない怒りを通り越して呆れたようなため息をついた。先日サトミに与えられた休暇は新人恒例の儀式で、あえてひとりで外に放り出し、外部の人間との接触などの怪しい動きがないかどうか調べるためにこっそり尾行し、その様子を監視するというもの。ここで終始何も問題がなければ、一人での外出の自由や長期休暇の際の外泊許可など、さまざまな制限が取っ払われる。
本当は頼まれたのは俺一人だったが、俺がサトミにベタ惚れなことを知っているヨハンが、ルイスだけではもしなにかあったとしても情に絆されて見逃してしまうかもしれないと、ヨハンも見張りの見張りとして同行することになった。
が、結果は惨敗。一応変装はしていったのだが、辺りに遮蔽物がなかったせいで隠れることができず、頭も尻も完全に丸出しの状態でサトミに見つかった。そのあとは仲良く三人でお茶して帰ってきたもんだから、それを知ったレオさんは大層ご立腹なご様子。
「というかレオさん、俺たちじゃ顔が割れてますし、普通にバレちまいますよ」
「かといっておいそれと外様の人間に頼むこともできないでしょう。だから隊長格であるあなた方を指名したっていうのに……」
「副団長、サトミが入隊してからもう数ヶ月は経ちます。俺もできるだけ気にかけるようにしていますが、特にこれといった妙な動きはありません。彼女は白だと断定してもいいのでは?」
「甘い。だいたいあなたが彼女を連れてこなければこんなことにはならなかったんだ」
「ルイス、言ったはずだぜ。女は演技がうまい生き物だって」
ヨハンとレオさんに精神をチクチク攻撃されて、ブルーな気持ちで部屋の外へ出る。あーあ、もう昼休憩の時間から三時間も過ぎてるよ。
腹を空かせた俺は、フラリと食堂まで足を運んだ。ほかの客は誰もいないが、女子が厨房に集まってなんかしてる。
「ルイス隊長、昨日はありがとうございました」
「ああ、何か食べるものが欲しいんだが、もう閉めてしまったか?」
「大丈夫ですよ。いまご用意しますね」
俺に気づいたサトミがカウンター越しに振り返って、俺の前に蒸したイモと、その隣に深い小皿に乗った白っぽくてドロドロした何かを置いた。
「とりあえずこれをどうぞ、残りはあとからお持ちしますね。今日はスモークヴルスト(ソーセージ)が入ったので、それを焼いて……」
「待てサトミ。この白い液体はなんだ?」
「マヨです。卵黄と酢と油と塩を混ぜ合わせたもので、イモにつけてお召し上がりください。頭がぶっ飛ぶくらい美味しいですよ」
「マヨ、ね」
聞いたことない調味料だ。立ち食いで行儀が悪いと思いつつ、俺は恐る恐るフォークに突き刺したイモにそれをつけて口へ運ぶ……。なんだこれは、まろやかで、コクがあって、それと酸味がバランスよく口の中でハーモニーを奏でている。ケチャップともマスタードとも違う。イモなんて毎日のように食べているからとっくに飽きていたのに、これがあれば退屈な日々だって天国に思える。
「……美味い」
「すごいでしょう? サトミが開発したんですよ! 毎日同じ味じゃ飽きちゃうからって!」
「サトミはね、私たちが知らない料理や食べもののことたくさん知ってるんですよ!」
「ふふ、そんな。照れちゃうな」
アイシャとララが黄色い声を出しながら、サトミのことを褒め称えていた。それを聞いたサトミは恥ずかしそうにしたままガス台に立ってスープを温め直している。サトミ、友達できたんだ、よかった。
……俺はこんな風に誰かのために尽くせる彼女が裏切り者だとはどうしても思えないのだ。ヨハンやレオさんに言わせるならそれは甘い。らしいけど。恋は盲目という。もしかしたら俺は彼女のことが好きなあまり、大事なことを見落としているのかもしれない。
「ルイス隊長、パンは一つにしますか? 二つにしますか?」
「二つで、あとスープは大盛りにしてくれ」
「了解です」
まぁあれだ、サトミが作る飯はなんでも美味い。考えたくないことは考えなければいいだろう。とりあえず、今だけは。
「こうもあっさり尾行対象に気づかれるとはね」
「「申し訳ございませんでした」」
レオさんは額に手を当てて、もう何度目かもわからない怒りを通り越して呆れたようなため息をついた。先日サトミに与えられた休暇は新人恒例の儀式で、あえてひとりで外に放り出し、外部の人間との接触などの怪しい動きがないかどうか調べるためにこっそり尾行し、その様子を監視するというもの。ここで終始何も問題がなければ、一人での外出の自由や長期休暇の際の外泊許可など、さまざまな制限が取っ払われる。
本当は頼まれたのは俺一人だったが、俺がサトミにベタ惚れなことを知っているヨハンが、ルイスだけではもしなにかあったとしても情に絆されて見逃してしまうかもしれないと、ヨハンも見張りの見張りとして同行することになった。
が、結果は惨敗。一応変装はしていったのだが、辺りに遮蔽物がなかったせいで隠れることができず、頭も尻も完全に丸出しの状態でサトミに見つかった。そのあとは仲良く三人でお茶して帰ってきたもんだから、それを知ったレオさんは大層ご立腹なご様子。
「というかレオさん、俺たちじゃ顔が割れてますし、普通にバレちまいますよ」
「かといっておいそれと外様の人間に頼むこともできないでしょう。だから隊長格であるあなた方を指名したっていうのに……」
「副団長、サトミが入隊してからもう数ヶ月は経ちます。俺もできるだけ気にかけるようにしていますが、特にこれといった妙な動きはありません。彼女は白だと断定してもいいのでは?」
「甘い。だいたいあなたが彼女を連れてこなければこんなことにはならなかったんだ」
「ルイス、言ったはずだぜ。女は演技がうまい生き物だって」
ヨハンとレオさんに精神をチクチク攻撃されて、ブルーな気持ちで部屋の外へ出る。あーあ、もう昼休憩の時間から三時間も過ぎてるよ。
腹を空かせた俺は、フラリと食堂まで足を運んだ。ほかの客は誰もいないが、女子が厨房に集まってなんかしてる。
「ルイス隊長、昨日はありがとうございました」
「ああ、何か食べるものが欲しいんだが、もう閉めてしまったか?」
「大丈夫ですよ。いまご用意しますね」
俺に気づいたサトミがカウンター越しに振り返って、俺の前に蒸したイモと、その隣に深い小皿に乗った白っぽくてドロドロした何かを置いた。
「とりあえずこれをどうぞ、残りはあとからお持ちしますね。今日はスモークヴルスト(ソーセージ)が入ったので、それを焼いて……」
「待てサトミ。この白い液体はなんだ?」
「マヨです。卵黄と酢と油と塩を混ぜ合わせたもので、イモにつけてお召し上がりください。頭がぶっ飛ぶくらい美味しいですよ」
「マヨ、ね」
聞いたことない調味料だ。立ち食いで行儀が悪いと思いつつ、俺は恐る恐るフォークに突き刺したイモにそれをつけて口へ運ぶ……。なんだこれは、まろやかで、コクがあって、それと酸味がバランスよく口の中でハーモニーを奏でている。ケチャップともマスタードとも違う。イモなんて毎日のように食べているからとっくに飽きていたのに、これがあれば退屈な日々だって天国に思える。
「……美味い」
「すごいでしょう? サトミが開発したんですよ! 毎日同じ味じゃ飽きちゃうからって!」
「サトミはね、私たちが知らない料理や食べもののことたくさん知ってるんですよ!」
「ふふ、そんな。照れちゃうな」
アイシャとララが黄色い声を出しながら、サトミのことを褒め称えていた。それを聞いたサトミは恥ずかしそうにしたままガス台に立ってスープを温め直している。サトミ、友達できたんだ、よかった。
……俺はこんな風に誰かのために尽くせる彼女が裏切り者だとはどうしても思えないのだ。ヨハンやレオさんに言わせるならそれは甘い。らしいけど。恋は盲目という。もしかしたら俺は彼女のことが好きなあまり、大事なことを見落としているのかもしれない。
「ルイス隊長、パンは一つにしますか? 二つにしますか?」
「二つで、あとスープは大盛りにしてくれ」
「了解です」
まぁあれだ、サトミが作る飯はなんでも美味い。考えたくないことは考えなければいいだろう。とりあえず、今だけは。
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