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11話 おしゃれ談義
しおりを挟む自分の格好を見て、改めて地味だなあと思う。制服はシルエットが寸胴に見える丈が太ももくらいまである黒いロングワンピース。家事をするときはその上から汚れないようにエプロンを着る。
下着は胸につけるのは白かベージュのスポブラ。パンツはお尻をすっぽり覆う麻布のかぼちゃパンツ。ワ○メちゃんみたいなやつね。お腹を冷やさないから安心。
化粧は禁止、香水も禁止。指輪やネックレス、ピアスなどの装飾品の装着もダメ。髪の毛は肩に付く以上の長さは結べという。ここまで規則が厳しいと中学校ですか? って感じ。ちなみにアイシャちゃんは髪型で隠れるからってこっそりピアスつけてた。ピアッサーなんてないだろうから、どうやって耳たぶに穴開けたの? って聞いたら、普通に裁縫針でって。怖っ。
サトミにも開けてあげるよと言われたが遠慮しておいた。痛そうだし、失敗の確率も高そうだ。……しかし、なんでお化粧しちゃダメなのかな? 別に仕事に支障が出ないならいいと思うんだけど。
「そりゃーおめー、若い野郎が発情しちまうからだよ」
「発情?」
「ウチ(騎士団)に志願するようなやつは好戦的な輩が多い。良くも悪くも欲が強いのさ。そんな野獣の群れの中に脚だの胸だの見せつけてバッチリ決めた若い女がいてみろ。すーぐ餌食になっちまう」
今日の天気はおおむね晴れ。さんさんとした太陽が照りつける中、庭で剣術稽古が行われている。額に汗をかきながら木刀を振るう若い兄ちゃん達。いい目の保養だ。
私はお茶係という名目で、ついでに稽古の様子を見学させてもらっていた。私お手製の水に塩と果糖を混ぜたスポーツドリンクは好評。激しい運動をするときは水分補給がなによりも大事。
ベンチに座ってボーッとしてたら、ヨハンさんが隣に腰掛けてきたので、コップに注いだスポーツドリンクを一緒に飲みながらおしゃべり中。ヨハンさんは聞いたことにはなんでも答えてくれる。嬉しい。
「……マーガレット様は?」
あの規則破りの見本市のようなシャツのボタン三つくらい開けてる胸元おっ広げのギラギラゴテゴテボインお姉様は?
「あれは例外だよ。間違ってもマギーに手を出そうとするような度胸があるやつはいねえさ」
「例外、ねぇ」
それはマーガレット様が隊長だから? それとも強いから? 私も強かったら、何でも許されるのかな。……そういう問題じゃないか。
「昔はそんなに厳しくなかったんだけどよ。前に女子の部屋に忍び込んで夜這いしかけようとしたバカがいてな」
「ヨハン」
ヨハンさんの話をぶった切ったのは、気配を消して、いつのまにか真後ろに立っていた鬼のような形相のルイスさんだった。木刀を片手に仁王立ちする姿はどこぞの体育教師のよう。
「サボってないでさっさと練習に戻れ!」
「あー……」
「頑張ってくださーい」
ルイスさんに猫のように首根っこを掴まれて、ヨハンさんはそのまま連行されていった。さて、私も中に戻るかな。
「サトミ、こっちこっち」
「なに?」
アイシャちゃんに腕を引っ張られて、連れてこられたのはトイレの中の手洗い場。唇に指を当てられて何をされるのかと思って目をつぶったら、なんか塗られた。
「ほら、可愛い」
目を開けてみると、鏡の前の私は反射された光を受けていつもより少しだけ輝いていた。アイシャちゃんが私の唇に塗ったのはピンクのリップグロスだった。
「これくらいならバレないから大丈夫だよ」
「ありがとう」
アイシャちゃんと別れて廊下を歩いていると、この先には隊長室があったことを思い出した。髪の毛を巻いてきた日は教師にバレないように職員室への道は避ける……みたいな。なんでビクビクしてんだろ、私。
くるりと身体を回転させて、逆の道から行こうとすると、そこにはまさかのルイスさん。なんで?
「あっ、どうも」
「忘れ物を取りにきたんだが」
「そうですか、それでは失礼します」
そそくさと横をすり抜けて逃げようとしたら、腕を掴まれた。顔をじろじろ舐めるように見られて、なんだかこそばゆい。まずい、怪しまれている。
「待て。化粧は禁止だって、言われなかったか?」
「……言われ、ました」
「じゃあするな」
「……は、い」
「それでいい。サトミは化粧なんてしなくても、十分綺麗だから」
そしてルイスさんはそのまま隊長室に入っていった。心臓の鼓動が早くなる、顔が熱い。異性に息をするように綺麗だ、なんて言われたの初めてだ。化粧っていってもあんなちょっとなんだから、注意深く観察しなければわからないレベルなのに。
それだけルイスさんは私のことを見ているってことか? いやいや、勘違いするな。ルイスさんは私が規則を破ったから注意しただけだ。それ以上の気持ちなんて微塵もないはず。
……どうして、彼のことを意識してしまうんだろう。
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