強面な騎士様は異世界から来た少女にぞっこんです

島崎 桜

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12話 命の重さ

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「サトミ、昨日のお話の続きして!」
「いいよ、どこまで話したっけ?」
「未来には空飛ぶ鉄の塊があって、すっごく早くてビューン! ってどこまでも飛んでいけちゃうんでしょ?」

この異世界にはテレビがなければパソコンも、スマホも、現代の日本では当たり前にあった暇を潰せる便利なツールがないので、毎日少しづつだが、アイシャちゃんが眠くなるまで代わりに日本のお話をしてあげていた。私の声を聞きながら寝ると悪夢を見ないのだという。役に立ててよかった。

「……ん?」

なにやら廊下の方がバタバタと騒がしい。気になって外を覗いてみると、ランタンを持ったマーガレットさんと、奥様軍団のリーダーであるイリーナさんがなにやら話し込んでいた。ほかの女子たちは次々に部屋から出ると、足音を立ててどこかに駆けていく。いったい、なにが?

「サトミちゃん、アイシャちゃん、今日私の七番隊と二番隊の兵士が合同でチームを組んで森へ魔物討伐に出かけたのだけど、想定していたよりも数が多く、倒しきるのに時間がかかってしまって……多くの怪我人を出してしまったわ。こんな夜遅くに申し訳ないんだけど、この時間じゃ病院はやってないし、ひとまず応急処置を手伝ってくれないかしら?」
「「はい」」

私たちは手早く寝巻きから制服に着替えると、医務室へと向かった。そこには血を流しながらうめき声をあげる複数名の兵士さんの姿が。とりあえず傷口を消毒して、その上に薬を塗って包帯を巻く。

「被害状況は?」
「フランツが殺られた。クソっ、俺がもっと周囲に気を配っていれば......」
「死体を持ち帰ってこれただけマシだ」
「ルイスは悪くないわ、夜が明けたら朝一番で教会へ運びましょう」

ルイスさんとヨハンさんとマーガレットさんの会話を聞きながら、引かれたゴザの上に仰向けに寝かされている顔に白い布が被せられたご遺体はできるだけ視界に入らないようにして、胸元から込み上げてくる酸っぱい液体を無理やり飲み込んだ。光景の全てが生々しくて泣きそうになる。

「……悪いな、起こしてしまって」
「そんな、これくらいは」

ルイスさんは仲間のご遺体に手を合わせると、唇を噛み締めて、目をギュッと細めたまま私の方に振り返った。仲間を救えず、誰よりも苦しいのは彼のはずなのに、感情を表に出さないルイスさんは大人だ。

「……ルイス隊長、この怪我」
「こんなのかすり傷だ。ツバでもつけておけば治る。ほかのやつの手当てを優先してくれ」
「いけません、放っておいては」

ふいにルイスさんの左手の甲を見ると、真一文字の傷が走っていた。私は包帯を取り出して、彼の手をぐるぐる巻にする。傷口からバイ菌が入って感染症にでもかかったら大変だ。

「サトミ、ありがとう」
「あのっ」
「疲れた。すまないが、先に休ませてもらう......」

ルイスさんは私の瞳の奥底をじっと見つめると、脱力した状態でフラフラとどこかに歩いていってしまった。その広い背中にはひどく哀愁が漂っていて。戦争を知らない私には、かける言葉が見つからなかった。

「ルイス、ありゃ相当参ってんな」
「あのガタイで精神は貧弱だからね、自分が殺したようなものだとでも思っているんでしょ」

そんなことないのに、と、マーガレットさんが呟いた。


一通りの救護が終わって、私は床に膝を付いて、大きく深呼吸をした。手が震えているのが分かる。看護師さんって凄いよなぁ、こんなことを普段から当たり前にやってるんだから。

「辛いか?」

後ろからヨハンさんに肩を叩かれた。精神が疲弊しきっているのを悟られたくなくて、私は必死に笑顔を取り繕う。

「......そんなこと、ないです」
「この先、何度も人の死に触れることがあるだろう。そんなときいちいち気を病んでいたんじゃ心がぶっ壊れちまう。慣れれば楽になれるさ、俺みたいにな」

ここでは私が元いた世界よりも命の重さが違うのかもしれない。慣れれば楽なんてヨハンさんは言うけど、そうなってしまったら終わりな気がする。

甘んじて受け入れるしかないのか、自然の摂理を。この世界のあり方を。私にできることはただ、これ以上犠牲者が出ませんようにと、神に祈ることだけだ。
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