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13話 人の温もり
しおりを挟む俺は自分の部屋に戻ると、上着を乱暴に床に脱ぎ捨てて、そうそうに布団の中に入った。なにもかもが面倒だ。風呂は朝入ればいいだろう。
身体は確かに疲れているはずなのにどうしても寝付くことができず、何度も寝返りを打った。フランツの断末魔が、肉が引き裂かれるあの嫌な音が、綺麗な赤が、記憶からこびりついて離れない。
「ヨハンか?」
扉の向こうから三回ノックをする音が聞こえて、俺はドアノブをひねった。全く、今まで一回もノックなんてしたことなかったくせに......。
「サトミ」
「失礼します。もしかして、起こしてしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ」
「よかった。朝から何も召し上がってないと聞いて、簡単なものですがお持ちしました」
「ありがとう」
お盆に一人分の食事を乗せたサトミを招き入れて、向かい合わせになるように座った。こんな最悪な気分のときでも腹は減るのだと自覚した俺は、お椀を持ち上げて野菜がゴロゴロ入ったスープを一口すする。温かな液体が俺の胃袋を心地よく満たした。
そのあとはもう止まらなかった。俺ががっつきながらパンやらスクランブルエッグを貪っている姿を、サトミはニヤニヤしながらじっと見ている。
「見られると食べづらいんだが......」
「お気になさらず、食欲はあるみたいでよかったです」
「ふぅ......」
ようやく一息ついて、心が落ち着いた。
「サトミもさっさと自分の部屋に戻ったほうがいい。あまり寝てないだろ?」
「大丈夫です」
「なんだ?」
距離が近い。月明かりが彼女の顔を照らす。白い肌も、長いまつ毛も、若干血色の悪い唇も、全部くっきりとわかってしまう。あと少し俺が顔を前に出せば、唇と唇が触れ合って、キスしてしまいそうだ。
「ヨハン隊長より、ルイス隊長を慰めるように言われました」
それは一体どういう意味だ。サトミが今自分の部屋にいるだけで心臓バックバクなのに。サトミの冷たい手が、包帯が巻かれていない方の俺の無骨な手をそっと握って。その先を期待してしまった自分に、ひどく嫌気がさして。
「あまり、ご自分を責めないでくださいね」
「......ああ」
「ルイス隊長は立派に任務を遂行しました。フランツさんの分まで、前を向いて生きなければなりません」
「前を、向いて......」
「そのために私にできることがあれば、なんでもおっしゃってください」
涙が溢れそうになった。俺の女神は、こんなにも優しく、慈愛に満ちている。俺はサトミの背中にそっと腕を回すと、彼女の小さな身体を抱きしめた。ここで好きだと伝えられたらどれだけいいだろう。一方的な感情を思いのままに吐き出せば楽になれるのだろうか。
「すまない。なにもしないから」
それよりも、今はただ人の温もりが欲しい。彼女も、俺も、確かに生きているということを実感したい。
「......ありがとう」
「いえいえ、それではおやすみなさい、よい夢を」
一瞬だけのハグの後、サトミはさっさと食器を下げて出ていった。確かに慰めてはくれたが......。
「で? どうだった?」
「なにもない。サトミは食事を届けに来てくれただけだ」
「はぁー? 俺はお前のことを考えてわざわざ別の部屋で寝たんだぜ? てっきりしっぽり」
「絶対にない。余計なお世話だ」
次の日、ヨハンにさんざんからかわれたのはまた別の話。
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