15 / 50
14話 ハーベストフェスティバル
しおりを挟む肌寒い。そう思った私は換気のために開けていた窓をそっと閉めた。この国の気温は年を通して十五度から二十度の間で安定。雨はあまり降らない。四季という概念がないので、寒すぎることはないが、暑すぎることもない。聞いた話ではもっと南の大陸では一年中真夏だったり、北にある大陸は毎日が大雪だったりするけど、その中でアスディア王国が位置する大陸はもっとも安定していて温和な地帯らしい。ほかの国に行ったことないからわからないけど。
だからこの国の人々は季節に対して情緒を感じることがない。桜を見て別れを惜しんだり、新緑の鮮やかさに目を輝かせたり。秋の落ち葉に悲しみを覚えたり......。でも、そういうのって日本独特なものなのかもしれないな。
「サトミ! 収穫祭の日は特別に門限が伸びるから、お仕事終わったらその足で一緒に行こうよ!」
「うん、いいよ」
収穫祭(ハーベストフェスティバル)その名の通り、食料の収穫に感謝して開催されるお祭り。ほかの国からも大勢の観光客が訪れ、花火が上がり、大がかりなパレードも開かれる。
私は一度も参加したことがない。酒場で働いていたときはお祭りの日は稼ぎどきで、お客さんがひっきりなしに来るから休みなんて取らせてもらえかったし。毎年花火の音を聞きながら、私も行ってみたいなと思っていたから丁度いい。今まで貯めていたお給料、パァーッと使っちゃお。
勤怠表に自分の名前の欄のところに退勤時間を書いて、自分の部屋に戻る。着替えたりなんだりしていたら、あっという間に夜になってしまった。
「わぁー! すごい!」
町にはたくさんの露店が並んでいた、ガス灯のおかげで夜でも明るい。道ゆく人の中には、頭に犬や猫の耳が生えた人もいる。コスプレかな? 頭上では花火が上がり、赤、黄、青など、さまざま大きさの菊輪がパッと咲いては人生のように儚く散っていった。ガヤガヤ、ワイワイ。みんな浮かれているんだろう、この空気感好きだな。
「よっ、」
「こんばんは、サトミ」
「こんばんは」
ヨハン隊長とルイス隊長にばったり会った。お二人ともかっちり決めた仕事着だが、ヨハンさんは肉の串を片手に持ちながら口の中をもぐもぐさせている……歩きながらもの食うなよ。
「お二人も祭りを楽しみに?」
「ちげーよ。俺たちは警備隊として召集されたの」
「広場のところに簡易テントが設置されてるから、なにか困ったことがあったらそこに来てくれ」
「はい」
「ルイスー、あっちに射的あるぜ! あっ、輪投げも!」
「ヨハン! 俺たちは遊びで来たんじゃないんだぞ!」
さっさと走り去っていくヨハンさんを、ルイスさんが慌てて追いかけていく……ほんと自由人。
「うわー、綺麗」
私は、目の前の露店で作られている飴細工に夢中になっていた。はじめはただの白い塊だったのに、着色料が加えられることで艶やかな桃色に変化すると、職人さんが棒やらハサミやらをたくみに利用してあっという間に鳥の形に変えていく。長く伸びた三本の尾、羽の造形も凝っている。精巧に作られたフィギュアみたい。これは魔法なんかじゃなくて、何年、何十年と積み重ねた努力の結晶なのだろう。
「すごいねぇアイシャちゃん。一個買ってみようか……」
横を見ると、アイシャちゃんがいない。まずい、いつ逸れた? 気がつかなかった。携帯電話がないから連絡を取ることもできないし、この大勢の人混みの中一人で探し回るのは厳しそう。
「迷子になった?」
「面目ない……」
ルイスさんの言葉を思い出して、騎士団のメンバーが集まっている黄色の仮設テントに来てみた。中ではすでにできあがったヨハンさんが顔を赤くして飯食いながら酒飲んで花火見てる。勤務中に酒飲むなよ。
「俺は忙しいからなぁ」
「お酒を飲むのに?」
「これも仕事のうちだ」
仕事っていえばなんでも許されると思うなよ。
「ルイス、一緒に探してやれ」
「わかった」
「お前ら! せっかくの祭りだ! じゃんじゃん飲めー!」
「サトミ、あのバカは放っておいて、いこう」
「はい。向こうも私のことを探しているでしょうし……待ち合わせ場所を決めておけばよかったですね」
「とにかく歩くか、流石に町の外には出てないだろ……うっ!?」
「あ、ごめんなさい、嫌でした?」
また逸れたらどうしようもないので、私はルイスさんの手をギュッと握った。すると、ルイスさんが変な声を出して跳ねた。なんかめっちゃびっくりしてる。
「いや、いい。絶対に俺のそばから離れるな」
「はい」
さーて、捜索開始!
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる