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21話 性犯罪者予備軍
しおりを挟むすげえ恥ずかしかった。好きな人に裸見られた。サトミはノックをしたと言っていたが、着替え中にヨハンに無理やりパンツを脱がされそうになって、抑えるのに夢中で全然聞こえなかったし。
……俺、サトミに嫌われちゃったかな。
午後一番の仕事は体術稽古。広い板の間に集まって組手を行う。さっき食べたものを消費したいから身体を動かしたいのだが、平兵士たちは俺に怯えて近づこうとしない。こうなったらその辺のやつをとっ捕まえて……。
「ルイスせんぱーい、僕とひと勝負しましょうよ」
「ああ、いいぜ」
ようやく声をかけてきたのは、ニヤニヤしながら手をあげるユリウスだった。俺たちは互いに礼をしたあと、技を出し合ったのだが、まるで動きを先読みされているかのように先手を取られてしまう。結局最後は俺より背も体重も低いユリウスに投げられて、床に背をついた俺の負け。
「はぁ、はぁ……」
「あれぇ? 天下の隊長様の実力はこんなものなんですか?」
「……うっせ」
「ルイス先輩、余計なこと考えてたでしょ」
「うっ」
「無駄な動きが多い。心が惑わされている証拠ですよ」
ユリウスに図星を指されて、反論できない俺は下を向いたまま黙り込んだ。確かに、今の俺には雑念が多い。心の乱れが身体にも現れているということだろうか。
夜、稽古を終えた俺は汗だくになって隊長専用の風呂場に向かった。ここは少し広めの個室になっており、大浴場と違って一人でゆっくり湯船に浸かれるのが嬉しい。早く一日の汚れを落としたい。俺は脱衣所で服を脱いで、浴室へのドアを開けた。
「あっ」
「あらー」
もくもくと湯煙が立ち登る中、なんとそこにいたのはサトミ。彼女は両手と両足の袖を捲り上げて、デッキブラシを片手に床を磨いていた。視線は俺の腰あたり、今の自分の格好を思い出して、慌てて両手で股間を隠したが、時すでに遅し。まさか一日に二度もサトミの面前にこんな卑猥な汚物を晒すハメになるなんて。
「……なんで?」
「清掃中の看板見えませんでした?」
「いや、そんなものは」
「じゃあ倒れちゃったのかな」
「悪い、掃除中だったか、出直すよ」
「大丈夫ですよ。今終わったところです。お風呂は沸かしておきましたのですぐ入れますよ。それでは」
「ま、待ってくれ!」
「はい?」
俺が声をかけると、背を向けて出ていこうとしたサトミが振り返った。俺はなにがしたいんだ。謝りたいのか? それとも礼が言いたいのか? 用はなくても、サトミと少しでも一緒に時間を過ごしたいだけなのか?
「あ、いや」
「ルイス隊長、お背中流しましょうか?」
「……ああ、頼む」
俺は表情を崩さずにぶっきらぼうにそう言ったが、心の中は嬉しさとやましい気持ちでいっぱいなわけで。桶を椅子がわりにして、俺がそこに腰掛けると、サトミが俺の後ろで屈んで、石鹸水を含ませた手拭いで俺の背中を擦りはじめた。
こんなの興奮するなって方が無理な話だ。彼女はきっちり服を着ているが、俺は腰に手拭いを巻いているとはいえ、ほぼ全裸なわけだし。頼んだら前の方も洗ってくれるかな、なんて妄想している俺は性犯罪者予備軍。ぶっちゃけ息子が勃たないよう自分を抑えるのに必死だった。
「広くて逞しい背中。ここにたくさんのものを背負ってらっしゃるんですね」
「……そんな、俺なんてまだまだちっぽけだよ」
「ルイス隊長、あのとき私を助けに来てくれてありがとうございます。本当に嬉しかった。まるで、自分が特別な存在になったみたいで」
サトミが俺の耳元で優しくそう囁くと、心臓の鼓動が早くなって、血圧が急激に上昇していくのがわかる。呼吸が荒くなって、全身がカーッと熱くなる。これはあれだ、風邪をひいたときに、高熱を出して寝込んでいたときの感覚に似ている。でもあのときは苦しくて苦しくてたまらなかったのに、今はとても心地よい。
「ありがとう。もういいよ」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
これ以上サトミと一緒にいたら襲ってしまいそうだったので、俺はやんわりと彼女にやめるように伝えた。サトミが去ると、心の熱も去っていく。俺はそれの代わりになりはしないかと、湯船の中に自分の身体を沈めた。身体が温まれば気持ちも温かくなるかと思ったけど、やっぱり別物か。……片思いって、つらいなぁ。
「ルイス、どうだった? サトミにスケベしてもらえたか?」
「……どういうことだ?」
さっぱりした状態で自分の部屋に戻ると、ヨハンがニヤニヤしながら待っていた。どうやら清掃中の看板を隠し、俺とサトミが鉢合わせするように仕向けた犯人はやつだったらしい。
「ふざけるな!」
「いて! なんだよー。俺はお前のためを思って……で、結局スケベはしてもらったのか?」
「知らん!」
ヨハンの幼稚ないたずらにはほとほと呆れる。俺はヨハンの顔面にストレートパンチをくれてやると、そのまま頭から布団をかぶった。就寝時間まではまだ早いが、もう寝てしまおう。……今夜も俺の夢の中にサトミが出てきてくれますように。そこでなら、堂々と本音を君に伝えることができるだろうから。
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