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26話 後悔
しおりを挟む完全にやらかした。絶対サトミに嫌われた。
好きな人が自分の部屋という絶対安全な砦にホイホイやって来て、懐いてくれているなと油断した俺は、とうとう彼女に手を出してしまった。キスは流石にまずいと思ったが、猫みたいに俺の身体にスリスリしてくるサトミが可愛すぎて、心に潜む欲望の悪魔が理性の壁をぶち壊してしまったのだ。
寮の中にほとんど人がいなくなるときなんて長期休暇くらいなもので、人目を気にせず二人きりでゆっくりできるチャンスなんて今しかない。ああそうだ。あわよくばって思った。
......本当に最低だ。時間を巻き戻せるなら、あのときの俺をぶん殴ってやりたい。
「これ土産、かぁちゃんが大量に獲れたから持ってけって」
「ヨハン先輩の実家って農家なんですね。生のジャガイモばっかり......こんなにどうするんですか」
「女子たちがなんとかしてくれるだろ」
「しばらくはイモ料理が続きそうですね」
長期休暇が終わり、留守にしていた騎士団のメンバーも帰ってきた。隊長室でヨハンとユリウスがなにやら話しているが、今の俺の頭の中はサトミのことでいっぱいいっぱい。仕事だってまともに手をつけることができず、何度もため息をつくのを繰り返していた。
「はぁ......」
「ありゃ相当重症だな」
「ですね」
「ルイス! そんなしけたツラしてどうした? 休み中にサトミとなにかあったか?」
「うっ」
ヨハンの言葉に動揺した俺は変に力が入ってしまったのか、持っていたペンを二つに折ってしまった。
「おいおい、図星かよ、で? なにがあったんだ」
「僕にも聞かせてくださいー!」
「実は……」
「はぁ!? それで最後まで無理やりヤったのか!?」
「最後まではしてない! キスと……身体に触っただけだ」
「ヤっちゃいましたねルイス先輩。まぁ、初犯なら執行猶予が……」
「なんで俺が逮捕される流れになってんの」
「なに言ってんすか、立派な強制わいせつ罪じゃないですか」
「……強制、わいせつ」
俺はあの日、サトミにそんなにひどいことをしてしまったのか? どうしても嫌だったら大声を出して助けを求めるなり、暴れるなりするはず。それをしなかったということは、彼女も満更でもなかったんじゃないか? いや、それは俺が自分にとって都合がいいように解釈したいだけか。でも、合意の上かというと……そんなこともなかったような。怖くて動けなかっただけとか、そういう可能性だってある。
「ユリウス、あんまりいじめるな。こいついちいち考え込むタイプだから」
「冗談ですって、で? サトミちゃんにはちゃんと謝ったんですか?」
「……一応。許してもらえたかどうかはわかんないけど」
「ダメですよ、そういうのはキチッとしないと」
「そうだな。よし、ルイス。これ持ってサトミのとこ行ってこい」
そう言って、ヨハンが俺の机の上にドン! と置いたのは袋に詰められた大量のジャガイモ。こんなんでいいのか。
俺は袋を抱えて食堂に向かった、確か今週のサトミの担当は食事班だった気がする。せっせと昼飯の仕込みをするサトミに話しかけるのはなんだか忍びなくて、たまたま近くを通りかかったアイシャに声をかけた。
「アイシャ、少しいいか?」
「どうかしました?」
「これ、ヨハンからの土産だそうだ」
「こんなにたくさん! 助かります!」
「それと、悪いがサトミを呼んできてもらえるか?」
「はい、了解しました!」
アイシャは二十キロ以上はあろうかという袋を俺から受け取ると、軽々抱えて食堂の中に入っていった。そして入れ替わりでサトミが俺の前へ。別に変わった様子はない。いつもと同じだ。
「お呼びですか?」
「……この間のことなんだが、いろいろやらかしてしまって本当に申し訳ない。君を傷つけたこと、どうか許して欲しい」
俺は深々とサトミに頭を下げた。金輪際私に近づかないでとか言われたらどうしよう。
「大丈夫、私はなんともないですよ。それに、嫌じゃなかった」
顔をゆっくりあげると、サトミは両方の口角を上げて、柔らかな笑みを浮かべていた。それは太陽のように暖かく、穏やかで。闇夜を照らす、俺にとっての唯一の光。
「よかったらまた本を読んでもらえると嬉しいです。ルイスさんの声、好きなので」
「それくらいなら、いくらでも」
「ふふっ、ありがとうございます」
……めっちゃ好き。結婚しよう。
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