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28話 演習試合
しおりを挟む本日の天気はおおむね晴れ。空気は少し乾燥気味。さんさんと照りつける太陽はまるで我らのこれからを祝福しているようであります。
行事の日にしか姿を見せないで有名なヴォルフガング団長の長いあいさつが終わったあと、王家の紋章である薔薇のマークの国旗が空高く掲げられ、国歌斉唱。ちゃんと私も歌いましたよ。兵士さんたちの低くて野太い声に押されて自分でも全然聞こえなかったけど。
奥様軍団の私たちは試合に参加しないので、端っこで固まって応援係。兵士さんたちはいつもの格好と違って楔帷子(くさりかたびら)みたいなのを服の下に仕込んでる。まぁ、真剣勝負ではないにせよ防具は必須か。あんな木の塊で全力で殴られたら骨くらい簡単に折れそうだ。
「よっ、サトミ」
若いお兄さんたちの鍔迫り合いをニヤニヤしながら眺めていると、ヨハンさんが突然私の隣に腰掛けてきた。周りは女の子ばかりなのによく堂々と割り込めるなこの人。
「どうも。サボりですか?」
「ちげーよ。隊長同士の対決は今日の目玉だからな、俺の出番は最後ってわけ」
「隊長同士の対決......おもしろそうですね」
「どうだ? 試合を間近で観戦した感想は?」
「そうですね……これといって決まった形がないように思います。荒々しく、力強く、行動パターンが読めない」
「俺たちの剣術は実戦向きだからな。道場剣道みたいに細かい形式にこだわったりしない。美しく魅せる、なんてくそくらえだ。たとえみっともなくても、泥臭くても、死ななければ負けじゃない」
「……そんなものですかね」
「おっと、無駄なおしゃべりしすぎたな。俺の相手はルイスだから、目ん玉かっぽじってよく見とけよ?」
「頑張ってくださーい」
ヨハンさんが庭の中央に駆けていく。並ぶ隊長たち。初めの試合はマーガレットさんとユリウスくんだった。マーガレットさんの戦い方はとにかく押せ押せ戦法。身体的なハンデをもろともせず、デカい乳をブルンブルン揺らし、圧倒的なパワーでどんどんユリウスくんを追い込んでいく。
対してユリウスくんは単純な腕力ではマーガレットさんに敵わないものの、持ち前のスピードを活かして攻撃を避けつつ、手数の多さで対抗していたが……結果はマーガレットさんに木刀を弾き飛ばされたユリウスくんの負け。パワーこそ正義。
次の対決はルイスさんとヨハンさん。ヨハンさんはトリッキータイプ。積極的に動き回ることはせず、相手の攻撃が自分の懐に入り込んだ瞬間を狙って一気に叩く。まるで自分の巣に獲物がかかるのを舌なめずりしながらじっくりと待つ蜘蛛のように。
ルイスさんはオールラウンダー。パワーもスピードもそこそこあるが、特に尖った長所は見受けられない。良くも悪くも器用貧乏。ゲームだったら初心者向けタイプ。
二人の試合の結果はルイスさんが負けた。能力的な問題ではない、それもあるかもしれないけど……彼の剣には殺意が無い。なんていうのかな、なにがなんでも勝ち取ろうという必死さが伝わらなかった。
「はぁ、はぁ」
「はぁ……」
「お二人ともお疲れ様です」
「ありがとう」
「サンキュ」
私は対戦を終えて観客席にへたり込んでいるルイスさんとヨハンさんに近づいて、コップに注がれているよく冷えたお茶を渡した。ヨハンさんはそれを勢いよく飲み干すと、目を釣り上げて恨めしそうにルイスさんを睨みつけた。
「ルイス、どうして手加減をした!?」
「手加減って……」
「お前はわざと負けた。なぜだ!? 俺との試合なんて所詮はお遊びだったってことか!?」
「木刀とはいえ、本気でぶつかれば軽い怪我では済まない。急所を突かれたら死ぬ可能性だって」
「……下手な同情、ありがとうよ」
ヨハンさんはふんっ、と鼻を鳴らすと不機嫌丸出しな様子で、上着を片手にどこかに行ってしまった。残されたルイスさんは肩を落とし、何度もため息をついていた。完全にしょんぼりムード。ないはずの犬耳がぺったりと垂れているのが見える。
「……あんまり、落ち込まないでくださいね」
「確かに俺は本気を出さなかった。だが、それは相手が身内だからだ。本当に、怪我をさせたくなかっただけなんだ」
私が二人の試合を見ていたときに覚えた違和感。それはルイスさんの優しさだった。ヨハンさんを思いやる気持ちが、逆に彼を怒らせてしまった。
私はルイスさんの隣に座ると、そっと彼の手を握った。これが、慰めになるかどうかはわからないけど。
「……ありがとうサトミ、あと五分だけ、隣にいてくれないか?」
「いいですよ」
ルイスさんは心が弱い人なのかもしれない。でも、それも含めて彼の良いところだから。私の器では足りないかもしれないけど。それでも、少しでもいいから彼の気持ちを受け止めてあげたいのだ。
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