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29話 喧嘩
しおりを挟むあれから数日、ルイスさんとヨハンさんが口を聞いているのを見たことがない。二人がばったり顔をあわせても、ヨハンさんに声をかけようとするルイスさんを無視してどこかに行ってしまうのだ。
「なに、あの二人まだ喧嘩してんの?」
「二人というか......ヨハンさんが一方的にルイスさんを邪険に扱ってるというか」
お散歩に行きたいですと頼んだらあっさり了承してくれたので、今日はユリウスくんの五番隊のパトロールに同行させてもらうことになった。ユリウスくんと横並びで歩きながらおしゃべり。話題は例のあの二人のことだ。
「僕もよく知らないんだけど、一体なにがあったの?」
「この間の演習試合で、ルイス隊長はヨハン隊長にわざと負けたんです。身内を傷つけたくないからって。それで、ヨハン隊長が怒っちゃって」
「......あー、なるほどね」
「別に、ルイス隊長はなにも悪いことしてないのに」
「悪いとか悪くないの問題じゃないよ」
「じゃあ、なんで?」
「あの二人は同い年なんだ。入隊の時期も同じ。つまり、上下関係の差がないっていうか......同等の立場ってやつ? そんな相手に同情されて手加減されて、ヨハン先輩は自分が下に見られてると思ったんじゃないかな」
「……それが気に食わない?」
「男同士のいざこざってのは面倒だからね」
「ユリウス隊長、お願いが」
「なに?」
「パトロールが終わったら、私がルイス隊長を呼び出すので、ヨハン隊長を呼び出すの手伝ってもらえますか?」
「いい案思いついたの? いいよ、よろしく」
二人が仲直りする方法。それは多分、ルイスさんが手加減なしで全力でヨハンさんとぶつかり合うしかない。私は本部に戻るなり、包帯やら傷薬やらをカゴに詰めて、それを持って隊長室に乗り込むと、驚いた様子のルイスさんの腕を引っ張って庭に連れ出した。そこにはすでに到着していたユリウスくんとヨハンさんの姿が。
「サトミ、一体なにが……あっ!」
「……用ってなんだよ。今俺はそいつの顔も見たくないんだけど?」
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて、サトミちゃんがいい方法思いついたそうですよ」
「はい、お二人とも、今ここで殴り合ってください」
「「殴り合う?」」
「ここなら邪魔は入りません。素手ならそこまで大怪我はしないでしょう。もしなにかあってもユリウス隊長が止めに入ってくれます。応急手当ての準備もバッチリです」
「……おもしれぇ、リベンジマッチといこうじゃねぇか」
「……やるしかないか」
ヨハンさんはやる気満々で、ルイスさんはしぶしぶといった様子で互いに向かい合うと、上着を脱ぎ捨ててシャツの袖をめくりあげた。
「はじめ!」
私の声を合図に、ルイスさんが先にヨハンさんに攻撃を仕掛けた。次はヨハンさんのスウェイ回避からのカウンター。しばらく二人の攻防が続いたが、先に地面に床を付いたのは......ヨハンさんの方だった。
「はぁ、はぁ……」
「やっぱり強いなぁ、ルイスは」
「お前も、なかなか」
「こうしてお前と本気で喧嘩するなんて、久しぶりだ」
「ああ、ヨハン、立てるか?」
「……ありがとう」
ルイスさんがヨハンさんに手を出すと、ヨハンさんがそのまま立ち上がりその手を取ったあと、二人は熱い抱擁を交わした。うんうん、仲直りできて良かった。
「サトミ、ありがとう」
「余計なお世話でしたかね」
「いや。お前のおかげだよ」
言葉は大切なコミニケーションツールだけど、それだけじゃ全ては解決してくれない。心に溜まったうっぷんを吐き出すために、たまにはこうして拳でぶつかり合うことも大切だ。男同士の熱い友情、最高です。
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