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43話 黒いあいつ
しおりを挟む今、私はあいつと退治していた。食器洗いの最中、なんの遠慮もなく現れた黒い影。私が大嫌いな生き物ナンバーワン、ゴキブリである。ああ、見ただけで寒気が……。
「サトミちゃん! 殺しちゃダメ!」
「そこをどいて」
慈悲はない。私がヤる気満々でスリッパを片手にそいつを叩き潰そうとすると、アイシャちゃんがゴキブリを庇うように立ちはだかった。なぜ庇うのか理解できない、殺生はいけないことだというが、見知らぬおっさんが家の中でゴソゴソと食料を漁っていたら殺すだろう? そういうことだ。
「高く売れるから! 捕まえて!」
「え?」
そういうことなら話は別。私は素早く動き回るそいつをヒョイとつまみ上げると、虫かごの中に放り込んだ。それを眺めるアイシャちゃんはまるで母親におもちゃを買ってもらった子どものように瞳をキラキラと輝かせていた。
「……うわぁ、すごく綺麗、ねぇ、部屋で飼っちゃダメかな?」
「うん、絶対やめて?」
ゴキブリと相部屋なんて死んでもごめんだ。日本では夏場や梅雨の時期になると当たり前に見かけていたあいつだが、こっちの世界では生きる黒い宝石と呼ばれ、貴族の間で高値で取引されているらしい。
「大きさも艶も見事だ。これだけ素晴らしい個体は非常に珍しい。百万、いや、二百万レンドル出そう」
「……そんなに」
早速アイシャちゃんと質屋にゴキブリを持っていったら、半年分のお給料が一瞬で手に入ってしまった。ジャラジャラと金貨の入った袋をアイシャちゃんと二人で山分けして建物に戻る。これだけあったら数年は働かなくても大丈夫そうだ。
「……サトミ、その金どうしたんだ?」
「な、なんでもないですよ?」
どこからか匂いを嗅ぎつけてきたのか、ルイスさんとばったり遭遇してしまったので私はその袋を慌てて背中に隠した。が、抵抗も虚しく、ルイスさんに簡単に取り上げられてしまった。
「あー! 返してください!」
「これは預かっておく」
お前は子どもからお年玉を取り上げるお母さんか。どうせ生活費だなんだって嘘ついて二度と返してくれないんでしょ!?
「いやですー!」
「なにに使うつもりだった?」
「ホストクラブで豪遊?」
「ダメだダメだ。そんなの金をドブに捨てるようなもんだ。これは貯金に回す。いいな?」
「無駄かどうかは私が決めることです!」
セイくんにもう一度会いたい。あのキラキラした空間にいると、まるで自分が特別になったかのような錯覚さえ覚えるほどだ。
「もう二度とホストクラブには行くな。あそこは底なし沼と同じ。一度ハマれば二度と抜け出せない。サトミは自分を強く持てるタイプじゃないんだから、あっという間に依存するぞ」
「でも……ホストとおしゃべりするの、楽しかった。いっぱい優しくしてくれた」
「それはビジネスだからだ。向こうにとってみれば客なんて金を吐き出すだけの餌にしかすぎない。いっときだけの夢と幻。バカバカしいと思わないか?」
「そんなのわかってますよ」
所詮私は大勢の中の一人なんだって。夢が覚めてしまえば虚しいだけだって。それでも求めてしまうのは、私の心が弱いから。
「話し相手なら俺がなってやる。それじゃ不満か?」
「もういいです!」
確かにルイスさんはイケメンだけど、身内とおしゃべりするのとは違うんだよ。
私はとぼとぼと肩を落として、自分の部屋に戻った。アイシャちゃんは金貨を床に並べながら、満面の笑みで金勘定をしている。そういえばルイスさんアイシャちゃんの分のお金は取り上げなかったな。不公平だ。プンプン。
「私なんて生まれてから一度も見かけたことなかったのに、よく捕まえられたよね。サトミに仲間意識を感じて近づいてきたのかな? ほら、おんなじ黒い宝石を持ってるから」
「……やめてよ」
こっちの世界では褒め言葉なのかもしれないが、ゴキブリと同じは嫌だ。あいつ、もう一回出てきてくれないかな。今度はルイスさんにバレないようにこっそり売り捌いてやる。
「あれ? サトミお金はどうしたの? もうしまっちゃった?」
「貯金に回すって、ルイス隊長に取り上げられちゃった、なんで私ばっかり。心配してくれてるのかもしれないけど……やりすぎだよ」
「いや、ルイス隊長のあれは心配というか……」
「なに?」
「なんでもないよ。ほったらかしにされるよりマシじゃない?」
「そうかなぁ」
そういえば、ルイスさんと顔を合わせない日は一日もない。ルイスさんは私に毎日声をかけてくれて、夜中は私がこっそり抜け出さないように見回りに来る。それは過保護だから? それとも……なんだろう。 それ以上の感情ってなにかあるのかな。
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