虐げられ追放された悪役令息Ω、実は氷の皇太子αの運命の番で、めちゃくちゃに溺愛されています

水凪しおん

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第三十三話「戦場へ」

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 出征の前夜、ゼノンは僕の部屋を訪れた。
 二人きりになると、彼は国の命運を背負う皇太子の顔ではなく、ただ一人の男の顔に戻っていた。

「……行きたくないな」

 子供のようにそう言って、僕を後ろからきつく抱きしめる。
 その弱音に、彼がどれほどの重圧と戦っているのかが分かり、胸が締め付けられた。

「……すぐに、お戻りになりますよ」

 僕は彼の腕の中で振り返り、彼の頬にそっと手を添えた。

「だって、あなたは世界で一番、お強い方ですもの」
「お前にそう言われると、本当にそうなれる気がする」

 ゼノンはそう言って、僕の唇に深く口づけた。
 離れがたい想いを、お互いの唇で確かめ合う。

「……これを、持っていって」

 僕は彼に、小さなサシェを手渡した。中には、安眠効果のあるハーブに加えて、集中力を高め、心を奮い立たせる効果のあるローズマリーがブレンドしてある。

「お守りだ」

 ゼノンは、そのサシェを大切そうに胸のポケットにしまった。

 翌朝。
 城門の前には、出征する帝国軍の兵士たちが整列していた。
 その先頭に立つ、総大将のゼノン。
 彼は馬の上から、僕を見つめていた。その金色の瞳には、僕への愛と、必ず生きて帰るという強い意志が込められていた。
 僕も、彼に最高の笑顔を送る。心配していない、信じている、と伝えるために。

 やがて、進軍の合図が響き渡る。
 帝国軍は、民衆からの割れんばかりの歓声に送られ、戦場へと向かっていった。
 遠ざかっていく彼の後ろ姿が見えなくなるまで、僕はその場で見送り続けた。
 行ってらっしゃい、僕の愛する人。
 あなたの帰りを、あなたの国を守りながら、ずっとここで待っています。
 離れ離れになった僕たちの、それぞれの戦いが始まった。
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