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第9話「故郷の危機と隠された血筋」
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馬を飛ばし、僕とアシュレイ公爵は故郷の村へと急いだ。
道中、彼は僕に一つの仮説を語って聞かせた。
「リアム、お前の持つ浄化の力は尋常なものではない。もしかしたらお前はただの平民ではないのかもしれない」
「え……?」
「かつてこの国には『聖なる力』で王家を支えた一族がいたと聞く。その一族は王家の血よりも純粋な浄化の力を持つと言われ、人々から敬われていた。だが十数年前の内乱でその一族は滅びたとされている」
その一族の名前は『リンドベル』。
彼らはその力のせいで権力争いに巻き込まれ、滅びの道をたどったのだという。
「もしお前がそのリンドベル家の生き残りだとしたら、クロヴィス王子がお前を狙う理由も分かる。その力を手に入れ王座を奪うための切り札にするつもりだろう」
僕がそんなすごい一族の生き残り? にわかには信じられない話だった。僕はずっとただの孤児だと思って生きてきたのだから。
「真実は、お前の村に行けば分かるかもしれん」
彼の言葉に僕はごくりと唾を飲んだ。
僕の知らない僕の秘密。それがもうすぐ明らかになる。
数日後、僕たちはようやく村にたどり着いた。
しかしそこに広がっていたのは、僕の記憶にある穏やかな村の姿ではなかった。
いくつかの家は燃やされ、畑は荒らされている。村人たちは怯えた様子で寄り集まっていた。
「ひどい……」
僕が愕然としていると、村人の中から一人の老婆が僕に気づいて駆け寄ってきた。僕の育ての親だったおばあさんの親友だった人だ。
「リアム! まあ、無事だったのかい!」
「おばあちゃん! みんなは無事なの!? 一体何があったの?」
「数日前に怖い男たちがやってきてね。『この村にいたはずのオメガの少年はどこだ』って……。お前さんのことを探していたんだよ」
やはりクロヴィス王子の差し金だったのだ。
幸い村人たちに大きな怪我はなかったようだが、彼らの心には深い恐怖が刻み付けられていた。
「申し訳ありません、僕のせいで……」
僕が頭を下げると村長がやってきて、僕たちの前に立った。そしてアシュレイ公爵の姿を認めると、驚いたように目を見開いた。
「もしやヴァインベルク公爵閣下で……?」
「いかにも。この村を襲った者たちに心当たりは?」
アシュレイ公爵の問いに、村長は重々しく口を開いた。
「彼らはリアムの出生の秘密について何か知っているようでした。……公爵閣下、そしてリアム。もうお前に全てを話す時が来たのかもしれん」
村長は僕とアシュレイ公爵を村の奥にある小さな教会へと案内した。そこは僕が赤ん坊の頃に置き去りにされていた場所だという。
教会の祭壇の裏に隠された地下室があった。
村長が古びた扉を開けると、そこには一つの小さな木箱が大切そうに安置されていた。
「リアム。これはお前が赤ん坊の頃、一緒に置かれていたものだ」
木箱の中には一通の古い手紙と、美しい銀細工のペンダントが入っていた。
ペンダントには見たことのない紋章が刻まれている。それは翼を広げた聖鳥のデザインだった。
「その紋章は……!」
アシュレイ公爵が息を呑んだ。
「リンドベル家の紋章だ……!」
やはり彼の推測は正しかったのだ。僕は滅びたはずの聖なる一族の、最後の生き残り。
震える手で僕は手紙を手に取った。それは僕の母親が書いたものだった。
『愛する我が子、リアムへ。
この手紙をあなたが読む頃、私はもうこの世にいないでしょう。
私たちはリンドベル家の血を引く者として、王家の権力争いに巻き込まれてしまいました。あなただけでも生き延びてほしくて、この村にあなたを託します。
どうか強く生きて。あなたの持つ浄化の力は人を癒し幸せにするためのものです。決して争いのために使ってはなりません。
いつかあなたの魂を理解してくれる運命の番が現れることを信じて。
母より』
手紙を読み終えた僕の頬を涙が伝った。
僕には両親がいたんだ。そして僕を愛してくれていたんだ。
今まで感じていた孤独がその事実だけで、少しだけ癒されていく気がした。
「リアム……」
アシュレイ公爵が僕の肩をそっと抱いた。
「お前の母親の言った通りだ。お前の力は誰かを支配するためのものではない。……俺のような者を救うための力だ」
彼の言葉に僕は強くうなずいた。
僕の力が彼の役に立つなら。彼の苦しみを和らげることができるなら。
その時、教会の外が急に騒がしくなった。
「見つけたぞ! オメガはここにいる!」
甲高い声が響く。聞き覚えのある声だ。
「エレオノーラ……!」
アシュレイ公爵が忌々しげに呟いた。
クロヴィス王子は自分が動く代わりに、アシュレイ公爵に執着する彼女を利用したのだ。
教会の扉が蹴破られ、エレオノーラに率いられた武装した兵士たちがなだれ込んできた。
「アシュレイ様! その汚らわしいオメガを、こちらにお渡しくださいな!」
エレオノーラは嫉妬に歪んだ顔で叫ぶ。
「断る」
アシュレイ公爵は僕の前に立ち、腰の剣を抜いた。銀色に輝く剣の切っ先がエレオノーラに向けられる。
「この者は俺が命に代えても守る。俺の、ただ一人の番だ」
はっきりと彼は宣言した。
その言葉は僕の心に熱い勇気の炎を灯した。
僕はもう、ただ守られるだけの存在じゃない。
「公爵様。僕も戦います」
僕は彼の隣に並び、敵をまっすぐに見据えた。
僕に剣を振るうことはできない。でも僕には僕の戦い方がある。
僕は両手を前に突き出し、意識を集中させた。
僕の体から金色の浄化の光が溢れ出す。それは今までで最も強く、眩い光だった。
「これは……!?」
エレオノーラたちがその神々しい光に目を細める。
光は僕とアシュレイ公爵を包み込み、まるで聖なる結界のように僕たちを守った。
「リアム……お前……」
アシュレイ公爵が驚きに目を見開いている。
僕は彼に微笑みかけた。
「行きましょう、アシュレイ様。二人なら、きっと乗り越えられます」
僕の言葉に彼も不敵に笑みを浮かべた。
「ああ。俺たちの未来を誰にも邪魔はさせない」
聖なるオメガと、呪われし公爵。
僕たちの最後の戦いが、今始まろうとしていた。
道中、彼は僕に一つの仮説を語って聞かせた。
「リアム、お前の持つ浄化の力は尋常なものではない。もしかしたらお前はただの平民ではないのかもしれない」
「え……?」
「かつてこの国には『聖なる力』で王家を支えた一族がいたと聞く。その一族は王家の血よりも純粋な浄化の力を持つと言われ、人々から敬われていた。だが十数年前の内乱でその一族は滅びたとされている」
その一族の名前は『リンドベル』。
彼らはその力のせいで権力争いに巻き込まれ、滅びの道をたどったのだという。
「もしお前がそのリンドベル家の生き残りだとしたら、クロヴィス王子がお前を狙う理由も分かる。その力を手に入れ王座を奪うための切り札にするつもりだろう」
僕がそんなすごい一族の生き残り? にわかには信じられない話だった。僕はずっとただの孤児だと思って生きてきたのだから。
「真実は、お前の村に行けば分かるかもしれん」
彼の言葉に僕はごくりと唾を飲んだ。
僕の知らない僕の秘密。それがもうすぐ明らかになる。
数日後、僕たちはようやく村にたどり着いた。
しかしそこに広がっていたのは、僕の記憶にある穏やかな村の姿ではなかった。
いくつかの家は燃やされ、畑は荒らされている。村人たちは怯えた様子で寄り集まっていた。
「ひどい……」
僕が愕然としていると、村人の中から一人の老婆が僕に気づいて駆け寄ってきた。僕の育ての親だったおばあさんの親友だった人だ。
「リアム! まあ、無事だったのかい!」
「おばあちゃん! みんなは無事なの!? 一体何があったの?」
「数日前に怖い男たちがやってきてね。『この村にいたはずのオメガの少年はどこだ』って……。お前さんのことを探していたんだよ」
やはりクロヴィス王子の差し金だったのだ。
幸い村人たちに大きな怪我はなかったようだが、彼らの心には深い恐怖が刻み付けられていた。
「申し訳ありません、僕のせいで……」
僕が頭を下げると村長がやってきて、僕たちの前に立った。そしてアシュレイ公爵の姿を認めると、驚いたように目を見開いた。
「もしやヴァインベルク公爵閣下で……?」
「いかにも。この村を襲った者たちに心当たりは?」
アシュレイ公爵の問いに、村長は重々しく口を開いた。
「彼らはリアムの出生の秘密について何か知っているようでした。……公爵閣下、そしてリアム。もうお前に全てを話す時が来たのかもしれん」
村長は僕とアシュレイ公爵を村の奥にある小さな教会へと案内した。そこは僕が赤ん坊の頃に置き去りにされていた場所だという。
教会の祭壇の裏に隠された地下室があった。
村長が古びた扉を開けると、そこには一つの小さな木箱が大切そうに安置されていた。
「リアム。これはお前が赤ん坊の頃、一緒に置かれていたものだ」
木箱の中には一通の古い手紙と、美しい銀細工のペンダントが入っていた。
ペンダントには見たことのない紋章が刻まれている。それは翼を広げた聖鳥のデザインだった。
「その紋章は……!」
アシュレイ公爵が息を呑んだ。
「リンドベル家の紋章だ……!」
やはり彼の推測は正しかったのだ。僕は滅びたはずの聖なる一族の、最後の生き残り。
震える手で僕は手紙を手に取った。それは僕の母親が書いたものだった。
『愛する我が子、リアムへ。
この手紙をあなたが読む頃、私はもうこの世にいないでしょう。
私たちはリンドベル家の血を引く者として、王家の権力争いに巻き込まれてしまいました。あなただけでも生き延びてほしくて、この村にあなたを託します。
どうか強く生きて。あなたの持つ浄化の力は人を癒し幸せにするためのものです。決して争いのために使ってはなりません。
いつかあなたの魂を理解してくれる運命の番が現れることを信じて。
母より』
手紙を読み終えた僕の頬を涙が伝った。
僕には両親がいたんだ。そして僕を愛してくれていたんだ。
今まで感じていた孤独がその事実だけで、少しだけ癒されていく気がした。
「リアム……」
アシュレイ公爵が僕の肩をそっと抱いた。
「お前の母親の言った通りだ。お前の力は誰かを支配するためのものではない。……俺のような者を救うための力だ」
彼の言葉に僕は強くうなずいた。
僕の力が彼の役に立つなら。彼の苦しみを和らげることができるなら。
その時、教会の外が急に騒がしくなった。
「見つけたぞ! オメガはここにいる!」
甲高い声が響く。聞き覚えのある声だ。
「エレオノーラ……!」
アシュレイ公爵が忌々しげに呟いた。
クロヴィス王子は自分が動く代わりに、アシュレイ公爵に執着する彼女を利用したのだ。
教会の扉が蹴破られ、エレオノーラに率いられた武装した兵士たちがなだれ込んできた。
「アシュレイ様! その汚らわしいオメガを、こちらにお渡しくださいな!」
エレオノーラは嫉妬に歪んだ顔で叫ぶ。
「断る」
アシュレイ公爵は僕の前に立ち、腰の剣を抜いた。銀色に輝く剣の切っ先がエレオノーラに向けられる。
「この者は俺が命に代えても守る。俺の、ただ一人の番だ」
はっきりと彼は宣言した。
その言葉は僕の心に熱い勇気の炎を灯した。
僕はもう、ただ守られるだけの存在じゃない。
「公爵様。僕も戦います」
僕は彼の隣に並び、敵をまっすぐに見据えた。
僕に剣を振るうことはできない。でも僕には僕の戦い方がある。
僕は両手を前に突き出し、意識を集中させた。
僕の体から金色の浄化の光が溢れ出す。それは今までで最も強く、眩い光だった。
「これは……!?」
エレオノーラたちがその神々しい光に目を細める。
光は僕とアシュレイ公爵を包み込み、まるで聖なる結界のように僕たちを守った。
「リアム……お前……」
アシュレイ公爵が驚きに目を見開いている。
僕は彼に微笑みかけた。
「行きましょう、アシュレイ様。二人なら、きっと乗り越えられます」
僕の言葉に彼も不敵に笑みを浮かべた。
「ああ。俺たちの未来を誰にも邪魔はさせない」
聖なるオメガと、呪われし公爵。
僕たちの最後の戦いが、今始まろうとしていた。
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