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第7話「王都の邸宅と、甘くとろけるような準備期間」
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王都への旅路は、リヴィにとって驚きの連続だった。
舗装された広い街道、行き交う煌びやかな馬車、そして遠くに見えてきた王都の威容。
巨大な城壁に囲まれた都市の中心には、天を衝くような白亜の城がそびえ立っている。
「あれが……王城?」
「ああ。だが俺たちの家も負けていないぞ」
ザイラスがリヴィの腰を抱き寄せる。
到着した公爵邸は、リヴィの想像を遥かに超えていた。広大な庭園には美しい噴水があり、屋敷そのものがひとつの城のように巨大だ。
「お帰りなさいませ、旦那様!」
玄関ホールでは、数十人の使用人たちが整列して出迎えた。
その先頭に立つ初老の執事が、恭しく頭を下げる。
「そして、こちらがリヴィ様ですね。お待ちしておりました」
「あ、あの、よろしくお願いします……」
リヴィが緊張して挨拶すると、使用人たちの間にさざ波のような動揺が走った。
田舎のボロボロの服を着たオメガ。本来なら公爵邸の門をくぐることさえ許されない存在だ。彼らの目には、戸惑いと値踏みするような色が浮かんでいる。
リヴィは居心地の悪さに身を縮めた。
(やっぱり、僕なんて場違いだよね……)
その不安を察したのか、ザイラスが鋭い視線を使用人たちに向けた。
「全員、よく聞け。リヴィは俺の命の恩人であり、唯一無二の番だ。彼への無礼は、この俺への反逆とみなす」
低い声に込められた絶対的な威圧に、空気一変する。
「彼が望むことは全て叶えろ。最高の敬意を持って仕えるんだ。いいな?」
「は、はいっ!」
使用人たちが一斉に平伏する。
「さあ、行こうか。まずは旅の汚れを落とすといい」
ザイラスはリヴィをエスコートし、大理石の階段を上っていった。
***
用意された浴室は、村の公共浴場よりも広かった。
バラの花びらが浮かぶ湯船に浸かり、リヴィはほうっと息をつく。
極上の石鹸の香りに包まれ、旅の疲れが溶け出していくようだ。
風呂上がり、リヴィを待っていたのは、目の回るような「準備」だった。
「リヴィ様、お肌の乾燥が目立ちますわ。こちらの特製ローションを」
「髪のキューティクルを整えましょう」
「爪の手入れも忘れてはいけません」
侍女たちが目を輝かせながら、リヴィを磨き上げていく。
最初は戸惑っていた彼女たちも、リヴィの素直な性格と、磨けば磨くほど輝く原石のような美しさに、次第に熱が入ってきたようだ。
「まあ! なんてお可愛らしい!」
「睫毛が長くて、お人形さんみたいですわ!」
数時間後。
姿見の前に立ったリヴィは、自分の姿に絶句した。
滑らかなシルクのシャツに、体にフィットしたスラックス。
ボサボサだった髪は艶やかに整えられ、痩せていた頬には血色が戻っている。
「……これが、僕?」
「ああ、見違えたな」
背後からザイラスが現れ、鏡越しにリヴィを見つめた。
その熱っぽい視線に、リヴィの心臓が跳ねる。
ザイラスはリヴィの背中から腕を回し、耳元に唇を寄せた。
「美しいよ、リヴィ。……このまま部屋に閉じ込めて、誰にも見せたくないくらいだ」
甘い囁きと共に、首筋に吸い付かれる。
「んっ……ザイラス、まだ昼間だよ」
「関係ない。俺はもう我慢の限界だ」
ザイラスの手がシャツのボタンに伸びる。
その時、ドアがノックされた。
「旦那様、王宮からの招待状が届いております。来週の夜会へのご出席要請です」
執事の声に、ザイラスは舌打ちをして離れた。
「……チッ、間の悪い」
リヴィは安堵と共に、少しだけ残念な気持ちを抱きながら、乱れた襟元を直した。
来週の夜会。それはリヴィにとって、社交界という戦場へのデビューを意味していた。
舗装された広い街道、行き交う煌びやかな馬車、そして遠くに見えてきた王都の威容。
巨大な城壁に囲まれた都市の中心には、天を衝くような白亜の城がそびえ立っている。
「あれが……王城?」
「ああ。だが俺たちの家も負けていないぞ」
ザイラスがリヴィの腰を抱き寄せる。
到着した公爵邸は、リヴィの想像を遥かに超えていた。広大な庭園には美しい噴水があり、屋敷そのものがひとつの城のように巨大だ。
「お帰りなさいませ、旦那様!」
玄関ホールでは、数十人の使用人たちが整列して出迎えた。
その先頭に立つ初老の執事が、恭しく頭を下げる。
「そして、こちらがリヴィ様ですね。お待ちしておりました」
「あ、あの、よろしくお願いします……」
リヴィが緊張して挨拶すると、使用人たちの間にさざ波のような動揺が走った。
田舎のボロボロの服を着たオメガ。本来なら公爵邸の門をくぐることさえ許されない存在だ。彼らの目には、戸惑いと値踏みするような色が浮かんでいる。
リヴィは居心地の悪さに身を縮めた。
(やっぱり、僕なんて場違いだよね……)
その不安を察したのか、ザイラスが鋭い視線を使用人たちに向けた。
「全員、よく聞け。リヴィは俺の命の恩人であり、唯一無二の番だ。彼への無礼は、この俺への反逆とみなす」
低い声に込められた絶対的な威圧に、空気一変する。
「彼が望むことは全て叶えろ。最高の敬意を持って仕えるんだ。いいな?」
「は、はいっ!」
使用人たちが一斉に平伏する。
「さあ、行こうか。まずは旅の汚れを落とすといい」
ザイラスはリヴィをエスコートし、大理石の階段を上っていった。
***
用意された浴室は、村の公共浴場よりも広かった。
バラの花びらが浮かぶ湯船に浸かり、リヴィはほうっと息をつく。
極上の石鹸の香りに包まれ、旅の疲れが溶け出していくようだ。
風呂上がり、リヴィを待っていたのは、目の回るような「準備」だった。
「リヴィ様、お肌の乾燥が目立ちますわ。こちらの特製ローションを」
「髪のキューティクルを整えましょう」
「爪の手入れも忘れてはいけません」
侍女たちが目を輝かせながら、リヴィを磨き上げていく。
最初は戸惑っていた彼女たちも、リヴィの素直な性格と、磨けば磨くほど輝く原石のような美しさに、次第に熱が入ってきたようだ。
「まあ! なんてお可愛らしい!」
「睫毛が長くて、お人形さんみたいですわ!」
数時間後。
姿見の前に立ったリヴィは、自分の姿に絶句した。
滑らかなシルクのシャツに、体にフィットしたスラックス。
ボサボサだった髪は艶やかに整えられ、痩せていた頬には血色が戻っている。
「……これが、僕?」
「ああ、見違えたな」
背後からザイラスが現れ、鏡越しにリヴィを見つめた。
その熱っぽい視線に、リヴィの心臓が跳ねる。
ザイラスはリヴィの背中から腕を回し、耳元に唇を寄せた。
「美しいよ、リヴィ。……このまま部屋に閉じ込めて、誰にも見せたくないくらいだ」
甘い囁きと共に、首筋に吸い付かれる。
「んっ……ザイラス、まだ昼間だよ」
「関係ない。俺はもう我慢の限界だ」
ザイラスの手がシャツのボタンに伸びる。
その時、ドアがノックされた。
「旦那様、王宮からの招待状が届いております。来週の夜会へのご出席要請です」
執事の声に、ザイラスは舌打ちをして離れた。
「……チッ、間の悪い」
リヴィは安堵と共に、少しだけ残念な気持ちを抱きながら、乱れた襟元を直した。
来週の夜会。それはリヴィにとって、社交界という戦場へのデビューを意味していた。
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